暴力団の主たる資金源「特殊詐欺」にオドロキ判決 背景に「警察」「民暴弁護士」の活躍

■被害総額が300億円を超えた特殊詐欺


「俺だよ、俺。会社の金を使い込んでしまって、今すぐ1000万円必要なんだ」「あなたのキャッシュカードが悪用されたようなので預かります。この紙に暗証番号を書いて下さい」――。

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 息子を騙って電話を掛けたり、金融機関の職員を装い自宅を訪問したりする手口で、主に高齢者をターゲットに多額の現金をだまし取る特殊詐欺。

 2000年代初頭から社会問題化し、2019年も被害総額は300億円を超えた。老後の蓄えを奪うだけではなく、被害者の尊厳までも踏みにじる卑劣な詐欺犯罪は近年、任侠を標榜する暴力団の主要な資金獲得源になっている。

 警察庁によると、19年に特殊詐欺に絡んで検挙された暴力団構成員や準構成員は521人で、特殊詐欺全体の検挙人数の約2割を占める。

 このうち現金の受け取り役などグループの末端では、暴力団組員の割合は1割強なのに対し、主犯格では4割近くに上っており、実に半数近くの事件で、背後に暴力団の影がチラついているのだ。

 そんな特殊詐欺と暴力団を巡る民事訴訟で、東京地裁が先般、主要団体の一つ指定暴力団・住吉会の最高幹部らに対し、原告の被害者らに約2億超の賠償金の支払いを命じる判決を下した。

 配下の組員が実行した特殊詐欺事件で、組織の代表者の責任を問う「組長訴訟」では、異例ともいえる高額な賠償金額となった。

 今回の訴訟と判決は、衰えることのない特殊詐欺の抑止となり得るのか。詳細をレポートする。

■住吉会の最高幹部ら被告に対して2億円余の支払いを命じる判決


 東京都千代田区霞が関の東京地裁610号法廷前では、9月25日の昼過ぎ、傍聴希望者らが列をなした。

 新型コロナウイルスの感染予防対策で席数が制限されたとはいえ、法廷に入れきれない関係者もおり、間もなく言い渡される判決への注目度の高さが伺われた。

 原告は指定暴力団・住吉会系の組員が実行犯になった特殊詐欺事件で、750万円〜7400万円の現金をだまし取られた高齢者やその遺族ら8人。

 被告には実行犯の組員らに加え、同会の西口茂男元総裁(故人のため現在は相続人ら)、関功会長、福田晴瞭特別相談役の3人の最高幹部が名を連ねた。

 午後1時5分、裁判長が判決を言い渡し、最高幹部を含む被告らは遅延損害金を含め2億2180万円の支払いを命じられた。

 被害者の精神的損害に対する賠償金こそ退けられたが、提訴時の請求額のほぼ全額の支払いが認められ、原告側の勝訴といえる内容だった。

 判決の詳細を述べる前に、原告らが提訴に到った経緯を振り返っておこう。

 訴訟の元となった特殊詐欺事件は、警視庁組織犯罪対策4課が、静岡、和歌山の両県警と合同捜査本部を組み、2014〜15年にかけて摘発した。

 摘発された詐欺グループは、高齢者らに再生医療の研究開発を行う実体のない会社のパンフレットを送付し、電話で社債の購入を持ち掛けるなどの手口で、全国の170人から15億円以上を詐取したことが捜査で判明。

 住吉会の傘下団体の幹部ら組員8人を含む28人が起訴された。被害規模の大きさだけではなく、これまでもっぱら贈収賄や経済事件などの知能犯を扱う捜査2課の専売特許だった特殊詐欺捜査に、暴力団犯罪の専門集団の「4課」が本腰を入れたと印象づけた事件だった。

■「詐欺グループ内での暴力団の威力」の利用が突破口に


 警察当局が暴力団組織と特殊詐欺の関係に大規模なメスを入れたことを受け、行動を起こしたのが一般人や企業の暴力団被害(民事介入暴力)の救済を専門とするいわゆる「民暴弁護士」たちだった。

 2008年5月に改正暴対法が施行され、指定暴力団の組員が「暴力団の威力を利用した資金獲得行為」で他人の生命や財産を侵害した場合、暴力団の代表者に賠償責任を負わせられるようになった。

 かみ砕いて言えば、“チンピラ”レベルの下っ端が居酒屋やクラブから“みかじめ料”を脅し取った場合でも、“組の看板”を利用したと認められれば、直接はその行為に関わっていない「組長」まで、賠償金を支払わなければならないと規定したのだ。

 実際、暴対法の改正を機に、抗争事件の被害者遺族や、みかじめ料を脅し取られた被害者らが裁判を起こし、組長などに賠償金の支払いが命じられるケースが相次いだ。

 民暴弁護士たちはこの「組長訴訟」の流れを、特殊詐欺に拡大しようと試みたのである。

 もっとも、そこには越えなければならない高いハードルがあった。

 例えば、みかじめ料を脅し取る恐喝事件であれば、組員は“●●組のモンやけど……”など、直接“組の看板”を示して金を脅し取る。一方、特殊詐欺では、組員らが被害者に「暴力団だ」と名乗ることはありえず、暴対法の規定をそのまま当てはめることが出来なかったのだ。

