Go To トラベルで儲かるのは大手だけ、不正の実態を「山谷宿泊所」のオーナーが証言

Go To トラベルで儲かるのは大手だけ、不正の実態を「山谷宿泊所」のオーナーが証言

簡易宿泊所が建ち並ぶ山谷の街並み(著者撮影)

 コロナ禍の経済対策として、菅政権が推進する観光支援事業「Go To トラベル」。来年6月末までの延長が閣議決定されたが、感染拡大が収まらなかったため、年末年始は全国一斉で一時停止される。年明けの1月中旬に再開予定だが、事業の欠陥や不備が原因とみられる不正行為がこれまでに相次いでおり、不安要素は残されたままだ。「ドヤ街」として知られる東京山谷の簡易宿泊所に至っては、旅行者から「捨て駒」扱いされ、事業からも見捨てられていたことが分かった。そんな現状を嘆くあるオーナーが、不正のからくりを含めた“実情”を語った。


■チェックインしない旅行者が続出


「11月だけで43組がノーショーです」

 山谷にある宿泊所のオーナーが数え終えると、宿泊客の動向についてそう教えてくれた。

「ノーショー」とは、予約をした旅行者が、キャンセルの連絡もないままホテルに現れない迷惑行為を指す。この宿泊所では、クーポンの配布が始まった10月以降、ノーショーが相次いでおり、11月は予約客の3分の2が実際にはチェックインしなかった。前代未聞のことといい、その背景について、オーナーはこう分析する。

「ノーショーした旅行者は別のホテルに泊まっている可能性が高いです。まさか全員が友人や知人宅に泊まっているとは考えられないですから」

「Go To」は、国内旅行を対象に宿泊・日帰りの旅行代金の50%相当額、1人1泊2万円(日帰りは1万円)を上限に補助する事業だ。このうち35%分を旅行代金の割引にあて、15%分は旅先で買い物や飲食に使えるクーポン券を配る。たとえば交通費+宿泊費で1人1泊1万円のプランの場合、旅行代金は6500円に割引され、クーポン券が2000円分支給される。1万円の15%なら1500円となるが、クーポン券は1000円の1種類で端数がないため、四捨五入されて2000円に繰り上げされる仕組みだ。

 楽天トラベルやBooking.comなどの大手旅行サイトには、航空券と宿泊のセットで料金を提示している航空券付き宿泊プランがあり、「Go To」の対象になっている。山谷の宿泊所もこのプランに参入しているが、オーナーによると、このプランを予約した旅行者は、最初から山谷の宿泊所に泊まるつもりがなく、別途、他のホテルを予約しているようだ。

「交通費を浮かせるためにセットのプランを予約し、ホテルは山谷の宿泊所よりランクの高いホテルに泊まる。そうすると全体的に安く済ませられるんです。つまり、うちは『捨て駒』として利用されているのです」


■クーポンを不正発行できる「裏技」


 旅行者が現れないとなれば、宿泊所はクーポン券を発行できない。なぜなら、発行のためには、チェックインした旅行者から専用のQRコードの提示を受ける必要があるためだ。オーナーは続ける。

「ところがですね、旅行者が現れなくても、『裏技』を使えば発行できます。チェックインしたことにすればいいんです。仮にQRコードの提示がなかった場合でも、旅行サイト会社から宿泊所に送られてきた予約番号を打ち込めば発行可能です。そしてそれを宿泊所が勝手に使うことができてしまいます」

 このオーナーは裏技を使ってはいないが、仮に11月のノーショー分43組すべてを発行した場合、セットプラン1人当たりのクーポン券が3000円とすると、「3000×43=12万9000円」で、約13万円のクーポン券を手にすることができるのだ。

 オーナーの証言を基に、観光庁の「Go To トラベル」事業担当者に問い合わせると、こんな回答が返ってきた。

「それが実際に行われていれば、不正に当たります。ホテル側は発行したクーポンの番号を事務局に報告しなければなりませんので、もし旅行者がチェックインしたと虚偽の報告をしていた場合、監査の対象になります」

