車両の“顔”を形作る「連結器」が、鉄道によって違うのはなぜ?

車両の“顔”を形作る「連結器」が、鉄道によって違うのはなぜ?

密着連結器を装着したJR東日本のE217系電車

■ベーシックな「密着連結器」


 連結器と聞いてピンとくる方は少ないだろうが、「すべての車両の、前から見て下のほうの真ん中について」いて、「鉄道の車両と車両を結ぶもの」と言うと想像できるだろうか。この連結器、鉄道によって違うタイプのものが使われている。車両の“顔”を形作る一部であり、その用途と合わせてとても大事な役割を担うこの部品のマニアックな世界へ、鉄道ジャーナリストがいざなう。

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 車両の前面を見渡せる場所に行くと、前面の下側中央から突き出した装置が目に入るはずだ。

 この装置が車両同士をつなぐ連結器である。

 ほぼすべての車両の連結器はこの位置にあるが、新幹線や特急用の車両など、なかにはカバーで覆われて見えない車両も多い。

 それから、湘南モノレールや千葉都市モノレールのようにぶら下がって走るモノレールの車両は、反対に前面の上側中央に連結器が取り付けられている。

 多くの人たちの目に留まった連結器は、恐らく箱のような形をしていたのではないだろうか。

 もう少し細かく言うと、箱形状の連結器の向かって左側には四角錐の突起があり、その右側には正方形の穴があるはずだ。

 このような連結器を「密着連結器」という。

 連結したときにすき間がないので、「車両が発進したり停止したりする際に衝撃がほとんど生じない」という特徴から名付けられた。


■「密着式自動連結器」と「自動連結器」


 連結するには、四角錐の突起を連結相手の正方形の穴に収めればよい。

 すると突起内部にある半円形状のロックがお互いにかみ合い、そのまま固定されて連結される。

 切り離す際にはレバーを引くと半円形状のロックが解除されるので、その状態で車両を動かせばよい。

 密着連結器は多くの車両の先頭車で見ることができ、特に大都市ではJR旅客会社のすべての電車、それから大手私鉄や地下鉄でも多くの電車に取り付けられている。

 先頭車を眺めると、大手私鉄や地下鉄のうち密着連結器が全面的に採用されているのは、西武鉄道、小田急電鉄、京浜急行電鉄、南海電気鉄道、阪神電気鉄道、札幌・仙台・神戸・福岡各市の地下鉄だ。

