京都を舞台に女性262人を“風俗に送り込んだ手口”とは 約140ページに及ぶ「マニュアル」の中身

■大学生が“半グレ”と一体となり卑劣な犯罪に手を染めていた


 詐欺事件が話題になるとよく言われるが、率先して「騙されよう」と思う人はいないだろう。その裏には計算された手口があり、誰もが被害者になり得る可能性がある。昨今、特にその特異かつ巧妙な手口が際立っているのが、半グレによる犯罪である。

 新潮新書『半グレ 反社会勢力の実像』(NHKスペシャル取材班著)には、普段は取材に応じない半グレメンバーによる証言が、数多く収められている。その中から特徴的な事件を取り上げたい(以下、引用は同書から)。

 2019年1月、京都府警が摘発した事件――京都の有名大学に通う大学生が街で女性をナンパ。恋愛感情を抱いていると信じ込ませ、拠点のバーに誘い込み、高額な借金を背負わせる。その返済のために、女性らを風俗店に斡旋し、のべ262人から約7300万円もの金を得ていた。大学生らは20人ほどのグループで活動し、創設者の男によって統率されていた。同書で証言した元メンバーは「イケメン」で、不良のイメージは全くない、という。

「女性の恋愛感情を利用するんです。恋は盲目というか、正しい判断ができなくなります。そうやって引っかける手口を僕たちは“色恋”と呼んでいました。恋をしたことのない女の子とか、地方から出てきた大学生が多かったですね」

「基本的に毎日4時間くらい、声をかけ続けていましたね。不思議なもので、意外と引っかかりますよ。その日のうちに電話して、そのあとも連絡を取っていって、そのまま付き合う寸前まで持っていくんです」

 このグループは祇園に2つの会員制バーを展開し、毎週金曜日と土曜日の午前0時から5時まで営業していた。警察対策の一環で、出入りするとき以外は入口に鍵をかけていた。開店前には必ずミーティングを開き、その日、来店する女性の詳細な個人情報を共有していたという。

 名前をはじめ、学校名や出身地、それに趣味や考え方などの価値観に至るまで、店員たちは知ったうえで連携して女性客たちをとりこにしていくのだ。

■女性との距離を近づけるための“マニュアル”


「女性を“モノ”として見ていました。どんな子でもひっかかるし、風俗で稼ぐ金額の目標を設定したら、それだけ自分にも入ってくる。稼いでいるスカウトは常に4、5人の“色カノ”を回していました」

 グループには犯行を完遂するため、数種類の「マニュアル」があり、入手したものだけでも約140ページにも及んだ。そのうちの一つ、女性との距離を近づける方法について解説されているものがある。その中で「ストックスピール」という項目があった。「誰にでも当てはまることを、相手のことをあたかも言い当てたかのように提示する技術」のことで、相手の信頼を短時間で得る話術=詐欺師の手口になっているという。

「例 過去に男関係で、けっこう酷い裏切り方されたことあるんちゃうかな。それもあって、男の人と付き合うのに臆病になってるんちゃうかな」

「例 〇〇ちゃんって、しっかりしてるから、周りにだけじゃなくて自分に対しても厳しいとこあるよね」

 かなりの確率で「心当たりがありそうなこと」を言う。そして「言い当てられた」と思った女性は驚き、相手を信用するようになる。しかも外れた時にどう言うかもマニュアル化されていた。

 例えば後者の「自分に対して厳しい」と指摘されたことに、女性が「自分には甘い」と否定したとする。その場合は、「そういうふうに言う事自体、自分に厳しくしているということだ」という理屈をもとに、「ほら、厳しいやん」という流れにもっていき、言い当てたように思わせるのである。

 マニュアルには、多数の例文と解説が記されている。このテクニックを駆使し、「自分のことをわかってくれている人だ」と女性に思わせる「ヒット」を重ねることで、信用させていくのだ。

 マニュアルによれば、女性の悩みは「人間関係」、「お金」、「夢(目標)」、「健康」に大別されるという。

 こうして女性の信用を勝ち取ると、まずは店で大金を使わせ、さらに言葉巧みに風俗へ送り込む。マニュアルにはそのための口説き文句例もきちんと用意されている。

 並みの企業の営業マニュアルよりもはるかに丁寧で充実しているのだ。

■摘発を逃れた大学生メンバーの意外な進路


 メンバーたちはこうした複数のマニュアルを参考にしながら、女性を罠にかけていったのである。改めて、彼ら「ダマす方」も、相当な準備をした上で犯行に及んでいた実態がよく分かる。被害に遭った女性たちは、風俗に斡旋されても、メンバーとは恋愛関係にあると信じていたという。ごく普通の女子大生が、彼らの毒牙にかかり風俗店勤務を強いられていたというケースも少なくない。被害女性の悲痛な叫びを紹介したい。

「『引っかかる女が悪い』という意見があるが、混乱の中での出来事で、引っかからないと思っている人ほど、騙される。誰でも引っかかる」

 被害女性の傷は一生消えない。

 一方で、メンバーの中には摘発を逃れ、大学を卒業して大手企業に就職した者もいる。もちろん企業も同僚も彼の過去を知る由もない。

 半グレのマニュアルで磨いた手腕を何に活かしているのだろうか。

デイリー新潮編集部

2020年12月30日 掲載

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