テレワーク「生産性向上」のウソ 過剰な成果主義が招く「大量クビ切り時代」

 コロナの感染拡大を受け、多くの企業で一般的になったテレワーク。緊急事態宣言解除後はオフィスへ回帰する傾向もあるが、近ごろの感染者の急増を受け、再びテレワークに戻し始めている企業も多いだろう。しかし、テレワークは感染拡大の防止や出勤時間の節約というメリットを持つ一方、生産性を上げるのが難しいというデメリットも抱えている。

 ***


■「生産性は落ちる」


 テレワークが話題になると、付随して語られるのが生産性の向上だ。“推進派”曰く、通勤や無駄な打ち合わせが減る分、生産性が上がると主張するのだが……。

 博報堂出身で、退社してから19年もテレワークで仕事を続けるウェブニュース編集者の中川淳一郎氏は異論を唱える。

「テレワークでは生産性は落ちると思いますよ。上司の監視がなければやりたい放題となって、勤務時間に自宅でエロ動画を見ている人、絶対いますよ」

 では、ご自身は19年もの間、生産性が落ち続けたのかといえば、

「私のような編集者、ライターは守るべき原稿などの締め切りがありますから、とりあえず目の前のことをやらなくてはならない。しかし、博報堂のような一般企業だと、“明日の午後イチくらいに頼む”というような適当な発注がまかり通る。間に合わなくても、1日や2日のずれは大したことないわけです。タイムマネジメントできない人の生産性が落ちるのは当然です」

 人事ジャーナリストの溝上憲文氏は生産性の低下は数字にも表れていると言う。

「公益財団法人の日本生産性本部が5月に1100人を対象に行ったアンケートによれば、在宅勤務で効率が『下がった』と答えた人が66・2%を占めました。テレワークに慣れてきた7月の調査でも半数が下がった、と回答しています」

 アンケートでは、自宅の通信環境の整備や職場でないと閲覧できない資料やデータがあることをテレワークの課題としているが、

「経理や営業など、会社でしか扱えないハンコや重要書類をベースに仕事をする人が在宅勤務を強いられたことも数字を押し上げたのでしょう。また、自宅では自己管理が難しく、集中力を維持できないことも一因。会社にいれば上司がいることで集中力を発揮しやすいですから」(同)

 緊急事態宣言下の自粛期間において、自宅でのZoom会議に子どもが割り込んでくる、妻から小言を言われて仕事にならない、といったことは日常茶飯事だった。難儀を感じた人は少なくないはずだ。


■リストラ候補者の顕在化


 企業でも生産性の低下については、問題意識を抱えている。例えば、緊急事態宣言解除後、「原則出社に戻した」と報じられた伊藤忠商事の広報担当者は、

「段階的に社員の出社体制を戻していましたが、今の感染状況に鑑みて出社率50%を目途に在宅勤務をすることになりました」

 とした上で、

「社員には在宅勤務に必要なリテラシーが備わっているとはいえ、テレワークによる生産性の低下は課題だと感じています。取引先によっては営業を対面でやらなくてはいけない場面もあります。例えば、弊社は生活消費関連の企業との取引も多く、スーパーやコンビニなどで取引先の従業員の方と同じ場所に立って、打ち合わせをする必要がありますから」

 生産性の低下の理由の一つとして、テレワークでは“社内のコンセンサスを得るのが難しい”と指摘する声は多い。

「社内の問題解決や意思決定の局面では、テンポよく会話できないビデオ会議では良い議論ができず、判断スピードが落ちるのは否めません」(人材研究所代表で人事コンサルタントの曽和利光氏)

 その点、30年以上にわたり「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)で侃々諤々の対面議論を繰り広げてきたジャーナリストの田原総一朗氏も同調するのだ。

「僕も『朝生』や『激論!クロスファイア』(BS朝日)をオンラインで収録して思ったのは、議論ができないということです。各々が言いたいことを言って、他の人がそれを聞くことはできても、誰かの話に割って入ることができなくなる。議論はやはり、Face to Faceでなくてはできません。それは誰しもが感じているのではないでしょうか」

 企業においても、

「日常的な仕事はテレワークでできても、営業で売り込んだり、勝負をかけるビジネスシーンではFace to Faceでなければ熱意も伝わらないのでは。テレワークには、会社で過ごす時間が減って生活の質が上がるというメリットもありますが、時にはFace to Faceも必要です」(同)

 オンラインだと話が弾まず、議論が盛り上がらない。それで良いアイデアが出るわけがあるまい。

 あるいは、こうした問題はさておき、先進的な働き方をまず導入することこそ重要だ、これからはテレワークの時代だ、と主張する経営者もいるかもしれない。

■“大量クビ切り時代”


 しかし、テレワーク導入で人事担当者を悩ます難題となるのは、人事評価だ。それに伴い、リストラ候補者が顕在化する。「大量クビ切り時代」が到来しかねない状況が生まれるのである。

 先に登場した人事ジャーナリストの溝上氏は、

「日本の企業では業績評価と行動評価の二つを組み合わせて、賃金や昇格を決めてきました。業績評価では成果物などで定量的に評価し、行動評価では勤務態度や仕事のプロセス、チームワークを発揮する上でどういう役割を果たしたか、などが評価の対象になります。ところが、このコロナ禍で社員の動きが見えなくなり、行動評価をしづらくなってしまったのです。すると、目に見える成果物、数字で評価をする方向に偏りやすくなります」

