台風14号の予報円が大きいのはコロナのせい……話題のツイートは本当か 気象庁に聞く

台風14号の予報円が大きいのはコロナのせい……話題のツイートは本当か 気象庁に聞く

拡散したツイート

 10月9日の午後4時現在、依然として強い勢力を保ったままの台風第14号は足摺岬の南南東にあり、ゆっくりした速さで北北東へ進んでいる。そして14号の今後の動きを示す予報円が、従来のものより大きいと思った方はいるだろうか?

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 そう思っていた人は、かなりいるはずだ。なぜなら以下のツイートが、少なくとも9日の午前中から拡散を続けたからだ。

《昨日ラジオで聞いた事。
『台風の進路の予報円が大きいのはコロナのせい。』

コロナで飛行機の便数が激減。
飛行機から送られる偏西風の実測データが足らず、偏西風の影響を受ける台風の進路が予想がし難いそうだ》

 2002年から06年まで放送された人気番組「トリビアの泉〜素晴らしきムダ知識〜」(フジテレビ系列)で紹介されれば、間違いなく「へぇ」が連発されただろう。

 知的好奇心が刺激された人は多かったようだ。ツイートを引用し、内容を評価する投稿がどんどん増えていった。そのうちの3つをご紹介しよう。

《まさかの「#風が吹けば桶屋が儲かる」事例ですわね(略)勉強になりましたわ》

《これはおもろい(露骨な知識人アピール)》

《おいおい何でもコロナのせいにすなやアホかよって一瞬でも思ってしまってごめんなさい》


■《コロナのせい》は誤り


 旅客機が気象予報に貢献しているというのだから、確かに面白い。飛行機はどのようにして偏西風を観測し、どうやって気象庁にデータを提供しているのだろうか。

 詳細を教えてもらおうと気象庁に取材を依頼したのだが、担当者は「ツイートの内容は把握しているのですが……」と困惑する。

 さすが気象庁、一般人のツイートにもアンテナを張り巡らせているのかと思いきや、そうではないという。既に新聞社など数社のメディアから取材依頼があったそうなのだ。

「取材のやり取りでツイートの内容を教えていただいた限りでは、少なからぬ事実誤認があるように思われます」

 気象庁によると、台風14号の予報円が大きいのは事実だという。

 だが、これは「進路を予想しやすい台風」と「進路を予想しにくい台風」があるのが理由で、《コロナ》や《飛行機から送られる偏西風の実測データ》とは全く関係ないという。

「台風の進路予測は、一般の方には説明が難しいのですが、とにかくいくつかの計測モデルがあり、それに様々な気象データを入力して予測を出します。

 そのため予測しやすい台風の予想円は小さくなります。予測しにくい台風の予想円は大きくなります」


■旅客機のデータは活用


 つまり、コロナが全く蔓延していなくて、世界中を旅客機が飛び回っていたとしても、台風14号の予報円は今と同じように大きかったのだ。

 では、そもそも気象庁は旅客機の気象データを予報に活用しているのだろうか。この点を質問すると、「活用しています」という回答だった。

「エーカーズ(ACARS)という飛行中の飛行機と、地上の運行会社の間をつなぐデータリンクシステムがあります。

 飛行機は運行中、気温や風向きなどの気象データを観測しており、それがエーカーズを使って送られてくるわけです。

 そのデータの提供を受け、気象庁は予報に活用しています」

 この世界のマニアなら「ラジオゾンデ」はご存知だろう。気球に取り付けて飛ばし、高層大気の気温・湿度・気圧などを測定、測定値を無線で地上に送信する装置だ。

 乱暴な言い方をすれば、このラジオゾンデの代わりを飛行機が担っている。そして検索エンジンを使い、「エーカーズ」で記事検索をしてみると、興味深いものが見つかった。


■NHKの類似報道


 NHKが運営するWEBマガジン「NHK政治マガジン」は4月30日、「航空機からの気象観測データ半数以下に 技術開発に遅れも」の記事を配信した。

《新型コロナウイルスの影響で航空便の欠航が相次ぐ中、気象庁が航空機から受け取る気象観測データも半数以下に減少しています。気象庁は現状の予報などに大きな影響はないものの「今の状態が長引けば、今後の予報精度を上げる技術開発に遅れが出るおそれがある」としています》

《気象庁は日本などを飛行している航空機から、上空の気温や風速、それに風向きといった観測データを受け取っています》

《観測データはことし3月上旬ごろまでは、1日およそ8万件で推移していましたが、航空便の欠航が増えた3月中旬から急激に減り、今月22日にはおよそ3万件と半数以下となっています》

《気象庁は気象衛星などの観測データも活用していることから、現状の予報に大きな影響はないとしています》(註:全角数字を半角数字に改めた)


■出所はラジオ番組


 NHKの記事によると、新型コロナの影響で飛行機の観測データが減少しているのは事実のようだ。

 しかし、《偏西風》や《台風》、《予報円》といった単語が出てこないのはご覧いただいたとおりだ。

 改めて気象庁の担当者に質問すると、「台風の進路予測で、《飛行機から送られる偏西風の実測データ》が必須というのは、現場の実感とは異なります」とツイートへの“違和感”を指摘した。

 冒頭でご紹介した通り、きっかけとなったツイートは《昨日ラジオで聞いた事》と番組の具体名は書いていなかった。

 だが、その後、真偽を巡る議論が活発化したためか、10月9日の夕方ごろ、同じアカウントに出典を明記したツイートが投稿された。

 具体的には東京のAMラジオ局がオンエアしている番組名やコメンテーターの個人名が明かされたのだ。


■“虚偽ツイート”は冤罪


 さっそくradikoを使って番組を視聴してみると、ツイートで紹介された通りの内容がオンエアされていた。

 また別のツイートでは、違うラジオ番組で《上空からの飛行機のデータが少ないからといって予報円の大きさにそれほど影響しない》と説明したことを紹介した。

 気象庁の担当者は「飛行機の気象データが予報に活用されていることを知る人は、それほどいないと思います」と指摘していた。

 一時期は知識の豊富なマニアが、わざと嘘のツイートを行った可能性や、勘違いの投稿が流布してしまった可能性が取り沙汰されていた。だが、それらは全て“冤罪”だったということになる。

週刊新潮WEB取材班

2020年10月10日 掲載

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