 だが、オーナーによると、クーポン券の番号を報告する主体は旅行サイト会社で、宿泊所がクーポンを「誰に渡したか」までは確認できない。

 さらに「Go To」事務局から「クーポンの受け取りに関して旅行者に連絡を取ることもない」(観光庁)ため、もし宿泊所が勝手に発行し、自ら使用したとしても、その実情を知る第三者に告発でもされない限り、システム上はバレない。つまり、やろうと思えば不正が簡単にできる状況が野放しにされているのである。


■安宿はクーポンの対象外


 山谷の宿泊所のオーナーが指摘した「Go To」の不備。しかし、このオーナーの憤りは目下、別のところにも向けられている。

 山谷に建ち並ぶ宿泊所は現在、約140軒に上る。このうち9割は生活保護受給者を対象にしているが、残り1割は前述のオーナーが経営する宿泊所のように、外国人を含む一般の観光客を受け入れている。1泊の価格は前者が1700〜2200円なのに対し、後者は2500円程度と少し割高になる。

 前述のオーナーの宿泊所は1泊2500円なので、1泊の場合に発行されるクーポン券は375円になる(宿泊日数に比例する)。前述の通り、クーポン券は1000円の1種類で、旅行代金の15%が500円未満の場合、四捨五入されて1000円に達しないため、配布されない。

 つまり、山谷や大阪の西成、横浜の寿に建ち並ぶ簡易宿泊所、あるいはカプセルホテルなどの低額宿泊所は、大手旅行サイトと連携し、航空券などの交通費を“上積み”しない限り、最初からクーポンの対象になっていないのだ。

 観光庁の「Go To」事業担当者は、この点についてこう説明している。

「クーポン券の最小単位を500円にすると、1000円の倍、印刷代がかかります。利用客の財布も厚くなる上、取り扱い店舗にとっても枚数がかさばる。またこの手の地域振興クーポンの単位は前例で1000円が多かったことなど、色々な状況を勘案しながら、Go To事業で配布するクーポンも1000円にしました。それによって発行できない宿泊所が出てくるのは承知の上でした」

 たとえば、このオーナーの宿泊所(1泊2500円)と、全国にフランチャイズ展開している大手ビジネスホテル(1泊3500円)を比較してみる。前者はクーポン発行の対象外であるため、「Go To」事業下では、35%割引が適用されて1泊1625円になる。ところが後者は割引後の宿泊料金2275円に、1000円のクーポン券がつくため、実質の宿泊料金は「2275−1000=1275円」で、旅行者にとっても前者より得した気分になる。元から国の事業に制度設計上見放されている山谷の宿泊所は、こうした実質宿泊料金の“マジック”により、旅行者からも敬遠されてしまうのだ。

 前述の宿泊所のオーナーはこう嘆く。

「低額の宿泊施設が対象外にされるのはやはり不公平ですよね。財布が厚くなるとかいう理由は屁理屈にしか聞こえないし、電子クーポンにするなど色々やり方はあったと思います。クーポン発行を考えて、宿泊所の料金を引き上げたこともありましたが、全く予約が入らなかった。料金を引き下げた大手には、同じ土俵では勝てないんです」

「Go To トラベル」事業の一時停止は来年1月11日まで。以降は、その時点での感染状況を踏まえて再開の可否が判断される見通しだが、観光業界への打撃や経済的損失を考慮すれば、いずれは再開されるだろう。問題点を指摘したオーナーの声は、果たして国に届くのか。あるいは「低額宿泊所の一意見」としてしかみなされないのだろうか。

 山谷を通して見えた「Go To」の“暗部”──。いつの時代もこの街は、社会の裏側を映し出している。

水谷竹秀(みずたに・たけひで)
ノンフィクションライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに、「アジアと日本人」などをテーマに取材活動を続けている。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月17日 掲載

関連記事(外部サイト)