歌舞伎町ホストクラブは店名非公表、鹿児島ショーパブは公表、コロナ感染でなぜ自治体の対応は違うのか

新型コロナウイルスのクラスター巡る店名公表は自治体によって差 異論の声相次ぐ

記事まとめ

  • 鹿児島市のショーパブ「NEWおだまLee男爵」でのクラスター発生は店名が公表された
  • 福岡市の会員制スナックや東京都のホストクラブなどは公表されず、異論の声が相次いだ
  • 東京都は「情報を公表した場合のリスクも併せて考える必要があります」と説明した

歌舞伎町ホストクラブは店名非公表、鹿児島ショーパブは公表、コロナ感染でなぜ自治体の対応は違うのか

歌舞伎町ホストクラブは店名非公表、鹿児島ショーパブは公表、コロナ感染でなぜ自治体の対応は違うのか

歌舞伎町一番街

■SNSでも疑問の声


 読売新聞・西部版が7月6日の朝刊に掲載した「新型コロナ 福岡のスナック クラスター発生」には興味深い記述がある。主要部分を引用させていただく。

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《鹿児島県では13人の感染が判明。いずれもクラスター(感染集団)が発生した鹿児島市のショーパブ「NEWおだまLee男爵」絡みで、11人が客、残りの2人が客の濃厚接触者などだった。同市などによると、同店に関わる感染者は80人を超えており、厚生労働省のクラスター対策班が今後、感染経路などを調査する》

《福岡市では6人の感染が判明し、このうち男女4人(20〜50歳代)は福岡市中央区の会員制スナックの利用者だった。この店ではこれまでに客ら3人が感染しており、市はクラスターが発生したと認定した。また、別の20歳代女性は「NEWおだまLee男爵」の客の濃厚接触者の友人という》(註:全角数字を半角数字に改めるなど、デイリー新潮の表記法に従った。以下同)

 2軒の店が記事に登場する。1軒が鹿児島市のショーパブ「NEWおだまLee男爵」で、もう1軒が福岡市の《会員制スナック》だ。

 一方は店名が公開され、他方は匿名となっている。「NEWおだまLee男爵」の店名を報道したのは読売新聞だけでない。朝日新聞や産経新聞、共同通信、九州のブロック紙である西日本新聞、もちろん地元紙の南日本新聞も明記した。

 一体、この差はどこにあるのだろうか。どうも地方自治体によって、公表内容が違うようなのだ。次にご覧いただきたいのは時事通信が7月7日に配信した「東京で新たに106人感染 6日連続3桁―新型コロナ」の記事だ。

《都によると、106人中、23人は接待を伴う飲食店などの「夜の街」関連で、34人は感染経路が全く分かっていない。年代別では20代(43人)と30代(27人)で7割近くを占めている。累計感染者数は6973人》

 この記事はYAHOO!ニュースにも転載され、7月10日現在、5236件のコメントが投稿されている。最も共感を呼んだものをご紹介しよう。

《これだけ感染をさせまくっているのに、なぜ店名公表と営業停止を行わないのでしょうか? ホスト・キャバにそこまで気を使う必要があるのでしょうか? まったく意味不明です》(註:改行を省略するなどした。以下同)

 東京都内では「夜の街クラスター」が猛威を振るっている。その結果、少なくともSNS上では「ホストクラブやキャバクラの店名を公開すべきだ」という意見が圧倒的に多い。

 公開を求める投稿する際、「NEWおだまLee男爵」の店名を使ったツイートもあった。時系列でご説明しよう。

 発端はNHKの報道だった。同社のニュースサイトNHK NEWS WEBは7月7日、「東京 秋葉原 メイドカフェの従業員 感染確認12人に 新型コロナ」との記事を配信した。

《従業員の感染が明らかになったのは、東京・千代田区にあるメイドカフェ、「@ほぉ〜むカフェ」の「秋葉原本店」と「秋葉原ドンキ店」です》

 記事では店名が明記されている。NHKが独自取材に基づいて報じたことも大きい。だが、SNS上ではホストクラブやキャバクラの“対比”から、異論の投稿が少なくなかった。


■5つの自治体に取材


《どうしてメイドカフェは店名報道されるのに、ホストクラブは店名報道されないんだろう?》

《コロナ感染、、夜の街関連と一括りで責めない為に、鹿児島のおだまりLee男爵のように店名を公表すべきだ。新宿、池袋、横浜、大宮など感染が確認されたホストクラブ名を公表すべき!》

 医療機関名は報道されることに注目したツイートもある。これも引用させていただこう。

《感染者でたら病院名は出るのになんでホストクラブは店名出ないんだよ》

 ご記憶の方も多いだろうが、東京都は病院名を公表したことがある。NHKが3月24日に報じた「感染拡大 都内で1日最多の感染者数 10代〜70代の男女計17人 新たに1人死亡」からご覧いただく。

《東京都は今夜(24日)、記者会見を開き、10代から70代の男女あわせて17人が、新たに新型コロナウイルスに感染したことを確認したと発表しました。このうち2人は、台東区にある永寿総合病院(えいじゅ)に勤める30代の看護師の女性と、60代の患者の女性だということです。この病院では、きのう(23日)も70代の男性患者2人の感染が確認されていて、このうち1人が、きょう、死亡したということです》

 一体、地方自治体は公表に際して“規準”のようなものを作っているのだろうか。そこで北海道庁、東京都庁、神奈川県庁、愛知県庁、大阪府庁に取材を申請した。

 その際、文書で【1】医療機関は名前が公表されているケースが目立つ、【2】日本テレビやNTTデータなどの有名企業は自ら発表した、【3】飲食店、アルコールを提供する店、ホストクラブ、キャバクラ、風俗店などは店名が公表されないケースが多いような印象が強い――この3点を考慮した回答を依頼した。

