1枚10万円「偽造免許証」で逮捕者続出… 夜の世界で働く女性たちが必要とする理由

 ここのところ、運転免許証を偽造し逮捕される事件が相次いでいる。今月だけでも、偽造を依頼した大阪在住のインドネシア国籍の男や、海外のサイトを通じて偽造免許証を注文した福島在住の建設作業員が逮捕されている。事件化こそしていないものの、こうした偽造免許証を欲しがる人間は、風俗業界には珍しくないという。業界に詳しい作家の酒井あゆみ氏がその実態を取材した。

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 運転免許証の偽造は、有印公文書偽造というれっきとした犯罪行為である。今月26日に逮捕されたインドネシア国籍の容疑者は「転職に有利になると思った」と語り、また建設作業員の場合は、3月に免許を失効していたところへ会社から提出を求められ、偽造を依頼したと動機を明かしている。前者はSNSを通じて中国人グループに依頼、後者は「偽造王国」なるサイトで注文し、中国から送られてきた偽造免許証を税関で押収された。相場は10万円ほどだという。インターネットの発達によって、簡単に偽造免許証が手に入りやすくなっているようだ。偽造サイトは、サーバーを海外に置いているため、簡単に運営者が特定されないといわれている。

 入手経路は不明だが、10月20日にも、東京都内の派遣型風俗店で、偽造免許証を使った
 女性の入店申し込みがあった。(写真1)は注意喚起を目的として業界の関係各店に出回っている、その免許証の画像である。もちろん、実際の画像にモザイク処理はない。

 この画像だけでは分からないが、この偽造免許証には、あるべき「透かし」がなかったという。(写真2)は筆者のホンモノの免許証に、後ろから光を当てたところ。「交」の字が浮かび上がっているのがお分かりになるだろう。

「コピーを取るために女性から免許証を預かり、光を当てたところ偽造に気づきました」

 と証言するのは、件の女性から入店の申し込みのあった店のオーナーだ。免許証にわざわざ光を当てるとは、この業界で偽造免許証を使うものがいかに多いかを証明している。

「そこで問い詰めたところ、『バーで財布を盗まれてしまい、知人から免許証を発行できると教えてもらって、偽造を依頼した』とのことでした。女の子にはそれは犯罪行為だと伝え、免許証は再発行できると教えた上で、お帰り頂きました」(同)

(写真1)を見るとお分かりのように、今回は免許証とあわせ、クレジットカードでも本人確認が行われていた。モザイクで隠れてしまっていて恐縮だが、カードの名義人と偽造免許証の名前は一致している。ということは、わざわざカードまで偽造したのだろうか。

 さらにオーナーによると、色々な話題を振って確認をしても、少なくとも偽造免許証にある「22歳」というのは、本当の可能性が高いらしいという。「バーで盗まれたから」という彼女の証言は、ウソでもなさそうな……?


■原宿駅のロッカーで…一世を風靡した「証明書屋」


 最近は海外の業者に偽造を依頼するのが一般的なようだが、ひと昔前まで風俗で働く女性たちは「証明書屋」という“国産サービス”を使っていた(証明屋とも呼ばれた)。こちらは、現金とブツの直接の受け渡しのほか、現金とコインロッカーのカギを交換して受け取るやり方を取っていた。後者は偽造免許証を持っている現場を押さえられないための配慮で、原宿駅のコインロッカーが使われたと聞いている。

 10年前の新聞をひもとくと、〈闇サイトでニセ保険証〉の見出しの記事で、同じ店と思しき「身分証明書屋」の名前が確認できた(2010年5月12日付読売新聞)。

「証明書屋」を運営していた男は、2012年に有印私文書偽造罪で逮捕された。この男は、顧客だった女性2人を使い、自分がトラブルになったリフォーム会社に放火を指示したとして、別件で逮捕されてもいる(処分保留)。運営者が逮捕され「証明書屋」がなくなった後は、同じ屋号を名乗るも、入金しても偽造免許証を渡さない詐欺業者が登場している。

 いまも〈発行機関も区別できない精度〉をアピールする「証明書屋」というサイトがあるが、これもその類だろう。運転免許証の偽造ならば10万円で、1万円の手付金を電子マネーで払うというから実に怪しい。ところどころ日本語もおかしいサイトである。


■偽造免許証を使う女性たちの事情


 それにしてもなぜ、風俗店で働く女性たちは偽造免許証を使うのか。かつて「証明書屋」で偽造免許証を購入したベテラン風俗嬢は、次のように証言する。

「私はコインロッカーを使わず、直接の受け渡しを希望しました。場所は新宿駅東南口の長い階段の下でしたね。いかにも競馬をやっていそうな風貌の男性が、新聞紙に挟んだ偽造免許証を持ってきました。料金は10万円です。私は昼間の仕事の関係で、店にはウソの免許証を出す必要があったんです。後に働いていたお店に国税庁からガサが入ったことがあって、働いていた私も身分証明書を出すよう言われ、それを見せたことがあります。それでもマル査には偽造を見抜かれませんでした」

 彼女のように昼間に仕事をしている、あるいは旦那に内緒で働いているといった女性は、素性を店に明かしたくない。このほか、店の個人情報管理が信用できないという理由もある。

「ストーカー化したお客さんが、ボーイにお金を払って、女の子の個人情報を知ろうとする場合もありますからね。あとは、年齢をごまかして入店しようとするケースもあると聞きます。40歳を過ぎると新しい店にはなかなか移れません。

 私の知っている女性は、実年齢が41歳なのに22歳の偽造免許証を使って、高級店に潜り込みました。ただ、さすがにお客さんからのクレームが多かったらしいです。偽造免許証のクオリティも低かったみたいで、免許証を見せてもらった女の子が『不自然に分厚かった』と言っていました」

 あるいは、店が率先して偽造をさせていた例も……。

「話題作りのため『姉妹』を売りにした2人の女の子を働かせていたオーナーがいました。ある実話系雑誌が彼女たちを取材することになり、『姉妹である証拠を出せ』といわれた。そこでオーナーは住民票を偽造したらしいです」

 繰り返しになるが、偽造はれっきとした犯罪行為なので、決して真似してはいけない。

酒井あゆみ(さかい・あゆみ)
1971年福島県生まれ。上京後、18歳で風俗の世界に入り、ソープランド、ファッションヘルス、AV女優、ホテトル、性感マッサージ、SM倶楽部などを経験。23歳で風俗を引退し、作家に。主な著作に『売る男、買う女』『ラブレスセックス』(ともに新潮社刊)。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月28日 掲載

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