女性宮家に代わって浮上した「皇女」案をどう捉えるべきなのか

女性宮家に代わって浮上した「皇女」案をどう捉えるべきなのか

愛子さま

■女性宮家に代わり愛子内親王などを対象にした皇女(こうじょ)案は唐突ではなかった


 秋篠宮さまの立皇嗣の礼が終わり、眞子さまに続いて秋篠宮さまの記者会見でのご発言が話題となる中、政府による「皇女」案の検討が現実味を帯びてきた。女性宮家に代わって愛子さまなど内親王を対象とするものだが、それはいかなるもので、どう捉えるべきかをじっくり考えてみたい。

 昨年11月24日以降、マスコミ各社は政府が皇女案の検討に入ったとするニュースを一斉に報じた。例えば共同通信は、次のような内容を配信した。

〈政府が皇族数減少に伴う皇室活動の担い手確保策として、女性皇族が結婚した後に「皇女」の尊称を贈り、公務への協力を委嘱する新制度の創設を検討していることが分かった。皇籍を離れた後も活動に関わってもらい、皇室の負担軽減を目指す。結婚後も皇族の身分を保持する「女性宮家」の創設は、女系天皇の容認につながる可能性があるとして見送る方向だ。政府関係者が23日、明らかにした〉

 これについて、官邸はまだそうした報道内容を追認してはいない。しかし、女性宮家の創設を主張してきた勢力から、さっそく様々な反応があった。この中には「唐突すぎる」「天皇退位特例法の付帯決議を無視するものだ」などという焦りにも似た批判があった。だが、そのいずれもが、明らかな認識不足と言わざるを得ない。既に平成24(2012)年に検討課題とされていたものであり、国会の付帯決議を無視するものでもない。


■8年前の野田内閣の論点整理で「公的行為の支援のための新たな称号」に言及


 その理由を述べよう。平成24(2012)年10月、当時の野田佳彦内閣(民主党・国民新党)は、皇族数の減少による皇室のご活動の維持困難に備えた対応策をまとめた「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」を発表した。

 論点整理にあたっては、国民の中に多様な意見があることを理由に、「皇位継承制度の在り方の問題に影響しないものであること」を前提条件として検討がなされた。その結果、「女性皇族が一般男性と婚姻後も皇族の身分を保持しうることとする制度改正について検討を進めるべきであると考える」とするいわゆる女性宮家創設案のほかに、「女性皇族に皇族の身分を離れた後も引き続き皇室活動の支援に関わっていただけるような仕組みを設けることは可能と考えられ、併せて検討を進めることが必要である」とする内容が併記されたのである。

 この論点整理を元に野田内閣は「女性宮家」創設を推し進める皇室典範改正をめざした(同年末の総選挙で敗れて総辞職したため立ち消え)が、有識者のヒアリングによる論点整理は「両論併記」だったのだ。

 後者の「皇族の身分を離れた後の皇室活動の支援」についてはもう少し詳しい説明が必要だろう。この中では、皇籍離脱後に「内親王」などの用語を称号として保持できるとする規定を皇室典範に設けることについて「皇族という特別な身分をあいまいにする懸念があり、法の下の平等を定めた憲法第14条との関係においても疑義を生じかねない」としつつも、次のように論点をまとめた。

〈婚姻により皇籍離脱をする女性皇族については、皇籍離脱後も国家公務員として公的な立場を保持していただき、皇室活動の支援という観点から、引き続き様々な皇室活動に関わっていただくような方策についても、検討に値するものと考えられる〉

 さらに「公的行為その他の行為を支援するのにふさわしい称号の保持ということについてのみ言えば(中略)新たな称号を、ご沙汰により賜ることは考えられないことではない」とも付け加えた。今回の「皇女」案は、この論点を下地にして生まれた案であり、決して唐突ではない。


