「鬼滅の刃、見てないの?」はキメハラか ハラスメントに疲弊しない対処法を弁護士が伝授

「鬼滅の刃」の魅力がわからない人に対して「なんで?」と執拗に詰め寄るような行為を「『鬼滅の刃』ハラスメント」略して「キメハラ」と言う……映画の大ヒットの影響でそんな新語まで話題になるようになった。

「キメハラ」は一種のネタのようなものかもしれないが、とにかく「ハラスメント」が増えているというのは多くの人の実感だろう。もともと「ハラスメント」という英単語を日本人が知るようになったのは「セクハラ(セクシャル・ハラスメント)」からで、それに加えて「パワハラ(パワー・ハラスメント)」も問題視されるようになった。今年6月にはパワハラ防止法も施行されている(正式には「労働施策総合推進法の改正法」)。

 では、キメハラ、セクハラ、パワハラの他にはどんなハラスメントがあるか。一説によると、50以上あるともいうが、主なものを『パワハラ問題―アウトの基準から対策まで―』の著者、井口博弁護士に解説してもらおう。井口氏は過去、千件以上のハラスメント相談を受けてきた、この道のプロである。

(1)ジェンダー・ハラスメント

「固定的な性別役割分担意識に基づくハラスメントのことです。簡単に『男はこうだ女はこうだ』と決めつけるハラスメントと言ってもよいでしょう。

 典型的なものとしては、女性社員にお茶くみをさせたり、宴会でお酒を注がせたりするというのが挙げられます。「女性は早く結婚した方がいい」とか「女には仕事を任せられない」といった発言や、男性社員に対して、「男のくせに根性がない」とか「お前それでも男か」と言うのもこれにあたります。

 女性をちゃん付けで呼ぶとか、『ウチの女の子』とか『おばさん』と言うこともハラスメントになりますが、逆に女性が男性に『僕ちゃん』とか『ジジイ』と言ったり書いたりするのも相手を不快にさせるジェンダー・ハラスメントになるでしょう。

 このハラスメントは日常的に意識のないままに起きるためついつい見過ごされがちですが、軽く見てはいけません。言った側は軽口のつもりでも、言われた側の不快感は言った側の想定を超えることが多いのです。また、ジェンダー意識が欠けている経営者や管理職は大きなセクハラ事件を起こしてしまう可能性もあります。

 昔ながらの男女観で生活し教育を受けてきた経営者や管理職はくれぐれも注意すべきでしょう」

(2)マタニティ・ハラスメントとパタニティ・ハラスメント

「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)は、職場での妊娠や出産に関するハラスメントです。パタニティ・ハラスメント(パタハラ)は、男性社員が育児休業などを申し出たり、取ったりしたことに対するハラスメントです。ここでも、男は仕事、女は出産育児という固定観念が抜けない経営者と管理職は要注意でしょう。親の介護などについての同様のことはケア・ハラスメント(ケアハラ)と言われることがあります」

(3)SOGI(ソジ)ハラスメント(LGBTハラスメント)

「SOGIというのは英語の性的指向・性自認の頭文字を取った言い方で、かつてはレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字を取った形でLGBTハラスメントと言われていましたが、最近ではSOGIハラスメントと言われることが多くなりました。

『ホモ』『レズ』などと言って相手を侮蔑するハラスメントだけでなく、「あいつホモじゃないか」というようなLGBTの憶測なども含まれます。他人が本人の同意なくSOGIを暴露する行為(アウティング)もハラスメントになります。企業にはSOGIハラスメントの防止措置が義務付けられています」

(4)カスタマー・ハラスメント

「カスタマー・ハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先からのハラスメントのことです。クレーマー・ハラスメントと言うこともあります。

 特に飲食店や販売店などの接客業などでは日常的に被害を受けていらっしゃるでしょう。また取引先については、会社が「取引先を怒らせてはいけない」との一言で対応しないことが多く、それどころか「怒らせたお前が悪い」となることもあります。

 最近は、直接の言動ではなく、ネットでの誹謗中傷などの被害も起きています。顧客が、応対した従業員をネットで誹謗中傷するのです。

 介護の現場でも利用者によるハラスメントが深刻な問題になっています。2019年3月の調査報告書(三菱総研「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」)によれば、1年間(2018年1月〜12月)に、介護の利用者や家族等からハラスメントを受けたという回答で最も多いのは介護老人福祉施設で、その割合は70・7%にも及んでいます。

 ところが、このように被害が深刻化しているにもかかわらず、パワハラ防止法はカスタマー・パワハラを事業主に対する措置の義務付けの対象からはずしており、指針において、単に雇用管理上の配慮が望ましいとしかしていません。