 一部の電車に密着連結器が装着されているのは東武鉄道、京王電鉄、京阪電気鉄道、阪急電鉄、東京メトロ、都営地下鉄、京都市の地下鉄、大阪メトロとなる。

 一方で京成電鉄、東急電鉄、相模鉄道、名古屋鉄道、名古屋市営地下鉄の電車には密着連結器が装着されていない。

 では、大手私鉄や地下鉄の一部の電車に取り付けられている密着連結器以外の連結器とは何だろうか。

 多くは「密着式自動連結器」で、一部に「自動連結器」が取り付けられている。

 どちらも基本的なつくりは同じだ。

 前から見ると拳骨のような形をしており、連結するにはまさにナックルと言って指の関節のような部分のロックをまずは解除する。

 続いてナックル同士を突き当てるとお互いに握り合う形となり、自動的にロックされて連結は完了だ。切り離す際にはロックを解除すればよい。

 密着式自動連結器と自動連結器とはどこが異なるかというと、連結したときのすき間、そして連結器本体が車体とは独立して左右に加えて上下に動くかどうかという点である。

 すき間が生じず、上下に動くのが密着式自動連結器、約2cmほどのすき間が生じて上下に動かないのが自動連結器だ。

 そうは言っても密着式自動連結器と自動連結器とはお互いに連結できる。

 けれども密着式自動連結器や自動連結器は密着連結器とは連結できない。


■日本初の鉄道には「ねじ連結器」


 狭い日本でなぜ連結器は統一されていないのであろうか。

 それは国内での連結器の発展の仕方と関係が深い。

 実は明治初期に開業した日本初の鉄道では、いま挙げた連結器が3種類とも採用されなかった。

 取り付けられていたのは「ねじ連結器」だ。

 これは車両の端に設けられたフックにリンクを引っかけて固定するというとても原始的な連結器で、いまでもヨーロッパを中心に用いられている。

 ねじ連結器は連結の際に係員がリンクを引っかけなければならないので、リンクの強度を上げて重くすると扱えなくなってしまう。

 このため、連結器自体の強度が低く、多数の車両を連結するのは難しい。

 それに連結や切り離しの際に係員が車両と車両との間に立ち入らなくてはならず、車両と接触してケガをしたり亡くなったりする事故が後を絶たなかった。

 いまのJRの前身である鉄道省はこうした状況を憂慮し、1925(大正14)年7月に一斉に連結器の取り替えを行った。

 対象となった車両の数は当時在籍していた約7万3000両のほぼすべてで、2018(平成30)年3月31日現在で在籍している全国の車両数の6万4557両よりも多い。

 特に1925年7月17日には全国の貨物列車をすべて止め、1日で4万1661両もの貨車の連結器を交換してしまった。

 これだけの両数の車両の連結器を一斉に取り替えた国はほかに存在しない。

 さて、1925年7月にねじ連結器から切り換えられた連結器は「自動連結器」である。

 自動連結器は強度が高く、連結の際に係員が車両と車両との間に立ち入る必要もない優れた連結器であったが、欠点もあった。

 先に紹介したとおりすき間があるので、旅客が乗る車両に用いると乗り心地が悪くなってしまうのだ。

 それに急カーブでは、ナックルをロックしていても連結器が外れる事故が起きてしまう。

 自動連結器の欠点に気がついていた一部の私鉄は、ねじ連結器からの一斉交換に前後して「密着連結器」を導入した。

 鉄道省も電車の連結器は密着連結器がよいと考え、1935(昭和10)年6月から取り替えを始めてほどなく完了している。


■出そろった3種類


 せっかくなので電車以外の機関車や客車、貨車、ディーゼルカーの連結器も密着連結器に替えてしまえばよいように考えられるが、そうはいかなかった。

 交換に手間がかかるのに加え、密着連結器のほうが前後に引っ張る力に耐える能力が低いので、機関車が客車や貨車を何両も連ねて走らせるには適していないのだ。

 それに、自動連結器の大きな欠点に見えるすき間も、重い貨車を機関車が引き出すときには役に立つ。

 すき間のおかげで機関車は一度に大きな力を負担しないで済み、特に出力の低い蒸気機関車ではありがたい。

 また、当時は少数派のディーゼルカーは機関車に引かれる機会も多く、密着連結器に替えてしまうと扱いにくかった。

 こうしてまず、自動連結器と密着連結器との2種類が誕生したのである。

 戦後になると、ディーゼルカーの乗り心地の悪さが問題となった。

 そこで自動連結器とも連結でき、すき間をなくした「密着式自動連結器」が開発される。

 大手私鉄で自動連結器を装着した電車も1950年代以降、密着式自動連結器に取り替えられていく。

 こうしていま見られる3種類の連結器が出そろった。

 となると、密着連結器も密着式自動連結器に交換すればすっきりするのだが、鉄道省後の組織でJRの前身の国鉄は検討すらしていない。

 例によって大量の電車の連結器を交換するのは莫大な手間を要してしまう。

 それに密着連結器はブレーキ用の空気管を内蔵していて、連結と同時に空気管の接続も完了するという密着式自動連結器にはないメリットもあるからだ。

 頻繁に連結と切り離しとを行う電車では、空気管も自動的に接続される密着連結器の長所は誠にありがたい。

 密着式自動連結器を採用した大手私鉄や地下鉄では、密着式自動連結器から密着連結器へと取り替えた電車も存在するほどだ。


■「相互乗り入れ」に関する問題


 いままで説明したとおり、大都市の電車では密着連結器と密着式自動連結器とが入り混じって使用されている。

 同じ路線を走っていない限り特に問題はないが、お互いに乗り入れを始めるとなると問題が起きてしまう。

 というのも、電車が故障などで立ち往生した際に他の電車と連結して救出してもらうには連結器がそろっていないと困るからだ。

 2013(平成25)年3月16日、東急電鉄東横線と東京メトロ副都心線とが相互直通運転を開始した際にもまさにこの問題が発生した。

 東横線用の電車が密着式自動連結器、副都心線用の電車が密着連結器をそれぞれ装着しているからだ。

 副都心線では東横線との乗り入れを始める前にすでに直通運転を行っていた東武鉄道東上線用、西武鉄道池袋線用の電車も全て密着式連結器を取り付けていた。

 そこで、東京メトロは東急電鉄に対し、自社の副都心線に乗り入れる電車の連結器を密着連結器に取り替えてもらうよう依頼したという。

 その際に、東京メトロの担当者は東武鉄道や西武鉄道の担当者からも東急電鉄に頼んでもらうよう声をかけたそうだ。

 ところが、東急電鉄は電車の連結器を交換するのが大変と、東京メトロの申し出を断る。

 東武鉄道、西武鉄道の両社は「東急さんがそうおっしゃるのなら構いません」とあっさり折れてしまい、東京メトロは東急電鉄の言い分を受け入れることとなった。

 その代わり、非常時用として密着連結器と密着式自動連結器とを連結するためのアダプターを装備することとなり、現在に至っている――。

 こう記すとアダプターを搭載しているのは東横線用の電車だと思われるかもしれないが、そうではない。

 密着連結器を装着した東京メトロ、東武鉄道、西武鉄道の電車が搭載している。

 いままでの連結器の説明でおわかりの方も多いかもしれないが、構造上、密着式自動連結器はアダプターを固定できないからだ。

 アダプターの先端には自動連結器のナックルが付いていて、後端にある密着連結器用の突起を密着連結器に差し込む構造となっている。

 したがって、密着式自動連結器には無理でも密着連結器にアダプターを取り付けることは可能なのだ。

 東急電鉄にも事情はあるものの、見ようによってはわがままにも受け取ることができるのが興味深い。

梅原淳
1965(昭和40)年生まれ。三井銀行(現在の三井住友銀行)、月刊「鉄道ファン」編集部などを経て、2000(平成12)年に鉄道ジャーナリストとしての活動を開始する。著書に『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)ほか多数。新聞、テレビ、ラジオなどで鉄道に関する解説、コメントも行い、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談室」では鉄道部門の回答者を務める。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月23日 掲載

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