 話し合いを重ね導いた答えは、「詐欺グループ内での暴力団の威力」の利用だった。

 民暴弁護士らが注目したのは、前述の特殊詐欺事件の捜査の過程で、組員ではない複数の詐欺グループのメンバーが「グループを抜けたら家族が暴力団から危害を加えられると思い指示に従った」と供述していた点だ。

 暴力団が背後にいる特殊詐欺では、組の名前を出して報復をチラつかせることにより、メンバーが詐取金を持ち逃げしたり、グループから離脱したりすることを防いでいたのだが、それを“暴力団の威力を利用した”と構成したのだ。


■“騙された方にも非がある”と言わんばかりの主張は一刀両断に


 こういった暴対法の解釈を柱に、2016年6月、全国で初めて特殊詐欺の被害者が原告となり、「組長訴訟」が起こされたのである。

 それから4年あまりを経て下されたのが、本稿冒頭の東京地裁の判決だ。

 判決は訴訟の元となった特殊詐欺事件の構図について、住吉会傘下の2次団体から4次団体の組員が中心となり、「(暴力団組織内部の)絶対的服従関係を背景として実行された」と指摘。

 さらに、組員らが暴力団構成員であると示しながら、組員ではない実行犯に対し詐欺に使う他人名義の携帯電話の調達や架空会社のパンフレットなどの作製を命じたり、詐取金を受け取る「受け子グループ」に仕事の指示を出したりしていたとして、住吉会の外部の関係者にも同会の威力が利用されていたと認定した。

 つまり、弁護団が特殊詐欺の組長責任の柱とした、「詐欺グループ内での暴力団の威光の利用」が全面的に認められたのだ。

 裁判では、被告の住吉会側も徹底抗戦を試みた。

 被害者側に過失がある場合、賠償額が相殺される「過失相殺」の主張を展開。

「原告らは(被害に遭った)当時、相応の社会人経験や判断能力を有していたが、現金を送付する際、現金送付が禁止されているゆうパックを利用し、品目を食品や書類などと偽って申告した」などと指摘し、原告側にも過失があり賠償金と相殺されるべきと求めていたのだ。

 ところが東京地裁は、この“騙された方にも非がある”と言わんばかりの身勝手な主張を一刀両断に退け、被告側の主張が認められることはなかった。


■被害者の中には裁判が進行する間に、認知症を患ったりした人も


 判決後、原告弁護団の1人は「被害者は騙されたことを悔やみ、家族内の中でも立場がなくなり苦しまれている。判決で(過失相殺)をはねのけてくれたことは、地味なポイントではあるが、被害者を責めないという意味で非常にありがたい」と語った。

 被害者の中には裁判が進行する間に、死亡したり、認知症を患ったりした人もいたという。

「泣き寝入りする必要もない。周囲から責められる必要もない」。被害者救済に取り組む民暴弁護士は熱を込めて語った。

 では今回の訴訟と判決は、特殊詐欺抑止の切り札となり得るのだろうか。

 第一に、今回の訴訟を契機に、特殊詐欺の被害者が原告となった同様の「組長訴訟」が、全国で7件提訴されたことは大きな前進と言えよう。

 本稿の訴訟の元となった住吉会による特殊詐欺事件の関連では、事件化されなかった被害者42人が、賠償金7億円超を求める訴訟を17年6月に東京地裁に提起している。

 既に審理は終わり12月に判決が言い渡される予定だが、刑事事件で立件されなかった詐欺の賠償が認められれば、暴力団組織の資金源を絶つ上で画期的な効果を発揮するだろう。

 暴力団側に与える心理的影響も小さくない。

 住吉会の総本部は19年2月、特殊詐欺を巡る組長訴訟が相次いでいることを受け下記の通達を出した。


■《新年度は破廉恥な詐欺犯罪を無くして頂くことをお願いします》


《特殊詐欺の使用者責任として、亡総裁西口茂男親分、関功会長、福田晴瞭特別相談役の3氏に対し、訴訟を起こされ裁判係争中ですが、亡総裁に対しては、その遺族にまで訴訟が及んでいる次第で御座います》

《敗訴となればその事件の当事者である各組織の責任者にすべての責任を取って頂く事になりますのでどうか各一家各会の責任者の方々は、1人1人にしっかりとした教育指導をして頂き新年度は破廉恥な詐欺犯罪を無くして頂くことをお願いします》

 同じく関東の主要団体である指定暴力団・稲川会も今年5月、最高幹部の名義で配下の組員らに特殊詐欺を「厳禁」と通達している。

 暴力団対策を専門とする捜査員は「特殊詐欺だけでなく、覚醒剤だって『任侠道にもとる』と公には認めていませんが、どの組織だってシノギの一つ。上層部の賠償責任を問われないように予防線を張っているのでしょうが、こんな通達を出す時点で、組長訴訟が暴力団組織に打撃を与えているのは明らかです」と解説する。

 今回の組長訴訟は、被告側の控訴により、今後、東京高裁に移審する。

 今回の訴訟の弁護団は一刻も早く賠償金が支払われ、早期の被害回復ができるよう「あらゆる手段を尽くす」との方針を示している。

 卑劣な詐欺に遭い人生を台無しにされた被害者を救済すると同時に、組長に莫大な金銭的責任を負わせて資金源の芽を摘んでいく――。特殊詐欺との戦いは続く。

週刊新潮WEB取材班

2020年10月18日 掲載

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