「2日に1食」「トイレは近くの公園で」 コロナ禍でシングルマザー、女子高生の命が危ない

「2日に1食」「トイレは近くの公園で」 コロナ禍でシングルマザー、女子高生の命が危ない

新たなリスクとなっているのが自殺者の急増。なかでもシングルマザー、女子高生など、女性が危機に直面しているという(※画像はイメージ)

■女性自殺者が急増


 日本の新型コロナによる死亡者数は低水準を維持している。一方で新たなリスクとなっているのが自殺者の急増だ。なかでもシングルマザー、女子高生など、女性が危機に直面しているという――。

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 警察庁と厚生労働省が集計した自殺者数の速報値によれば、緊急事態宣言が発令された4月は1493人で前年同月比マイナス321人。翌5月もマイナス284人となっている。共に昨年より15%以上少ない数字だ。

 だが、夏になると事態は一変し、増加傾向に。8月の自殺者数は1854人にのぼり、前年同月比で15・7%も増えてしまった。

 深刻なのは“女性”の急増だ。8月に自ら命を絶った女性は651人を数え、前年同月と比べて、実に40・3%も増加している。

 その背景には逼迫する女性の雇用環境がある。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が語るには、

「新型コロナによって観光業や接客業、飲食業といったサービス業に従事する女性たちが甚大な影響を被っています。問題は、コロナ禍が収束しても雇用状況が改善しそうにないことです。外食産業は大規模な店舗閉鎖に踏み切り、24時間営業をやめて機械化と効率化を推し進めています。そうなると、ますます仕事にあぶれる人たちが増えることになる。派遣切りされて収入が途絶え、ハローワークに通っても仕事が見つからない。その結果、生活が困窮したシングルマザーが自殺衝動に駆られてしまう。そんな最悪の連鎖に陥ることを危惧しています」


■「2日に1食」「トイレは近くの公園で」


 そうした懸念はすでに現実のものとなりつつある。

 NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長が言う。

「シングルマザー世帯では、派遣切りで仕事と収入を失っただけでなく、休校措置で給食がなくなり、その分の食費も家計を圧迫しています。3月に約1200世帯に宛ててお米を送ったところ、“お母さん、今日は雑炊じゃないお米が食べられるね、と子どもが喜んでいます”というお礼の言葉が寄せられました。さすがに驚きました。10月現在までに2135世帯へ食品支援を行っています。その後も状況は悪化し続けているのに、ニュース番組では“リモートワークで働き方改革が促進”、“Go Toキャンペーンが活況”といった能天気な報道ばかり。手当が上乗せされ少し息をつきましたが、もっと支援が必要です」

 赤石氏のもとには日々、シングルマザーの悲痛な叫びが届く。そのなかには、〈仕事は週1〜2日だけ。子どもには1日2食で我慢してもらい、私は2日に1食が当たり前になっています〉〈暖房は一部屋しか使えません。水道代がもったいないのでトイレも近くの公園で済ませます〉など、耳を疑うような内容も多く含まれる。赤石氏が続ける。

「子どもがリモート授業を受けようにもスマホやパソコンがない家庭もあります。パソコンを持っていても型が古くてZoomに対応できず、かといって買い替えるお金もない。そんな状況下でシングルマザーは孤立感を深めているのです。女性の自殺者増加とも無関係ではなく、“生活に疲れて気づけば自殺サイトばかり見ています”という声も聞きます。助けを求める問い合わせは4月から1200件ほどを数え、いまだに収まる気配はありません。世の中から隔絶された、静かな野戦病院にいるような感覚です」


■女子高生のリスク増


 そして、コロナ禍によって追い詰められるシングルマザーと同じく、自殺のリスク増が取り沙汰されているのは“女子高生”だ。

 この8月の自殺者数を巡って、厚生労働大臣指定法人「いのちを支える自殺対策推進センター」は次のような分析を発表した。それは〈本年8月に、女子高生の自殺者数が増加している〉というもの。しかも、〈若手有名俳優の自殺報道〉が大きく影響している可能性が高いと指摘したのだ。言うまでもなく、〈若手有名俳優〉とは、7月18日に自ら命を絶った三浦春馬さんのことを指す。

 三浦さんの死後、芦名星さんや藤木孝さん、竹内結子さんといった俳優が自ら死を選び、芸能界では“自死の連鎖”が問題視されてきたが、女子高生たちもその連鎖に連なっていたのだ。

 実際、8月の女子高生の自殺者数は22人にのぼる。昨年、一昨年の同月は共に3人だったため、実に“7倍増”になる。


■川淵三郎氏「社会全体が活動を再開するべき」


 精神科医の和田秀樹氏はこう指摘する。

「休校やオンライン授業といった環境の変化によって、多くの学生たちが過度なストレスに晒されてきました。ただ、女子高生の自殺者数が増えたことを考えると、“ウェルテル効果”に着目すべきです。これは有名人の自殺報道に影響されて、一般人の自殺者が増加する現象です。有名な事例としては歌手の岡田有希子が非業の死を遂げ、中野区の中学生がいじめを苦に命を絶った86年に中高生の自殺者が増えました。三浦春馬さんの場合はファンの多かった思春期の女子高生に影響を与えたのでしょう」

 他方、感染症に詳しい浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫医師は、

「社会・経済活動を止めることで企業が潰れ、自殺者が増えることは予想していましたが、若者が精神的なダメージを受けて死を選ぶようになるとは思わなかった。中高生は新型コロナに感染しても大半が無症状か、鼻かぜ程度で済みます。彼らにとって死に至るほどの脅威ではないのに、家に閉じこもって精神的に追い詰められ、自殺が増えてしまっては本末転倒です」

 日本の新型コロナによる死亡者数は現在までに1786人(11月4日時点)。8月の自殺者数だけで優にこの数字を上回っている。

「コロナに感染して亡くなる人よりも経済的・精神的なダメージで自殺に追い込まれる人の方が多いわけです。コロナに過剰に戦々恐々とするのではなく、積極的に社会活動の幅を広げることが重要だと思います」

 そう喝破するのは、元Jリーグ・チェアマンの川淵三郎氏である。

「Jリーグやプロ野球では無観客試合からスタートして、いまは収容人数の50%までの観客動員を認めています。観客には検温や手洗い、マスクの着用をお願いするなど、試行錯誤しながら進めている。仮にクラスターが発生しても、すべてを中止するのではなく個別に対処していけばいい。スポーツ界と同様に、社会全体が積極的に活動を再開させるべきです。コロナの時代に大事なのは、生きていく上での覚悟に他なりません。僕自身は感染対策を講じながらコロナに罹って命を失ったとしても、覚悟した結果であれば仕方がないと考えています」

 このまま社会全体が活性化しなければ、シングルマザーをはじめ生活に窮乏する女性や若者たちはより一層、窮地に追い込まれ、最悪の決断を下しかねない。

「週刊新潮」2020年11月5日号 掲載

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