■「皇女」は身分ではなく一般名称、「王女(おうじょ)」も選択肢に


「皇女」という称号については、一部で「法の下の平等の原則に反するのではないか」という指摘もある。だが、これも誤りだ。

 当時の論点整理に先立つ政府のヒアリングに有識者の一人として加わった日本大学名誉教授の百地章氏は、12月21日付の産経新聞の「正論」上で、「元女性皇族に特別の身分を与えようとするものではない。もし特別の身分を与えれば『華族その他の貴族の制度は、これを認めない』とした憲法14条2項に違反する』」と憲法学者の立場で説いている。

 前述の論点整理は、「内親王」という皇族の身分(身位)を使うことを否定しているのであって、天皇の女のお子さまのことを意味する一般名称の「皇女」を否定しているわけではないのだ。

 もっとわかりやすく言うと、皇室典範第5条は「皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする」と皇族の身分(身位)を順に規定しており、「内親王」や「女王(じょうおう)」という身位を、皇籍を離脱した元女性皇族の称号として使うことはあり得ない。

 天皇のお子さまではない内親王の眞子さまや佳子さまにも「皇女」という称号を使うのかという疑問が残るかもしれない。これについても百地氏は「皇女以外の内親王や女王には例えば『王女』という称号も考えられよう」と同紙で述べている。

 混同される方がいるかも知れないので敢えて補足しておくと、「女王(じょうおう)」は「内親王」と同様に皇室典範に規定された皇族の身分(身位)だが、「王女(おうじょ)」は「皇女」と同様に身位ではなく、皇籍を離脱した方も該当する一般名称である。なお、称号を付与するのは、前述の論点整理によれば、御沙汰により賜る、つまり天皇陛下がお与えになるということになる。


■「女性女系天皇と切り離して女性宮家を」と言った野田元首相の“ウソ”


 皇女案について、国民民主党の足立信也参院幹事長が12月初めの記者会見で「女性宮家についても議論するようになっていたはずだ。それと違う形で出てきた」と不快感を示したという。

 国会は平成29(2017)年6月、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」を可決するにあたって「付帯決議」を行った。その内容は以下のとおりである。

〈政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方のご年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方のご事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること〉

 付帯決議の趣旨は、「安定的な皇位継承を確保する諸課題」とは別に「女性宮家創設等について」の是非の検討を行うということだが、「皇女案」が出てきたということは、政府が検討の末に女性宮家に否定的な立場に立ったということでもある。足立氏の発言は、「女性宮家創設」が無視されたことへの苛立ちにしか聞こえないが、そうでないのなら、これを叩き台として議論して行けば良いのであって、女性宮家の方が優れていると思うのなら、そう言えば済むことである。

 それよりも、筆者には「女性宮家」そのものの危うさが気になる。論点整理を平成24(2012)年に内閣としてまとめた野田首相は平成30(2018)年11月、自身のホームページ「かわら版」で「女性・女系天皇の問題とは切り離して、皇族数の減少や天皇陛下のご公務の負担軽減といった観点から、女性宮家の検討をすることは十分可能だと思います」と述べている。

 ところが、その前年の平成29(2017)年7月の朝日新聞のインタビューでこう語っている。

〈自民党政権に宿題として託したつもりだったが、安倍内閣で検討が進まなかったのは残念だ。これからの10年間でまず女性宮家、次に女性・女系天皇の問題に決着をつけなければならない〉

 女性宮家を女性・女系天皇につなげようという目論見を少しも隠そうとはしていなかったのだ。


■配偶者や子は皇族? 准皇族? 民間人? 噴出した女性宮家の問題点


 皇女案は、これまで述べてきたように、野田政権下での論点整理を土台に、二つの付帯決議の内の「女性宮家の創設等」について検討した結果であり、皇族の減少に伴う皇室の御活動を維持するための制度として打ち出されたものだ。それでは、なぜ女性宮家が否定されたのか。

