コロナ禍なのに「死者総数は減少」という驚きのデータ 過度な対策は必要なのか?

■政府も方針を転換


 社会や経済が大いにダメージを受けながら、それに甘んじざるをえないのは、命、とりわけ高齢者の命を守るためだったはずだ。ところが日本人の死亡者数が、新型コロナの影もなかった昨年より少ないとしたら――。われわれは過度の対策をやめるべき転機にいる。

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 急な退陣表明と、その後の総裁選の行方にばかり関心が向かい、気づいた人さえ少ないようだが、8月28日の会見で安倍晋三前総理は、新型コロナウイルス対策について、「重症化リスクの高い方々に重点を置いた対策へ、いまから転換する必要があります」「医療支援も高齢者の方々など、重症化リスクの高い皆さんに重点化する方針です」と、方針転換を表明していた。

 PCR検査を増やして無症状やごく軽症の感染者をあぶり出し、結果として増えた「感染者数」を、特に東京都などでは知事が自ら発表。こうして独り歩きした「感染拡大」という言葉に、人々は不安をさらに募らせていく――。

 そんな状況が続いてきたが、感染しても命を落とすどころか、すぐ治癒するのなら、感染自体を問題視する必要はないのである。

「風邪も同じで、あくまでも、こじらせて肺炎になって亡くなるのが問題です。目標は、いかに死者を増やさないかということ。新型コロナに関してゼロリスクを求めて騒ぐのは、風邪をひくだけでリスクだと言っているのと同じです。たとえ感染しても治ればリスクではない、と割り切る必要があります」

 と、経済学者でアゴラ研究所所長の池田信夫氏も言うが、現に、日本では大山鳴動して死者数は1300人台。それなのに、社会や経済に回復不能な打撃を与える対策を取り続ける必要があるのか。

「週刊新潮」は毎週そう訴えてきた。そして、政府もようやく、感染そのものを問題視する政策を「転換」し、重症化、ひいては死亡につながるケースに重点を絞ると表明したのである。

■「感染者数の呪縛」


 感染症に詳しい浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫医師は、

「症状がない人まで入院させてフォローアップし、無駄なマンパワーを使っていますが、重症者や合併症がある人だけをケアしていけばいい。そういう人たちに医療資源を傾けよう、という政府の方針は、間違っていないと思います」

 と話すが、新型コロナを「死の病」とばかりに煽ってきたワイドショーは、政府がどんなに正論を言おうと、認められないらしい。

 テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」では、コメンテーターで同局の玉川徹氏が「新型コロナ対策に関しては、とてもほめられるものじゃない」と、安倍政権を酷評し、菅義偉官房長官に、「コロナ対策に関しては踏襲しないでほしい」と注文をつけた。

 視聴者の不安を煽り画面の前に釘づけにする、というテレビの罪は、そうして生じた自粛ムードによって社会や経済がいまもこうむるダメージを考えると、万死に値する。だが、テレビがいまなお影響力を放っている以上、残念ながら、世間は「感染者数」の呪縛から簡単には逃れられないものとみえる。

 一例を示そう。文部科学省は9月3日、学校が本格再開した6月1日から8月31日に、全国で新型コロナに感染した小中高生は1166人だった、と発表した。その間、大人の感染者数は6万人を超えたことからも、子どもたちの感染率が低いことがわかる。しかも、小中高生は半数以上が無症状で、重症者は一人もいなかったという。

 このデータから読み取れるのは、新型コロナは、少なくとも子どもたちにとっては、風邪ほどのリスクもないということだ。ところが翌朝、テレビのワイドショーはこれを「心配な数字」として紹介し、無症状者が多いことではなく、症状がある児童がいることを問題視したのである。

 だれも重症化していなくても、感染者がいるだけで騒ぎ、軽症でも見逃せないのであれば、風邪に、インフルエンザに、ノロウイルスにと、子どもたちは年中リスクにさらされているため、学校は永久に正常化できなくなってしまう。


