ワインの「価格に騙されない」選び方、夏にガブガブ飲みたい「ロゼ」のお薦め

■ブルゴーニュはここ20年で畑の価格自体が高騰しているが


 多くの人の思いとは裏腹に自由を謳歌できる夏は来そうにない。そして、相変わらずやり玉に挙げられる夜の外食。まだまだ家飲み中心の生活は続く……というわけで今回もまた、美味しいワインに出合える精度を上げるコツとこの時期にチャレンジして欲しいワインを。銀座のワインバー店主・幅紀長がお伝えする。

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 今回お伝えしたいのは「価格に騙されない」ということです。ワインの価格を決める要素はいくつかあります。当然ですが、生産全般に関わるコストが高ければ元々の蔵出し価格は高くなります。化学薬品に頼らず自然を尊重した栽培・醸造をするために丁寧な作業をし、手間暇をかければ人件費も高くなる。

 さらにブルゴーニュに関しては、ここ20年で畑の価格自体が高騰しているということがワインの価格に非常に大きな影響を与えています。つまり、生産者は相続税対策で値上げせざるを得ない状況となっているのです。また近年の気候変動の影響もありますね。霜や雹が以前とは桁違いの被害をもたらし、生産量の大幅減少からの値上げもある。

 そうは言っても、価格決定に最も影響を与えているのは需要と供給の関係なんですよね。プレミアなしにその価格はあり得ないというワインがわんさかあります。世界中の多くの人が手に入れたがっているワインは、値上がりし続けても買う人がいる。なぜそこまでして人が手に入れたいのかといえば、だいたいがそこにストーリーがあるから。

 飲んでみたい手に入れたいと思わせるストーリーや、そのワインや造り手の価値を物語る逸話。そういうものがあるワインは高くなります。真の価値を有するものも一部にはありますが、高額ワインの大部分がそんなもんです。

 中にはそれらのワインができる「隣の畑」で作られた葡萄を使っているということで、付加価値が付けられたものも存在します。隣じゃダメなんですか?  はい 隣じゃダメなんです。これなんて完全に販売側の戦略です。

■価格が美味しさを保証してくれない飲み物


 それがワインといえばワイン。なので幸か不幸か、ワインは価格が必ずしも美味しさを保証してくれない飲み物なのです。というわけで、高いワインを買ったり飲んだりしても残念な結果となる可能性は大いにある。いろいろとその理由はあると思います。高いだけのワインもありますし。そもそも美味しさというもの自体が極めて主観的なもの。

 自分自身の好みに合わないワインだったというケースも考えられます。ただご安心を。経験とともに好みの幅は広がっていきます。残念ではありますが、次に繋がる失敗です。失敗を重ねて自分の好みのワインがどういうものなのかが分かってきますし、いろいろなタイプのワインを許容し、その個性を楽しめるようにもなっていくのです。

 ワインはお酒の中でも、特に味わいや香りの多様性に富んだ飲み物です。味わいのグローバル・スタンダード化が進む現在では、醸造技術や設備の進化からある程度、似通った味わいのワインが多く流通しています。一方で、その土地に由来する独特の個性やあまりに強烈な特徴を持つ葡萄から造られた風変わりなワインも決して多くはありませんが、存在しています。

 そういうワインに初めて出合った場合、知らず知らずのうちに拒絶し心を閉ざしてしまうこともあります。強い個性にいきなりガツンとハートを鷲掴みにされたという人もいるかもしれませんが、誰しも経験したことのない香りや味わいだと面食らうことはある。そのため、そのワインならではの特徴を楽しめないということは結構起こりうるのです。逆にその経験が次に繋がり、その強いクセがたまらなく好きになってしまうなんてこともよくあります。

 次に考えられるのは、そのワインが飲み頃ではなかったというパターン。カジュアルな価格のワインでは飲み頃など気にせずとも美味しく飲める場合が多いのですが、高価でワイン自体のポテンシャルが高いと、飲み頃になっていないと味わいも香りも物足りなく感じられる場合があります。

 2000年代に入り、フランスワインの造り手は「早飲み」を意識して造る傾向が強まっていますが、それでも数年あるいは10年以上待たなければ真価を発揮してくれないワインもある。実に厄介です。せっかくいつもより奮発したのに美味しくないなんて、ワインってヒドイ飲み物でしょ。結構、裏切るんです。でもやめられない。ついついまた奮発しちゃってる。不思議なものです。

