「富士急ハイランド」存続危機の理由 賃料が6倍に変更、山梨県知事「適正な賃料にすべき」

富士急が県から借りている土地の賃料が6倍になる可能性 富士急ハイランド存続危機か

記事まとめ

  • 富士急が県から借りている県有地の賃料が不当に低いとして、男性が県を提訴した
  • 富士急の県への賃料が3億円から20億円へ変更される可能性があり、大打撃になるという
  • 不当利得の返還請求裁判となる可能性もあり、富士急ハイランドの存続を危ぶむ声もある

「富士急ハイランド」存続危機の理由 賃料が6倍に変更、山梨県知事「適正な賃料にすべき」

「富士急ハイランド」存続危機の理由 賃料が6倍に変更、山梨県知事「適正な賃料にすべき」

代理戦争再び?(右が長崎知事)

 武田信玄さながら「戦わずして勝つ」という孫子の兵法をマネたつもりか。富士急が県有地を格安で借りていることに「待った!」をかけ、巨額賠償までチラつかせる。二階派に所属する長崎幸太郎山梨県知事(52)が仕掛けた軍略に堀内王国の面々は防戦一方なのだ。

 ***

 今年で没後50年を迎えた三島由紀夫が山梨県の山中湖にゆかりがあることはあまり知られていない。

『豊饒の海』など、いくつかの作品の中では山中湖が登場しているのに加え、三島自身が自衛隊に体験入隊した際は湖近辺で訓練したという。そうした縁があり、没後、三島由紀夫文学館は湖畔に建てられ、現在に至っている。

 その程近くに「富士急ハイランド」などで知られる富士急行が経営する広大な別荘地が広がっている。豊かな自然があふれ、富士山を見渡せる絶景のそこはまさに「リゾート」といって差し支えないロケーションだ。近辺を三島は、

〈見返る富士の白い肌、この地方のすべての白の源泉は、油を塗ったように光っていた〉(『豊饒の海 暁の寺』)

 と描いているのだが、目下、この別荘地と同じく富士急が経営する隣接のゴルフ場の土地を巡って、戦国時代のような熾烈な争いが繰り広げられている。

 当事者となっているのは河野太郎行革相の「ハンコ廃止」に反対して噛みつき、全国的にも名を馳せた“ハンコ知事”こと長崎幸太郎山梨県知事。そして富士急の堀内光一郎社長(60)、その妻の堀内詔子(のりこ)衆院議員(55)だ。

 堀内家は4代続けて国会議員が輩出し、光一郎社長の父で2016年に鬼籍に入った堀内光雄氏は自民党総務会長や通産大臣を歴任、富士急の会長まで務めた人物。山梨県内では誰もが認める当代きっての名門一家である。

 他方、知事の長崎氏は東大法学部卒で財務省出身。05年に退官後、光雄氏と同じ山梨2区から自民党公認で同年の郵政解散にともなう衆院選に初出馬する。郵政法案で反対票を投じて無所属で出馬せざるを得なかった光雄氏に対する刺客として送り込まれ、小泉旋風が吹き荒れる中、選挙区では惜敗したものの、比例で復活当選した。

 しかし09年に光雄氏との公認争いで自民党を離党。光雄氏の後継となった詔子氏とは12年から3回にわたり、砲煙弾雨、全国でも有数の激しい選挙戦が行われてきた。

「それがピークに達したのは17年の選挙です」

 と自民党所属の山梨県議。

 無所属議員ながら特別会員として二階派に所属していた長崎氏と、岸田派所属の詔子氏が迎えた3度目の対決。先の2回は長崎氏が選挙区で激戦を制すも、この時は、当の二階俊博幹事長が「勝った方を公認する」としたために、詔子氏も無所属で出馬することとなった。二階、岸田両氏の代理戦争ともなったこの選挙では双方が文字通り「背水の陣」となったのだ。

「選挙前から怪文書が乱れ飛んでいましたよ。下馬評では堀内さんより長崎さんが優位だと言われていて、さらに二階さんやその子分の林幹雄(もとお)幹事長代理など党幹部が続々と選挙区入り。しかし、堀内陣営も岸田さんや古賀誠さんが組織固めに奔走し、最後は長崎氏を追い上げ、堀内さんが勝利したのです」(同)

 苦杯をなめた長崎氏は二階氏の差配で「幹事長政策補佐」なる党の役職に就任。

 政治部デスクによれば、

「二階さんが彼のために作った役職でした。岸田派は反発しましたが、二階さんはそうした声があると番記者から聞かされて、激高。“そんなことを言う議員は誰だ、紙に書いてもってこい”と記者を一喝したのです。それほど長崎さんを寵愛していました」