 そこで最も煽りを受けるのは、いわゆる「働かないおじさん」である。なんとなく会社にはいるけれど、何か成果を生み出しているとは思えないベテラン社員のことだが、

「例えば、彼らは飲みニケーションや休日のゴルフを通じて、上司からは悪い奴ではないと思われている。ただ、テレワークが進み業績評価に偏りだすと、成果を生み出さない社員と単純に評価されることになります」(同)

 社員の能力差はオンライン会議の席で露見する、と溝上氏は続ける。

「Zoom会議ではリアルの会議と違って、誰かが話し出すとほかの人は黙って聞いている。ある企業の副社長に聞くと、オンラインだとそれぞれが意見表明するので、“普段はおとなしいけれど深く物事を考えている”社員がよく見えるそうなんです。逆に“課長のおっしゃる通りですね!”と普段から相槌ばかり打っている人が、実は意見を持たないだけだということもわかってしまう」


■必要な人材が低評価に


 単純に、“仕事をしない社員”が可視化されるだけならまだしも、問題は、成果主義に陥ることで、本当に必要な人材までが低評価となってしまうことである。

「チーム内でのリーダーシップや後輩や部下への指導力、成果の出やすい短期案件だけでなく、中長期的な案件も準備している、などといった数字に表れにくい評価がしづらくなってしまうのです」(同)

 前出の中川氏は“ムードメーカー”が評価され活躍する場がなくなる、とこう言う。

「どの会社にもムードメーカーや取りまとめ役など、組織で必要となる存在がいます。そうした人を成果だけで排除するのには疑問を感じます。例えば、今年、プロ野球のロッテがベテランの鳥谷敬選手を阪神から獲得しました。井口監督との信頼関係とか、若手にとっての手本となることなど、所属させる意義は多くあります。それと同様です」

 高い評価を受けるのはホームランを打てるバッター、得点を奪えるフォワードばかり。それでは、似たような人材ばかりが揃い、総合力に劣る薄っぺらい組織になりはしないか。


■「企業が冷徹になれる時代」


 さらに、各企業がテレワークを導入し、成果主義に傾く中で注目されているのは、雇用の形態だ。

 従来の日本企業の雇用方法は「メンバーシップ型」と言われる。採用したら数年ごとに異動を繰り返して各部署を経験させ、一人前の社員に育てていく。仕事のプロセスを重視し、いわば会社の仲間として雇用する。

 対して、欧米などでは「ジョブ型」雇用が一般的だ。

 これはジョブ・ディスクリプションと呼ばれる職務記述書で仕事内容や報酬を予め明確にし、採用する方法。プロフェッショナルな人材を採るため、基本的に異動はなく、昇給もない。報酬を上げるには、職責の重い上のレベルの職務に就かなければならない。

「メンバーシップ型では成果を上げていなくても、仕事の過程や勤務態度も評価に加味されます。しかし、テレワークではそれらが見えなくなるので、ジョブ型にしてはどうか、となるわけです。やるべき仕事をきちんとできたか、で評価されるので、成果主義と相性がいい」(曽和氏)

 実際、テレワークを推進する企業ではジョブ型で採用するところが少なくない。

 例えば、富士通は、

「国内グループの幹部社員約1万5千人を対象にジョブ型人事制度を導入しました」(広報)

 各企業が成果主義に重きを置き、その上コロナ禍で業績悪化の煽りを受ければどうなるか、容易に想像はつく。


■バブル崩壊後と同じ轍


 中川氏が指摘する。

「多くの企業の売り上げ下がる中、評価の低い社員に対して言い出しづらかった“戦力外通告”が言いやすくなっています。コロナを大義名分として、企業が冷徹になれる時代になったのです」

 バブル崩壊後と同じ轍を踏むことになる、とは前出の曽和氏。

「日本企業はバブル崩壊後、90年代から2000年代初頭にかけ、成果主義を導入する企業が増えていきました。しかし、人事評価法などへの不満から、社員同士のチームワークが崩れ、組織が弱体化しました」

 当時、リストラの嵐が吹き荒れたのもご記憶だろう。

「結果、従来の人事評価へ戻した企業も少なくありませんでした。いま、安易にテレワークやジョブ型、成果主義へ移行すれば、日本企業が得意とする社員同士の助け合い、サポート機能が弱くなってしまう。ただでさえコロナ禍が直撃する中、結果として業績悪化、リストラが続出することにもなりかねません」(同)

 テレワーク導入から、成果主義への傾倒、そして大量クビ切りへ――。

 実際、東京労働相談センターでは相談が増えており、

「テレワークのスキルがないために会社を解雇された正社員や、業績悪化のため契約を一方的に打ち切られた派遣社員などの相談が複数寄せられています」(センター所長)

 生産性向上の美名の下、推進が喧伝されるテレワーク。しかしその実、かように日本企業にとっても、サラリーマンにとっても、デメリットが多すぎる。

 感染拡大で緊急避難的にテレワークを実施することには意味があるに違いない。ただ、アフターコロナでも導入を続けるか、多くの企業は迷っているのが実情ではないか。

 自由な働き方を享受する一方で、失われるものもまた多い。“がんばらない”方向に本当に舵を切るのか、熟考が必要である。

「週刊新潮」2020年8月6日号 掲載

関連記事(外部サイト)