「妻と彼女、ふたりがいるから幸せ」 不倫を10年間続けるノーテンキ夫が育った環境

■二人の女性がいるから幸せ


 一般的に「不倫の恋」は、家庭に不満がある人が陥るものだと思われている。だが実際には、家庭が円満であっても恋に落ちることは多々あるし、家庭が円満な方が不倫が続いたりもする。結婚生活と恋は別ものなのだ。

「妻と彼女と僕、全員、同い年なんですよ」

 愛嬌ある笑顔を見せてそう言うのは、ヨウジさん(仮名=以下同・42歳)だ。結婚して23年、彼女とつきあって10年になるという。妻との間に、大学生と高校生、ふたりの子がいる。

「どうして不倫なんかしちゃったのか、今でもそう思うことはありますけど、ふたりの女性がいたからこそ、僕はこんな幸せな人生を送ることができている。それは確かなんですよね」

 何をノーテンキなことを言っているのか、誰かを傷つけての幸せなどあるのか、女性ふたりを不幸にしているのだぞと、世間の怒りの声が聞こえてきそうだ。私も彼の屈託ない笑顔に接して、最初はそんなふうにも思ったが、彼の話を聞いていくうちに考えが変わっていった。


■「自分を愛してくれる存在」を欲した家庭環境


 ヨウジさんは東京近郊の町で生まれ育った。ひとりっ子で、やさしい母に思い切りかわいがられたが、大好きな母が10歳のときに急逝。ショックのあまり声が出なくなったという。半年もたたないうちに「新しいおかあさん」が、ふたりの子を連れてやってきた。

「当時、5歳と3歳の妹がふたりできたことを飲み込めなくて、今度は体中に湿疹ができて苦しみました。父は再婚するとき、きちんと僕に説明してくれなかった。子どもだからわからないと思ったのかもしれないけど、10歳ですからね、母が死んだショックも癒えないうちに、新しいおかあさんと言われても受け止めきれません」

 当然、“新しい母”とは折り合いが悪かった。継母もつきあい方がわからなかったのだろう。彼に積極的に話しかけてくることはなかった。食卓でも彼はひとり、うつむいて食べ、終わるとすぐ自室へと引っ込んだ。そうすると食卓に笑い声が響くのだ。実母の写真を見ながら、毎日泣いていたという。

 心に大きくあいた穴を埋めるため、学校以外に塾や習いごとなど、家にいなくていい時間をたくさん作った。土日も塾に行っていたから、いつしか「やたらと勉強のできる子」になっていた。高校は都立、大学は有名私大へと進学したが、心の中はいつも人間への不信感があり、同時に「強烈に自分を愛してくれる誰か」を求めていた。

「大学に入ると同時に家を出ました。家族はほっとしたんじゃないでしょうか。継母にとっては特に。父は贖罪のつもりか、仕送りだけはけっこうしてくれました」

 大学時代、そして就職してからも彼は心から誰かを信頼することができなかった。当然、恋愛にも臆病になる。誰かとつきあってもすぐに怖くなって自分からフッてしまうのだ。「遊びでしかつきあえないんでしょ」と、女性から罵倒されたこともある。

「今思えば、寂しかったんです。ひたすら寂しかった。幸い、就職した会社で、すばらしい先輩に出会ったことで、人間不信はだいぶ解消されたんですが、恋愛に関しては本気になれませんでしたね」

 その先輩には自分の思いをすべて話した。先輩の家庭にたびたび遊びに行き、先輩の妻のやさしさにも触れた。

「その先輩がさりげなく引き合わせてくれたのが、妻となったアキコです。明るくて前向きで、本当に素敵な女性でした。半年ほどつきあったところで、自分の生い立ちを話したら、彼女、大粒の涙を流しながら聞いてくれた。最後に『がんばったね』とひと言。下手な慰めの言葉はいっさい言わなかった。それで、この女性は信頼できると思ったんです」

 彼の気持ちが一気に結婚へと傾いた。音信不通になっていた父に結婚する旨を手紙で伝えると、「おめでとう」と10万円が送られてきた。だが、結婚式はいつなのかとか、一度、彼女に会わせろとも言われない。やはり自分は邪魔ものなのだと再確認した。

「それを知ったアキコが、結婚式なんてしなくていいじゃないと言い出して。義父母も『そうだそうだ、金がもったいない』と笑わせてくれました。そこで義父母と僕らふたりの友人を呼んで、気楽な会費制のパーティをしたんです」