 その後、長崎氏は19年の山梨県知事選に出馬する。この時は二階氏や古賀氏の仲介で双方が和解し、長崎氏は詔子氏の応援も得られることになった。結果、知事に初当選。遺恨にまみれた「15年戦争」は両者の棲み分けで、ようやく終結したかに見えたのだが――。


■「赤字転落の危機」


 今年の8月になり、その火種が再燃した。きっかけは冒頭で触れた土地問題である。

 県政担当記者が解説する。

「2017年10月、県内在住の男性が県を相手取り、住民訴訟を起こしました。簡単に言えば、富士急が別荘地やゴルフ場を運営するため、県から借りている県有地の賃料が不当に低いのではないかという訴訟です」

 富士急が開発した山中湖畔の別荘地の歴史は古い。富士山一帯を一大観光地にすべく創業した富士急の前身、富士山麓土地株式会社が山梨県から一帯の土地を借り受け、開発に着手したのが1927年。機材もなく工事は難航を極めた末、30年に貸別荘23棟がオープンした。現在では約440ヘクタール、東京ドームにして94個分の県有地を富士急が借りて、別荘やゴルフ場を運営しているのである。

「契約は20年ごとに更新され、最新は平成29年。現在の土地の賃料は年間約3億2500万円です。この賃料は当該の土地を開発前の原野の状態として算定。ただ、実際には開発されている現況をもとにした不動産鑑定をし、賃料をとるべきだ、というのが原告の主張です。先代から歴代3代の知事は賃料水準を見直すべきだったのにそうしなかったとして、3知事に総額約154億円、富士急にも約4億7千万円の賠償を求めています」(同)

 これまで県は原告の主張は不当だとして争ってきた。しかし、長崎知事が当選して風向きが一気に変わった。今年の8月、県が新たに不動産鑑定評価を行い、富士急に貸し付けていた土地の適正な賃料が約20億1千万円だとする評価書を提出したのだ。

「これまでの県の主張を覆す大転換です。実は長崎知事は衆院選で堀内さんと争ってきた時から、“世直し”と称して堀内家と県の癒着を糾弾してきました。いったんは矛を収めたものの、今回の評価書提出はその問題を蒸し返した格好になります。長崎知事は評価書提出前に、県の弁護士を自身に近い考えを持つ人物に変更する力の入れよう。今回の方針変更で原告の主張と被告である県の主張が一致した形となり、長崎知事は原告と和解に持ち込みたいと考えています」(同)

 3億円から20億円へ約6倍の賃料変更。実現すれば、名門とはいえ一民間企業である富士急にとって大打撃になるのは想像に難くない。

 さる公認会計士に分析してもらうと、

「富士急は30社を超える子会社を抱えています。子会社を含めた連結での昨年度の売り上げは約523億円、純利益は16億5千万円。単体で見ると、売り上げは約287億円で純利益は約12億7千万円です。また、セグメント別でも不動産部門は売り上げ30億円で約7億円の利益をあげているにすぎません。賃料が上がれば、単純に17億円の利益が減少することになり、赤字転落の危機に陥ります」

 また将来にわたる影響についてはこう語る。

「貸借対照表で、1年以内に返済しなくてはならない流動負債と1年以内に現金化できる流動資産を比べると、負債175億に対して資産は283億と資産の方が上回っているので、すぐに資金繰りに窮するということはなさそう。しかし、売り上げに対する17億円というインパクトは相当なもの。長期的に利益を押し下げることになり、株価の下落要因にもなる。当該の土地を開発してきた富士急からすれば、到底飲める話ではないと思いますよ」


■原告は支援者だった


 由緒正しき名士、堀内家を危機に陥れた人物について、先の記者が続ける。

「そもそも、この訴訟の原告は3年前に同じ件で住民監査請求を行った人物でもあります。その請求が却下された後、訴訟となったのですが、原告の素性は会社経営者で長崎知事の後援会の関係者だと言われています。つまり、長崎知事サイドの指示でこの訴訟を提起したのではないか、という疑惑まで浮上しているのです」

 では当事者はどう考えているのか。長崎知事が県庁で取材に応じた。

「地方自治法にはこうした県有地について、『適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは貸し付けてはならない』とあります。これが適正な対価であるのか、裁判官の前で明らかにすべきなのです。この土地について富士急さんが相当額を投資して開発したことは承知しています。しかし、まずは適正な賃料に戻して、話はそれからです。これで経営が悪化するのであれば、最初から成り立たないビジネスモデルだったのではないでしょうか」