 なお、保健所は都道府県や政令指定都市、中核市などに設置される。そのため、北海道なら札幌市、神奈川県なら横浜市、愛知県なら名古屋市といった自治体は都道府県とは異なる規準・判断で公表を行っている。

 その上で、まずご紹介したいのは、愛知県による文書の回答だ。同県は《県としての基準はない》とし、国の基本方針に準じていると説明する。

《厚生労働省が「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針 令和2年2月27日付け事務連絡」において、新型コロナウイルス感染症についても基本方針を参考として情報公表するよう方針を示しているため、県としても原則その方針に則り公表を行っている》

 これに近い方針を取っているのは北海道、神奈川県、大阪府だ。この基本方針はネット上にもアップされている。閲覧すると、例えば《感染者情報》の場合は、公表する情報として《居住国 年代 性別》などを挙げ、公表しない情報は《氏名 国籍 基礎疾患 職業 居住している市区町村》と定義している。

 更に《感染者等に対して不当な差別及び偏見が生じないように、個人情報の保護に留意しなければならない》と注意を促している。


■東京都は独自路線


 公表の内容が大きく変わるのは、《感染者に接触した可能性のある者を把握できている場合》と《把握できていない場合》だ。

 前者の場合であれば、病院だろうが有名企業だろうが、ホストクラブでもキャバクラでも名前は公表されない。感染を封じ込めているため、具体的な情報を出して注意喚起する必要がないという判断だ。

 問題は後者の場合だ。厚労省はクラスター感染の定義を「5人以上」と定めている。例えば、事務所や店舗から10人の感染者が発生し、更に拡大が懸念される場合、自治体は名称の公表を検討しなければならない。

 鹿児島県の「NEWおだまLee男爵」は、この代表例と言えるだろう。感染者は80人を超え、人気店のため県外からの来客も多い。依然として経路などが分かっていないこともあり、店名を公表したのだ。

 公表に伴い、鹿児島市が判明していない来客に対し、検査を呼びかけた事実も報道されている。

 読売新聞の西部版が7月3日に報じた「新型コロナ 県内の感染者21人に 8人は同一飲食店に勤務=鹿児島」からご覧いただこう。

《市は県を通じて厚生労働省クラスター対策班の派遣を要請した。また、6月13〜29日にかけて同店を訪れた人に帰国者・接触者相談センターへの連絡を呼びかけている》

 その結果は、朝日新聞が4日、鹿児島県版などに掲載した「県と鹿児島市、緊急対策会議 新型コロナ /鹿児島県」に紹介されている。

《市が最近の利用客らに相談するよう呼びかけた結果、2日だけで130件、3日も多くの連絡が寄せられているという》

 クラスター感染でなくとも、公表を行ったのが大阪府だ。3月1日に朝日新聞が報じた「大阪、感染3人同じライブに 新型肺炎」からご紹介しよう。

《吉村知事は29日夕に開いた会見で、ライブハウスの名前を公表したことなどについて「15日のライブでコロナの感染が広がったとみるべきだ。密閉された空間で多くの人が身近にふれあう。さらに感染クラスターが広がらないように発表する」と説明》

 記事の見出しにもある通り、この時点で感染者は3人。クラスターには該当しない。改めて大阪府がメールで行った回答を見てみよう。

《ライブハウスの時は、公表せずに、来場者に連絡をとることができない状況でしたので、より少ない人数でも、公表という判断になりました》

 だが、店名公開を阻むハードルが存在するのは事実だ。愛知県の回答文書には《社会的影響等も考慮し、施設名の公表にあっては、原則、施設の了解が得られた場合としている》とも明記されている。

 もしキャバクラやホストクラブで、5人以上のクラスター感染が発生したとする。来客者全てを把握していない場合、更なる感染拡大が懸念される。その場合、自治体は店名の公表を検討するはずだ。

 しかし、職員が店の了解を求めても、拒否されたらどうするのか。北海道、神奈川、愛知の3道県で「ホストクラブやキャバクラの店名公開の必要が生じたが、拒否された」という実例は存在しない。その上で仮定の質問を行った。回答は以下の通りだ。

 北海道《仮定の質問にはお答えできない》、神奈川県《公表を納得してもらえるよう、説明に全力を尽くす》、愛知県《仮定の質問にはお答えできない》。一方、大阪府の場合は店舗名の公表を拒まれたケースがあるという。

 東京都は、独自色の強い方針を掲げているようだ。担当者は「会社名や店名の公表については、個人のプライバシーに十分配慮すると共に、その情報を公表した場合のリスクも併せて考える必要があります」と説明する。

「病院の名前を広報したのは、公共性の高い施設だからです。外来患者の方もいらっしゃいますし、入院患者のご家族もおられます。特に院内感染が発生したわけですから、病院名を広報することで、都民の皆さまに注意喚起をお願いしたわけです」

 有名企業は自ら広報するケースも少なくないのは、先に見た通りだ。その上で東京都は、「感染の蔓延防止と個人のプライバシー保護などとのバランスを取りながら公表しております」と言う。

「特にホストクラブやキャバクラの場合、店名を公開すると、SNSなどで誹謗中傷が起こることが考えられます。『新宿エリアのホストクラブでクラスターが発生しました』という広報内容を伝えることによって、充分、都民の皆さまへの注意喚起につながると考えています」

 歌舞伎町のホストクラブで、たとえ100人の感染者が出たとしても、店名は広報されないということになる。

週刊新潮WEB取材班

2020年7月14日 掲載

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