“新会議に山中教授”への懸念 コロナ対策の政治利用が加速も

【新型コロナウイルス】専門家会議を廃止 『新会議に山中伸弥教授』で政治利用の懸念

記事まとめ

  • 西村康稔経済再生相が、新型コロナウイルスの専門家会議が廃止される旨を発表した
  • 新たに分科会と二つの有識者会議が設置され、山中伸弥教授も会議の構成員に選ばれた
  • しかし、山中教授は感染症の専門家ではなく、政治利用されかねないと懸念されている

“新会議に山中教授”への懸念 コロナ対策の政治利用が加速も

“新会議に山中教授”への懸念 コロナ対策の政治利用が加速も

山中伸弥教授

 感染症の抑え込みを最優先し、政策を事実上、専門家会議に丸投げしてきた安倍政権だが、経済を動かしはじめた途端、頼りきってきた会議の解散を決めた。荷が重いという声は専門家からも上がっていたが、ぼろ雑巾のような使い捨てには怨嗟の声も滲む。

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 6月24日、西村康稔経済再生相は専門家会議(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議)が廃止される旨を唐突に発表した。時を同じくして開かれていた専門家会議の会見で「専門家会議が政策を決めているかのような印象を与えてしまった」「政府と専門家との役割分担を明らかにすべき」という旨の提案が行われていた最中のことだった。

 そもそも、専門家会議が政策を決めている印象が強かったのは、「8割おじさん」こと、北海道大学の西浦博教授が示した数理モデルの影響が大きかった。西浦教授は専門家会議のオブザーバーだが、なにもしなければ42万人が死ぬ、との試算は、個人で発表したという建前になっている。だが、もちろんそうは受け取られなかった。専門家会議の構成員であり、厚労省クラスター対策班の一員でもある東北大学大学院医学系研究科微生物学分野の押谷仁教授が言う。

「尾身先生から、西浦さんが試算を公表する可能性があると聞いたのは前夜。当日朝電話したが西浦さんは出ず、僕は新橋のスクリーンであの推計値が発表されたのを見ました。試算の公表には反対でした。日本よりはるかに人口が多いアメリカの試算でも、死者は最大20万人とされていたのに、42万人は多すぎる。基本再生産数を2・5としていたが、ああいうモデルは被害想定を大きくしようと思えば、どこまでも大きく出せる。この感染症の実態にいまの数理モデルは合わないと思います。僕が目指してきたのは死亡者を千人以下にすることで、現状超えていません。数万人が死ぬという試算ならともかく、あまりに現実とかけ離れた数字を出すと、そんなに死亡者が出るなら細々とした対策など意味がないのではないかと、人々が逆に対策をあきらめる方向に動く危険性があるのです」

 ところで押谷教授は、いま専門家会議を検証することには、「必ずしも賛成ではない」として、

「東京やその近郊で、一度底を打った感染者が増えている。まだなにも終わっていないのに、振り返りだけをしていていい段階ではありません」

 と語る。マスコミを避けてきた押谷教授の見解を聞ける好機なので、もう少し話を続けてもらおう。

「“夜の街”を介して広がっているのはたしかで、特に注意が必要なのは女性です。男性すなわちホストは、専業が多いのでまだ見つかりやすい一方、女性は兼業も多く、そういう店で働いていること自体を隠している人、検査を受けたくない人も多いでしょうから、感染の実態が見えにくい。でも、シングルマザーでお子さんを養っている人もいるでしょうし、夜の店を営業停止にすればよいというものでもありません。それに営業を止めれば地下に潜り、実態がもっとつかみにくくなる。だから、この問題は本当に難しいのです」

 政府はこうした問題を引き継げるのだろうか。新しい分科会への期待をこめ、専門家会議メンバーである東京大学医科学研究所公共政策研究分野の武藤香織教授もこう述べる。

「人文、社会科学系の有識者も政策提言に関与できるようにしてもらいたい。特措法や感染症予防法、個人情報保護法に関する法令など、運用して浮上した問題の整理と改正が急がれます。また介護施設や夜の街など、感染リスクの高い職場で働く人々や利用者をどう守るか、感染者の情報をいつまでにどう公表するか、偏見や差別をどう防ぐか、などの社会的課題が山積しているためです」