 さらに、別の問題もはらんでいる、と続ける。

「県有地は固定資産税がかかりません。その代わり、県有地が所在する市町村、今回の場合は山中湖村に対して県は固定資産税相当分の交付金を支払うことになっています。これは『固有資産等所在市町村交付金』と言って法律で定められており、その際の不動産価値は“現況”で評価すべきだとされているんです。しかし、これまで山梨県はこの交付金をしっかり払ってきませんでした。開発された後の状態で評価すべきところ、原野の状態で評価していたからです。これは違法状態であり、本来ならもっと多くの交付金を払わなければなりません。この歪みを正したいのです」

 また、堀内家への私怨ではないかと指摘されていることについては、こう反論するのだ。

「個人的な怨恨だとしたら、私はこの裁判を放置すると思いますよ。なぜなら、何もしなければ県側が負けてしまう可能性が高いからです。堀内先生にはお世話になっていますし、だからこそ放置するわけにはいかなかった。確かに原告の男性が私の支援者のひとりであることは認めます。しかし、誰かに指図されてこんな裁判を起こすでしょうか。支援いただいていることは存じ上げていますが、それ以上でもそれ以下でもありません。また、この件は地方自治の問題であり、二階幹事長にも相談していません。国の介入はお断りです」

 被告と原告が一体となった壮大な“プロレス”だったのか。

 前回知事選での二階氏仲介の手打ちを反故にしたことも、

「手打ちの目的とは一体、何でしょうか。私は山梨県を良くしようというのが最優先。それがミッションですし、千昌夫さんの『星影のワルツ』ではないですが、“仕方がないんだ 県のため”という思いです」


■「甲斐の虎だ」


 窮地に立ったかに見える富士急サイドに聞くべく、光一郎社長の自宅で取材を申し込むも、見解を伺うことは叶わなかった。当の詔子氏もお公家集団と揶揄される岸田派所属ゆえ、喧嘩を嫌っているのか、事務所を通じて、

「回答を差し控えます」

 と言うのみ。代わって同社の担当者が言う。

「別荘管理事業については管理費用で1億円以上を要し、赤字で運営しており、また、ゴルフ場も冬季に4カ月の休業期間もあり、赤字となっています。20億円がそのまま請求されれば、経営は非常に苦しいものになります」

 としてこう憤る。

「20億円というのは、とても恣意的な数字だと思います。山梨県が依頼した不動産鑑定士は原告側の訴訟提起に際し助言をしていた人物で客観性が担保されていません。さらに別荘地は住宅が建っている部分の割合が低い。我々としてはこれまで通り、開発者利益を尊重していただき、原野としてこの土地を評価していただくのが正しいと思っています」

 富士急が行った開発により、観光などで人を呼び込んだ功績を主張してもよかろうに、その反論はどこか遠慮がちに映る。一方、長崎知事サイドは二階派お得意の喧嘩上等の構えだ。さる県庁幹部は賃料裁判の陰に埋もれた問題を指摘する。

「実は富士急が県から借りている440ヘクタールのうち、17ヘクタールは『演習場内別荘敷』という名目で自衛隊の北富士演習場の敷地にあたります。演習場なので別荘は当然なく、富士急はここを格安で県から借りた上で国に又貸しのような形で提供し、これに対する交付金として年間約1800万円弱が県から支払われている。賃料と差し引いてもこれまで累計で1億円以上は利益を得た計算です。事業も何もせず、土地を借りて転貸しただけ。濡れ手で粟の状態ですよ」

 さらに巨額の賠償請求にも言及する。

「今後、県は富士急に対して不当利得の返還請求裁判を起こす可能性があります。すると、時効までの過去10年について返還を求めることになる。これまで、年間17億円の差額を得てきたわけですから、その額は170億円まで達することもありえます」

 どうやら、お家断絶、取り潰しにまで追い込むおつもりのようだ。

 人は城、人は石垣――。

 昨年の県知事選、応援に訪れた小泉進次郎衆院議員は武田信玄の言葉を引き合いに出し、

「県と国をまとめる力を持つ長崎候補は現代の甲斐の虎だ」

 と熱弁していた。

 県政トップは文字通りの虎へと豹変し、お行儀の良い名家を虎視眈々と狙う。無論、歪んだ行政は正さなくてはならないが、果たして県民のためになるや否や。信玄の言葉は「情けは味方、仇は敵なり」と続いている。

「週刊新潮」2020年12月10日号 掲載

関連記事(外部サイト)