 女性宮家は一般男性との婚姻を前提としており、皇室の歴史にない制度であって皇室という存在の質的変化をもたらすということを先に確認しておきたい。具体的には、配偶者やその子をどう遇するかという極めて難しい問題が生じてくる。野田内閣で行われた論点整理でも、以下のようにさまざまな意見が噴出し、その混乱ぶりが浮き彫りになった。

【1】配偶者に限って、一代限りで准皇族的な待遇を付与する
【2】配偶者や子についても皇族に準じた扱いをする
【3】配偶者や子についても皇族とする
【4】将来的な女系天皇を危惧するなら皇族としないことでもやむを得ない
【5】配偶者や子は皇族としない方が良い
【6】配偶者や子について民間人とした場合、戸籍、姓、家計などの面で不自然な家族となる

 これらの各案については、俗な言い方をすると、突っ込みどころ満載である。准皇族的な待遇を一代限りで付与した場合、その次はどうするのか? 先に女性当主が亡くなった場合はどうするのか、当主を引き継ぐのか? その子はどういう身分になるのか? 女性皇族には姓はないが、皇族とならない配偶者や子は結婚前の姓を名乗るのか? その方たちにも敬称を使うのか? 配偶者をいきなり皇族にしたり、皇族に準じた扱いをすることに果たして国民が納得するのか?――。女性宮家創設を口にする人たちは、この疑問にどう答えるのか。女性宮家を軽々に口にすることがいかに無責任なことかがわかるというものだろう。


■「両陛下をお支えしていくことに変わりなく」と語って皇籍を離れた女性皇族の言葉の重み


 問題は他にもある。仮に内親王が当主となる前に男性と交際していた場合、その男性が皇室のメンバーとしてふさわしいかどうかを誰がどうやってチェックするのか。誰もが心配することだ。もっと厳しい問題を指摘する声もある。仮に内親王が女性宮家の当主となったとして、そこに外部から伴侶として入ってくる男性が現れるとは限らないのだ。現実にはかなり難しいであろうことが想像できる。女性宮家の当主となっていただくには、前段としてご本人のご意思を確認することが絶対条件である。皇女と同じで強制はできない。宮内庁の幹部がこんなことを言った。

「ご結婚のご意思やお勤めの希望があるのに、宮家の当主として皇室に残るか、皇籍を離脱するかの二者択一という残酷な選択を迫られることもあり得る。それほど重大なことなのに、女性宮家を机上の空論で簡単に考える人が多いのは嘆かわしい」

 平成30(2018)年10月に結婚した高円宮家の三女の守谷絢子(あやこ)さんは、明治神宮での結婚式を終え、「皇族の一員に生まれるということは、天皇、皇后両陛下をお支えすることだと教わりながら育ちました。今日をもって私は皇族を離れますが、元皇族として天皇、皇后両陛下をお支えしていくということに変わりはございません」と記者たちに語った。皇族のご活動を支える方策を考える時には、こんな発言をされた方がいたことも忘れてはならない。内親王だけではなく、高円宮家や三笠宮家の女性皇族方(女王)、あるいは既に皇籍を離れている天皇陛下の妹である黒田清子さんも「皇女」の対象となっていただきたいと思う国民も少なくないかもしれない。

椎谷哲夫(しいたに・てつお)
昭和30(1955)年宮崎県都城市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、中日新聞東京本社(東京新聞)編集局で警視庁、宮内庁などを担当。宮内庁では5年余にわたり昭和天皇崩御や皇太子ご成婚などを取材。休職して米国コロラド州で地方紙記者研修後、警視庁キャップ、社会部デスク、警察庁担当。在職中に早大大学院社会科学研究科修士課程修了。総務局、販売局、関連会社役員を経て令和2(2020)年9月末、編集局編集委員を最後に退職。現在、ジャーナリスト(日本記者クラブ会員)として活動。著書に『皇室入門』(幻冬舎新書)など。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月2日 掲載

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