 この点は、非常に問題があると思います」

(5)就活ハラスメント

「主に学生の就職活動において、採用する側の会社の社員が、優位性(パワー)を背景にした言動によって学生に対して身体的・精神的苦痛を与えることです。ここでもパワハラ、セクハラ両方が存在します。

 悪質なものとしては、2019年2月に大手ゼネコン社員がOB訪問に来た女子学生にわいせつ行為をしたとして逮捕されたという事件がありました。ここまでいけば犯罪なので論外ですが、面接時に、「彼氏はいるか」とか「結婚、出産したときはやめるのか」などの質問をするというのも就活セクハラとしてアウトでしょう。

 法律はこれも職場の社員間のことではないとして義務付けの対象からはずしています。しかし、弱い立場の人のことを考えると、いずれ法的な義務付けをすることが望ましいでしょう」

(6)アカデミック・ハラスメントとスクール・ハラスメント

「アカデミック・ハラスメント(アカハラ)とは、大学などの教育研究機関において、教員と学生間などの教育あるいは研究において優位な立場にある者によるハラスメントです。大学などが規程を作ってその防止体制を取っていますが、なかなか対策が進みません。学生が被害者の場合には、声を上げると就職に不利になるとか、4年間辛抱すればよいなど職場とは違う心理が働くことが対策を遅らせる原因となっています。

 スクール・ハラスメント(スクハラ)は、主に小学校、中学校、高校などの教員の児童や生徒に対するハラスメントです。部活動などでスポーツ指導者による体罰などのパワハラもたびたび起きており、その都度大きな社会問題として取り上げられています。この背景には部活動での勝利至上主義や旧態依然とした先輩後輩の序列主義があるでしょう。この種のハラスメントは学校関係者らがこのような背景を主体的に変えていこうとしない限り減ることはないと思われます」

(7)ソーシャル・ハラスメント

「SNSなどのソーシャル・メディアを使った誹謗中傷などのハラスメントをソーシャル・ハラスメント(ソーハラ)と言います。いわゆるネット中傷です。

 これについては女子プロレスラーの木村花さんの事件が典型例です。

 私はネット中傷の法律相談を受けることも多く、発信者の特定を依頼されることが多いのですが、実は特定手続以前に、その書き込みが違法かどうかという判断に迷うことも少なくありません。

 ネット関連では、上司から部下へフェイスブック上での友達申請を強要するといったハラスメントもあります」

(8)レイシャル・ハラスメント

「レイシャル・ハラスメント(レイハラ)とは、人種、民族、国籍などを理由とするハラスメントのことです。肌の色やルーツについての差別的な言動も含まれます。欧米はこの差別問題に非常に敏感です。

 日本でも最近は外国人労働者の受け入れが多くなっているので、このハラスメントについての認識が不可欠です。難しいのはハラスメントをするつもりではないのに結果としてハラスメントをしているという無意識ハラスメントのケースが多いことです。それは外国人の文化や風習についての理解がないことに原因があります。

 これから経営者、管理職は職場のグローバル化に合わせて多様な文化、習慣の理解と認識が必要となってくるでしょう。

(9)モラハラ、テクハラ、アルハラ、ハラハラなど

「モラハラ(モラル・ハラスメント)は、主に言葉による精神的な暴力のことです。会社ではパワハラに含まれることが多く、家庭内では夫婦間での乱暴な物言い、無視などが代表例になります。

 テクハラ(テクノロジー・ハラスメント)はパソコンやスマホなどのITの知識のない相手に対してわざと使い方を教えなかったり嘲笑したりするハラスメントです。パソコン音痴の人を馬鹿にしたり、罵倒したりするのが典型です。

 アルハラ(アルコール・ハラスメント)は飲酒の強要です。

 何でもハラスメントとして主張することをハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)と言います。

 ここまでさまざまなハラスメントを解説しましたが、何でもかんでもハラスメントとするのはかえって相手とのコミュニケーションを取りづらくしてしまいます。単なるマナー違反をハラスメントと名付ければよいということではありません。嫌なことをとにかくハラスメントと名付ければよいということでもありません。

 キメハラなどは、『何でもハラスメント』のひとつです。このような趣味の押しつけに対しては、不快に感じたときにそのことをハッキリ言うことが大切です。それでも相手が、『あいつ、鬼滅の良さがわからないんだってよ』などと言いふらし、それに同調するような人たちがいたとしても、そのような人たちとは距離を置いて付き合わないようにするのがハラスメント防止のためにはベストです」

デイリー新潮編集部

2020年11月11日 掲載

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