■ロゼワインのもつ色が最も美しく輝くのは自然光だから


 それに価格が全てじゃないからこそ、ワインを選ぶ楽しみも増すと思いませんか? 美味しいワインを楽しむために必要なことが財力だけだったらつまらない。センスが磨かれた人には、それぞれの予算の中で多くの美味しいワインと出合えるチャンスがある。そこにワインの一つの楽しさがあると思うんです。

 そして何よりも、仮に美味しいと思えなかったとして、それらがちゃんと温度管理されていたかは重要。温度管理とは厳密に言えば今現在だけではなく、ワイナリーから今に至るまでの間ずっとです。販売する時だけ温度管理していても意味がない。流通過程がどうなっているかは多くの方には分かり難いと思いますが、これも経験を積めば少しずつ信頼できるルートというものが分かってくる。

 高価なワインが本当にストーリー由来のプレミアだけなら、そのバブルはとっくに崩壊しています。全ての高額ワインがそうではありませんが、その金額に見合った唯一無二の体験をさせてくれるものがあるからこそ、その事実を知っている人はまた飲みたいとなるわけです。

 さて、この季節に選ぶとしたら何か。太陽が似合うワインということで、やはりロゼがいいのでは。なぜかといえば、ロゼワインのもつ色が最も美しく輝くのは自然光。それも青空と太陽だからこの季節がいい。フランスでいうとプロヴァンス地方のロゼが有名です。あのエリアはたくさんロゼを造ってます。

 ヴァカンスで訪れたらみんな昼間っからテラスで飲むわけです。正直、少し重さを感じるというか、もっさりした感じのロゼですが、プロヴァンスの夏……そこはロゼが映える完璧なシチュエーションがある。


■真夏の日差し照りつける8月には何にチャレンジする?


 青い空に眩い太陽。乾いた風に澄んだ海。彼の地と比べると蒸し暑い日本で飲むなら、涼しい産地のロゼの方がいいかなってことで、まずはサンセールのロゼ。爽快な香りとすっきりした果実味のソーヴィニョン・ブランという品種で造られる白ワインで有名な産地で、そちらはご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。

 実際、生産されるワインの大部分が白。ただ、ピノ・ノワールから造られる赤とロゼもあり、フィロキセラという葡萄の病気が蔓延してこの地区の畑が壊滅的な被害を受ける以前は、ピノ・ノワールから造られる赤がメインの産地でした。このエリアのロゼは色も果実味も淡く品よく爽やかに楽しめると思います。

 それからビュジェ=セルドン。こちらは知らない方は多いかも。地理的にはリヨンとスイスのジュネーヴの中間あたりのややジュネーヴ寄りってところでしょうか。サヴォワというワイン産地の一つのエリアで、標高高めの急斜面に植えられたガメイとプルサールという葡萄からロゼのスパークリングだけが造られています。

 アルコール度は低めで自然の甘みがほんのりとありますが、砂糖の甘さとは違いサッパリと甘酸っぱい。ガブガブ飲めちゃいますし、クセになると思いますよ。

 もう一つは産地度外視で。このところ世界はロゼの人気が上がっています。フランスでもそうでロゼの消費量が白のそれを上回るようになっています。そんなこともありこれまでロゼを生産していなかったエリアでも、ロゼを造る生産者が増えています。有名なところだとボルドーでもロゼが増えていますが、フランス各地においてナチュラルワインの生産者を中心にテーブル・ワインクラスで面白いロゼが造られています。そういうワインを試すのも楽しいと思いますよ。

 暑い太陽の下、昼間でも夕方でものんびりリラックスしながらよく冷やして楽しんでみてはいかがでしょうか。訪問はままならぬ、かの地を思い浮かべながら。

幅紀長(はば・としなが)
東京・銀座のワインバー・オーナー。「自分の人生は世界中のワインを理解できるほど長くはない」という真実に気付き、フランスワインに溺れた生活が長らく続いておりますが、フランスワイン好きにもそうでない方にも、そもそもワインはそれほどでも……という方にも、少しでも楽しみや興味を持っていただけたら幸いです。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月22日 掲載

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