■昨年より死者数減


 そう説かれても心配だという人には、見てほしいデータがある。厚生労働省による「人口動態統計」である。8月25日に発表された今年6月の死者数は、速報値が10万423人で、昨年同月より1931人減ったのだ。さらには、緊急事態宣言が出されていた5月も10万8380人で、同じく3878人減った。4月は前年より増えていたものの、423人にすぎない。

 厚労省の人口動態・保健社会統計室に聞くと、

「高齢者が増えているため、死亡者数は毎年増えているのに、今年6月までを見るとたしかに減っている。7月以降の状況を注視しないといけないと思います」

 GDPを年率で28・1%も減らしてまで、「死の病」に感染しないための自粛を社会に強いた5、6月、新型コロナがなくても死者が増えて当たり前という少子高齢社会のもと、死神の力は例年より弱まっていたのである。京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授が言う。

「多くの人が命を落とすような病気ではないと、この数字からも明確にわかります。また、高齢者も死亡リスクが高いとは言いきれません。危険なのは基礎疾患がある場合です。あえて言えば、もともと死亡リスクを抱えていた人の死期が、新型コロナに感染して少し早まっただけの話。総合的にみれば、新型コロナウイルスはインフルエンザより怖くないと思います。それ以外にも、たとえば肺炎球菌に感染して亡くなる人が年間約2万人、入浴中に亡くなる人も約2万人いる。インフルエンザのリスクはそれ以下で、新型コロナがインフルエンザ以下であるならなおさら、それほど怖いものではありません」


■インフルエンザで毎年1万人が死亡


 そうであるなら、われわれは早急に社会を平時に戻すべきだろう。医師で医療ジャーナリストの森田洋之氏の声も紹介する。

「インフルエンザでは関連死を含め、毎年約1万人が亡くなっています。しかし、ほとんどの人はそのことを知らず、無関心でした。社会として無視してきたのです。だったら新型コロナも、同じくらい許容してもいいのではないでしょうか」

 これから欧米のように死者が増えたらどうする、と心配する向きもあるかもしれない。だが、3万人超が亡くなったフランスのデータが発表されており、昨年比で死者は、3月に約9100人、4月に約1万7600人増えたが、5月は増減なく、6月は約400人、7月は約1500人、死者数はむしろ減っている。

 アメリカでは、さすがに今年の死者数は昨年より増えそうだが、それでも増加分は、新型コロナによる死者数を大きく下回りそうだ。死亡リスクが高かった人が亡くなっただけ、ということの証左か。


■蔓延する「フィア・ポリティクス」


 日本の話に戻れば、

「死者数がニューヨーク並みになる、数十万人に上る、と言う人がいました。予測が当たらなくてよかったとはいえ、外れるたびに“2週間後にはそうなる”と繰り返されてきました」

 と、国際政治学者の三浦瑠麗さんが指摘する。

「そういう意見を聞いて対策を講じてきたことを、総ざらいしないといけません。生じたコストは甚大なので、外れてよかった、で終わらせず振り返るべきです。4月の時点で、仮説にもとづいて間違った行動をとったのは仕方ないとしても、数カ月たって、軌道修正されていないことを懸念します。ただ、政府はすでに軌道修正している。メディアが振り上げた拳を下ろせなくなっているのではないでしょうか。死亡者が増えていないという客観的な数字があるのに、政治家ではなくメディアがフィア・ポリティクスを行っている」

 フィア・ポリティクスとは、「伝染病が来るぞ」などと恐怖を煽って注意を引きつけ、分断し、支持を得ようとする手法だそうで、

「デマゴーグの政治家がとる手法だと思われてきましたが、実は政治家にかぎらない。いまはこの手法をメディアや、そこに出る一部の専門家がとっています」

 先述した「羽鳥慎一モーニングショー」が、玉川徹氏と白鴎大の岡田晴恵教授のコンビで、朝のワイドショーの視聴率首位を独走中なのは、典型だろう。なんら振り返らず、飲食店に時短営業を要請し続ける東京都の小池百合子都知事も、フィア・ポリティクスの「名手」として挙げられよう。

「週刊新潮」2020年9月17日号 掲載

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