「大坂なおみ」へのバカすぎる批判 「日本人らしくない」と差別する卑怯さ(中川淳一郎)

「大坂なおみ」へのバカすぎる批判 「日本人らしくない」と差別する卑怯さ(中川淳一郎)

イラスト・まんきつ

 大坂なおみ選手が2年ぶり2度目の全米オープン優勝を果たしました。おめでとうございます! 世界ランク1位返り咲きの芽も出てきましたし、東京五輪での金メダルも期待されます。

 しかし今回、大坂さんが、警官や市民により殺された黒人の名前の書かれた黒いマスクを7種用意して、決勝までの7試合、登場時につけていたことに対して、日本ではこんな批判が寄せられました。

「スポーツに政治を持ち込むな!」――たしかに、ロンドン五輪の際「独島はわが領土」と竹島の領有権を主張したプラカードを掲げた男子サッカー韓国代表選手が、IOCから注意を受け、彼にメダルを授与するかモメた騒動もありました。

 これは明らかに日韓の政治問題のため、IOCも問題視したわけですが、「亡くなった黒人を追悼する」行為って政治的なんですかねぇ? あくまでも大坂さんの悲しみと怒りの表明であり、多くの人に考えてもらいたい、という意思表示ではないですか。シドニー五輪柔道金メダリストの井上康生が、表彰台で母の遺影を掲げた時には「親孝行」と称賛されたのと何が違うんだ。そして、もう一つ奇妙な指摘がありました。

「アスリートなんだからスポーツに専念しろ!」

 あのさ、全米オープン優勝という、アスリートとして最高のパフォーマンスを出したんだから、スポーツに十分専念しているじゃないですか。それともあなた、仕事中に余計なネットサーフィンしたり、便所でウンコするふりしてスマホゲームしたりしていませんか? サラリーマンなのだから仕事に専念しろ! そう返しておきます。

 大坂さんに対する批判って本当にバカみたいなものが多い。「やっぱり黒人だ」とか、「テニスのラケットを投げるのは日本人らしくない」とか。結局大坂さんが黒人と日本人の間に生まれたことをもってして、異端扱いしているだけ。

 ラケットを投げることについてですが、錦織圭だって伊達公子だってやっています。野球選手なんて、怒りのあまりグラブをマウンドに叩きつけたり、ホークス時代の杉内俊哉なんて、2回7失点を喫し、ベンチに帽子とグラブを叩きつけ、挙句の果てにはベンチを殴って両手の小指を骨折して全治3カ月、2004年シーズンを棒に振りました。

 大坂選手を批判する場合に、「日本人らしくない」とやるのは卑怯だと思うんですよ。これって完全に「日本人とはかくあるべし」という同調圧力と「空気を読めよ」ということを彼女に強いているわけでしょう? 錦織や杉内に対して「日本人らしくない」なんて形式の批判はほぼないわけで、それは彼女の見た目を理由に差別していることに他ならない。

 そして、メディアも大坂さんをバカにしていた過去があります。日本語があまり上手でなく、タメ語風に喋ることについて「なおみ節」と呼んだり、好きな食べ物を聞いて「カツ丼」と言わせたり、行きたい場所を聞いて「原宿」と言わせる。

 日本国籍だけど日本のことを分かっていない黒人女性に、日本の良いところを言わせるテレビ番組の「日本すごい」的な演出、バカバカしいからやめようぜ。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2020年10月1日号 掲載

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