神戸山口組の「井上組長」に引退を迫る幹部も…ヤクザ界の2020年を振り返る

■ヤクザから暴力を取ったら何も残らない


 2020年はヤクザ界にとってどんな年だったのか。元山口組系義竜会会長で、現在はNPO法人を運営する竹垣悟氏と振り返りつつ、今後の吉凶を占う。

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 まず竹垣氏が指摘したのは、6代目山口組ナンバー2である高山清司若頭の存在感の大きさである。

「2019年10月に出所する前から緊張感がありましたけれど、出所後はさらに存在の大きさを見せつけた2020年だったのではないでしょうか」

 高山若頭の出所後には少なくない抗争が、6代目と6代目を割った神戸山口組との間で繰り返された。挙句、神戸山口の中枢組織である山健組のおよそ半分が神戸から脱退するという事態を招き、「神戸山口組の乱は5年で平定された」というような言葉も飛んだほどである。

「一連の動きを見て、『信賞必罰』という言葉を思い出しました。4代目山口組の竹中正久組長が射殺された直後、当時の岸本才三本部長は、4代目の指針として『信賞必罰』という言葉を使ったんですね。それから一和会壊滅のため、それを地で行くような苛烈なカエシ(報復)を重ねて行くことになりました。時代は変わって、当時ほど凄惨な“戦争”とは言えないまでも、ヤクザから暴力を取ったら何も残らないのは昔も今も同じ。盃を受けた親分を裏切る『逆縁』という、ヤクザの世界で最も許されない行為をした神戸側を絶対に許さない……そんな高山若頭の狂気を感じましたね」

 この抗争は、劣勢に立たされた神戸山口組の井上邦雄組長がギブアップするまで続く可能性大だが、目下、井上組長にそんなそぶりはないとされる。ただし、竹垣氏のもとにはこんな情報も。

「神戸側のナンバー2である寺岡修若頭(侠友会会長)が井上組長に引退を迫るのではないかとか、寺岡若頭が他団体の幹部と会って『井上組長引退後』について話しているなどといった話が流れていますね」

■“よし、わかった”とは行かない事情


 ちなみにここで名前が出た寺岡若頭と竹垣氏は因縁浅からぬものがあるという。

「4代目山口組を離脱して一本独鈷となった竹中武組長に付き従って、私が若頭補佐をやっていた頃、寺岡若頭と食事をしたことを覚えています。寺岡若頭はその頃、5代目傘下の西脇組舎弟頭の立場で、共に若い衆を連れて姫路のホテルに集まったんです。寺岡若頭からしたら私は敵ですから、そんなのと会ったりするのはご法度に近いと思うんですが意に介さず、ひとかどの人物だなと感じた次第です」

 2人には共通の兄弟分もいたこともあり、その後、竹垣氏が所属していた中野会が5代目山口組から絶縁処分を受けた際には、寺岡若頭が竹垣氏に、いの一番に電話をかけてきたという。

「当時の中野親分からも“寺岡のところへ行ったらどうや”と勧められたんですが、こればかりはご縁ですからね……」

 話を現在に戻そう。

「寺岡若頭ほどの人が誠意をもって井上組長を説得しているとしても、井上組長もそう簡単に“よし、わかった”とは行かない事情があります」

 具体的には、

「組事(くみごと)として、抗争に関係し、長い懲役に行っている者が刑務所にようけいるわけです。井上組長もいわゆる大阪戦争の後、17年の懲役を務めました。カタギになる代わりに自身の身の安全を保障してもらうことになるでしょうけれど、それを世間(ヤクザ内の)が許さないでしょう。そのことは井上組長もよく理解していると思います」

■6代目と拮抗することは無理


 井上組長や、その組員たちはどうなるか。

「さすがに神戸山口側から中核の山健組の半分ほどが抜けてしまったんで、6代目と拮抗することはさすがに難しいでしょう。井上組長に従ったのは古株と呼ばれる面々で、私の知り合いにもいますけれど、“神戸を抜けるつもりだったが、今さらヤクザをやめても真人間に戻れるまで時間がかかるし、それなら先の短い人生、ヤクザのままでええかな”などとこぼしておりました」

 垣間見えるのは、現在のヤクザ全般が置かれている苦しい立場のようだ。

「いわゆる5年ルールというやつで、ヤクザを辞めてもその後の5年間は暴力団関係者とみなされ、ヤクザ同様に銀行口座を開いたりできない。さらに、警察当局は“偽装破門”を警戒して、正式に破門状などが出回っていないと、“暴力団を辞めたとは認めない”という風になっています。私の知り合いの場合、もう70歳を超えているので、仮に『真人間』に戻れたとしても後期高齢者で、特にメリットを享受できないという判断をしたというわけですね」

 本来、ヤクザを取り締まり、減らすために作られたはずの5年ルールが、逆に足を洗おうとする者たちの足かせになっている部分が少なくないようだ。

 ヤクザへの風当たりは強まる一方である。今年は、ハロウィーンの時期に、山口組の総本部敷地内で組員が地元の子供らに菓子を配る行為について、ついにお上がNGを出したのも話題になった。

 兵庫県議会が10月5日、暴力団員が18歳未満の子供に金品を渡す行為などを禁じる改正暴力団排除(暴排)条例案を本会議で可決したのだ。

 竹垣氏は、こうした動きに理解を示しながらも嘆く。

「純粋なボランティア活動であっても、汚れた手が稼いだ汚れたカネはあかんということなんやろうね。暴力団撲滅を私は謳っていますし、その論理はわからんでもないんですが、ここまで国家権力の包囲網が強まると、憲法に記された『結社の自由』ってどないなっとんやろという風にも感じたりします」

 さて2021年、この業界はどうなるか。

週刊新潮WEB取材班

2020年12月31日 掲載

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