 さて、政府と専門家会議のいびつな二人三脚を、東京大学特任講師(科学コミュニケーション)の内田麻理香さんが総括する。

「本来、リスクの程度を評価するのが専門家の役割で、リスクに対し具体的な政策を打ち出すのが政治の役割です。その点、専門家会議は前のめりになったといいますが、致し方ないところがあります。安倍総理は経済を重視し、東京五輪の延期が決まるまでは具体策を示さなかったし、インバウンドや日中首脳会談への期待もあり、感染症対策に力を入れてこなかった。専門家会議は危機感をもって2月24日、会見に挑んだのだと思います」

 当然、対応に消極的な政府に批判が集まったが、

「すると安倍総理は、専門家会議から出されたものではなく科学的根拠の乏しい一斉休校を発表。批判が集まると、今度は専門家会議の発信に任せるようになった。その後、政府は専門家会議を弾除けのように使ってきた側面があります。経済と医療をどう両立させるかというイメージを、政府は示すべきでしたが、経済と医療が対立したまま、いまに至ってしまいました」


■政治利用されかねない


 重い公的役割を背負った専門家会議が、厳しい論評の対象になるのは当然だろう。それにしても、彼らへの慰労や謝意がまるで聞かれないのは奇妙だが、今後はどうなるのか。廃止される専門家会議は、法的根拠があいまいだったが、新たな分科会は特措法にもとづく有識者会議の下部組織と位置づけられ、地方自治体の首長や危機対応の専門家なども加わるという。

 法的根拠が不明瞭だと問題が生じるようで、専門家有志の会の一員、早稲田大学の田中幹人准教授(科学技術社会論)が説明する。

「責任の所在があいまいになるのに加え、メンバーが受ける嫌がらせの問題があります。たとえばおよそ専門家会議の助言と関係ないことについて、訴訟をちらつかせ、理屈の通じない脅迫をしてくる人もいます。こうしたときに法的根拠が明確でないと、守ってもらえない、提訴されても専門家が自分で訴訟対応するしかなく労力を割かれる、などのリスクがあります」

 だが、日本医科大学特任教授の北村義浩医師は、懸念してこう語る。

「公衆衛生の専門家は、ロックダウンを主張し、経済の専門家は、コロナ弱者の老人を隔離し、若者は経済を回すんだ、と訴えるなど、メンバーの間でも意見が分かれるはず。意見が一致するわけがないので、分科会が“前のめり”で会見するようなことは99・9%起きないでしょうけど」

 加えて、政府は二つの有識者会議も設置した。AIを使って飛沫経路をシミュレーションし、感染防止策を検討するもの。それから、AIを使ってこれまでの感染症対策の効果を検証するものだ。現在、異論が噴出しているのは、国民に人気の高いiPS細胞の山中伸弥教授(57)が構成員に選ばれた後者に対して、北村医師が言う。

「メンバー4人のうち、黒川清政策研究大学院大学名誉教授は、東日本大震災のとき東電福島原発事故調査委員会の委員長を務めましたが、腎臓病の専門家。京大の山中教授もそうですが、感染症の専門家でも、リスク管理の専門家でもない。彼らの検証結果を受け入れなければならないとしたら、不安です」

 内田さんも訴える。

「山中教授はご自身で“感染症の素人ですが”とおっしゃっていますが、一般の人から見るとノーベル賞を受賞した科学者。一般の人にとっては専門家らしく見え、実際には感染症対策の専門家ではない人がメンバーに据えられ、新型コロナ対策が政治利用されかねない状況です」

 政権に都合のいい意見を言わせるということか。山中教授に対する、さる感染症専門医の話を紹介する。

「山中先生は自身がマラソンをするので、ランナーにマスク着用を呼びかけていますが、初夏のランニングでマスクをせず感染したりさせたりするリスクと、マスクをして体調を崩すリスクを比較したら、後者のほうが圧倒的に危険です」

 有識者会議で、そういう見識にもとづく提案が行われたらどうなってしまうことか。専門家会議が前のめりすぎたとしても、こうしたポピュリズムと一線を画していただけ、価値があったとは言えまいか。

「週刊新潮」2020年7月9日号 掲載

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