 こうして始まった結婚生活は、アキコさんの性格もあって楽しい日々だった。子どもが生まれると、ヨウジさんはそのかわいさにメロメロになった。

「共働きですから時間的には厳しかったけど、本当に夫婦が一致団結して子どもを育てましたね。どんなに大変でも、アキコはどこか楽観的で、僕はそれに救われた。洗濯物がたまったりすると僕はイラッとするんだけど、アキコは『明日はくパンツがあればいいのよ』って感じ。なければ買ってくればいい、だから今日はゆっくりしようっていうタイプなんです。僕は“〜すべき”にとらわれるところがあるので、彼女からは多くを学びました。結婚して子どもが生まれたあたりから、仕事も順調で人の上に立つ立場にもなって。悩みや苦労もあったけど、いつもアキコが相談に乗ってくれました」

 妻は親友でもあり、相談相手でもあった。妻がいたから、幼いころから抱えていた大きな心の穴がかなり埋まっていったのだ。


■「私を女として見てるの、見てないの」と迫られて


 30歳を過ぎたころ、ヨウジさんはひとりの女性に心惹かれる。それが10年に及ぶ恋愛相手のマリさんだ。

「マリとは仕事関係で知り合いました。うちの会社のあるプロジェクトで、僕がリーダーとなり、彼女は外部から参加してくれた形です。マリはそのころ離婚したばかりのシングルマザーで、10歳の子がいました。プロジェクトが成功したので、お礼の気持ちをこめて僕から食事に誘ったんです」

 マリさんは刺激的な女性だった。絵画や文学に造詣が深く、「自由が何より大事」と公言して、何人かの恋人もいたようだ。そんな女性に出会ったのは初めてで、ヨウジさんはすっかり彼女に参ってしまったという。

「冗談で、僕もマリの愛人のひとりにしてくれないかなと言ったら、彼女はキラリと目を光らせて『恋を恋としてまっとうする覚悟がある?』と。ドキッとしました。彼女とつきあったら、男としてどうなるのか怖い半面、彼女の魅力に抗いがたいものもあって」

 ときおり彼女と会いながらも恋愛関係にはなるまいと思っていたが、あるとき彼女から「私を女として見てるの、見てないの」と迫られた。友だち関係でいたい気持ちが強かったのだが、うっかり挑発に乗ってしまう。

「女として見ているに決まってるじゃないかと答えたら、じゃあ、証拠を見せてよって。そのままホテルへ行きました。自分が火の玉になったような感じでしたね。彼女の体の中に入りながら、彼女にとりこまれていくような不思議な感覚がありました。自分の欲望が白日の下にさらされたような恥ずかしさと、それを上回る強烈な快感があって……」

 彼はハッとしたように口をつぐんだ。プライベートなことを話しすぎたと謝罪されたものの、私はもっと聞かせてほしいと頼んだ。不倫の恋の場合、身体の相性はふたりの関係を盤石にするひとつの大きな要素だからだ。

「妻とはもともと穏やかに行為をしていました。子どもたちが大きくなってからも愛情確認としてときどきしていた。そういうものだと思っていたんです。でもマリとの関係は“戦い”でした。どちらがより相手を快楽に引きずり込めるか、そしてどちらがより快感を得られるか。そこに彼女の愛を感じたし、僕もより彼女を強く欲するようになったんです」

■どちらかを選ぶことは「できない」


 すぐに終わる花火のような恋かと思っていたのだが、ふたりの関係は続いていく。彼はマリさんに夢中だったが、マリさんは「外泊はダメ、絶対」と彼をコントロールした。妻のアキコさんがケガをして入院したときも、「奥さんが退院するまで会わない」とマリさんは突き放した。

「確かに子どもたちのこともあって早く帰ってやりたかったのですが、もしマリに会いたいと言われればやはり会いに行ってしまったと思うんです。その時期、マリは毎日のようにメッセージで励ましてくれた。ときには電話で長話をすることもありました。そして、ある時『あなたに会って私、他の人とデートする気もなくなっちゃった』と電話で言われたんです。相変わらず交友関係は広いし、僕は家庭持ちだから彼女が他に恋人を作っても文句は言えない。だけど彼女が僕だけを見てくれるようになった。一生、彼女を手放すまいと思いました」

 いけないことをしているのはわかっている。だが、妻とも恋人とも、彼は別れるつもりはない。不倫を続けるうち、彼は器用になったのか妻に疑われたこともないという。

 どちらも本気で愛している。だからどちらにも100パーセントで向き合っている。しかも女性はふたりとも自立心が強い。それが彼の不倫がうまくいっている秘訣なのかもしれない。どちらかを選ばなければいけない局面があったら、どうするつもりなのだろうか。

「いや、それは……絶対にできないと思います。考えたくないですね」

 彼はそれまでと違って、いきなり表情を曇らせた。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月28日 掲載

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