民間病院がコロナ医療に参画できない理由 慈恵医大名医が明かす実態とは

民間病院がコロナ医療に参画できない理由 慈恵医大名医が明かす実態とは

小池都知事

■民間病院ではリスクが大きく受け入れられない


 医療崩壊が連日報じられた挙句、緊急事態宣言が出された日本。が、東京慈恵会医科大学で対コロナ院長特別補佐を務める大木隆生氏は「医療崩壊はしていない」と断言する。民間病院へのインセンティブ、2類指定の見直しなど、政府がいま行うべき政策とは――。

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「政府は新型コロナの重症者用ベッドに1500万円、一般病床に450万円を補助すると決めました。経済的インセンティブは大事で、私も安倍総理にそう進言し、予備費のうち1兆1千億円が医療支援に確保されました。それが今回の補助上乗せの原資です。しかし、もう少し有効な使い道があるかもしれません。

 大前提として、医療も経済活動なので、インセンティブがあれば誘導されます。逆に、国難だからと民間病院が赤字覚悟で手を挙げれば、経営者としての責任が問われかねません。要は1500万円といった一時金だけではなく、経済合理性があるようにお金を出す必要があります。

 現状では、院内感染が起きれば病棟シャットダウンのうえ、職員はPCR検査を受けて2週間の自宅待機を強いられる。これでは病院は大赤字になります。新型コロナ用のベッドを用意したら補助金を出すと言われても、その結果、院内感染が起きて赤字になっても、だれも補填してくれません。パンデミック収束後のことも考慮しなくてはなりません。ちなみに、徹底したゾーニングなど、新型コロナに真摯に対応した慈恵医大の今年度の赤字は、100億円の見通しです」


■医療従事者の手当てを飛躍的に上げる必要性


「ほかにも日本の医療のいびつな点に、同じ病院内ではどの診療科も報酬は同じ、という硬直化した給与体系が挙げられます。たとえば、過労死寸前まで働いていた私にも、ボーナスや時間外手当をふくめインセンティブは皆無でした。だから病床ごとに補助金を積み増しても、現場の最前線の医師や看護師に回らないのです。これではコロナ対応病院の医療従事者の疲弊が増して、離職者が増えるのも仕方ありません。一方、アメリカでは市場原理で医師の給与をフレキシブルに変えるので、需要と供給が一致しやすい。日本も医療崩壊を防ぐためには、新型コロナ対応をした医師、看護師、職員の手当を飛躍的に上げることです。

 実は、公的病院も十分に活用されていません。各病院の友人に問い合わせた結果、1月7日現在の重症患者の受け入れ数は、国立国際医療研究センター病院1名、自衛隊中央病院3名、国立病院機構東京医療センター2名、都立駒込病院0名、同墨東病院5名、同松沢病院0名、同広尾病院4名、同大塚病院0名などです。都内に六つある公社病院はゼロで、都内の私立医科大学は51名です。

 民間病院は経済的インセンティブで誘導し、公的病院は政治力で動かす必要があります。都立病院の各病院長のボス、すなわち「社長」は小池知事、自衛隊病院は防衛大臣です。東京都も医師会も、こういうデータを出して議論してほしいです」


■SARSと同じ扱いにする奇妙さ


「新型コロナは指定感染症の1類に近い2類相当なので、医療の効率が非常に悪い。毎回宇宙服のような出で立ちで患者を診療し、次の患者を診るときは脱ぐのです。また、感染者が1人出るたびに病棟閉鎖、関連職員の自宅待機の繰り返し。5類に分類されるインフルエンザは、熱があったら家にいて、つらかったら病院に行き、感染者に接触しても濃厚接触者にはなりません。そうやって柔軟に扱えるようになれば医療の効率も上がり、医療崩壊も格段にしにくくなります。

 そもそも第2類相当とは致死率10%のSARS、35%のMERSを念頭に置いていて、SARSは感染者数が世界で8千人、日本ではゼロでした。日本ですでに30万人近くが罹患している感染症に、その枠組みを適用するのが無理なのは明らかです。

 新型コロナの死亡率は、世田谷区が今月まで、健常や無症状の施設職員らに行ったPCR検査結果から推定すると、死の病といえるものではないことがわかります。5455人のうち陽性55人で、陽性率1・0%。東京都の人口は約1400万人なので、14万人が感染したことになり、それでその時点までの累計死者数を割ると、死亡率は0・4%。でも陽性率1%は10〜11月のスナップショットで、通年では下限が1%で上限は5%と思われる。するとインフルエンザの死亡率約0・03%に近づきます。

 実際、2020年の死因別ランキングを見ると、新型コロナは世界と米国では第3位ですが、日本では第36位で、31位のインフルエンザより下。また、新型コロナで亡くなった4千人近い人の平均年齢は、80歳を超えています」

「そもそも第2類感染症は、致死率が高く、未知で、治療法がない病気を念頭に置いています。すでに1年間付き合い、複数の治療薬が保険適用された新型コロナは、三つとも該当しません。10万人あたりの感染者数のグラフを見ても、米国、イギリス、ドイツと比較すると、日本は第1波も第2波もわからず、第3波でやっと目視できる程度です。しかし、圧倒的に多い米国やイギリス、ドイツも、ギリギリとはいえ医療崩壊を起こしていません。なぜ日本で医療崩壊が起きるのでしょうか。

 経済との両立を考える際、国民がこれだけ怖がっている以上、経済は元に戻らない、という意見もあります。しかし、だからこそ第2類から格下げすれば、国民に向けても、正しく恐れ、十分に注意しながら経済も回そう、というメッセージになります。指定感染症第2類から外せば、院内感染が少し増えるかもしれません。しかし、全体でみれば経済破綻が避けられ、より多くの病院が新型コロナの治療に参加できます。そう考えれば、多少のリスクは容認されると思います」


■開業医はコロナ治療にほぼ参画できない現状


「日本にはICUを完備し、コロナ患者の受け入れが可能な病院が千ほどありますが、受け入れ実績がある病院は310。残り700を動員するためにも2類相当を外すべきです。現状ではコロナ病棟のナースシフトも固定せざるをえず、そのチームが疲弊してしまいますが、2類でなくなれば、いろいろな病棟にヘルプを頼める。慈恵にはナースが千人ほどいても、コロナ病棟に従事しているのは60人程度です。みんなで分担するには指定が障害になります。

 このことは慈恵にある約200の空床の運用についても同じです。日本医師会の会員の大多数は勤務医ではなく開業医で、彼らは現在、新型コロナの治療にはほぼ参画できていませんが、指定が外れれば、在宅、ホテル療養している患者のケアに、もっと積極的に関与できます。また、受診抑制の結果としての経営難への処方箋にもなります。

 ICU使用率と真のベッド数、そこにテコ入れして受け皿をどれだけ増やすかという努力。それらをトータルで語らず、新規感染者数だけを報じて一喜一憂する無意味さと弊害を考えてほしい。東京都で新規陽性者が1日に2500人出たとして、人口1400万人の0・017%。そういう冷静な視点が必要です。

 私が重視するのは客観的データに基づく施策と、ゼロリスクはないことを念頭に益と害のバランスをとること。そして政策の持続可能性です。理想論を唱えても、短期間しか続かなければ元の木阿弥。コロナとの闘いが長丁場であることを念頭に、持続可能な対策をとるべきでしょう。緊急事態宣言は効果が定かでないうえに副作用が強く、持続可能な政策ではありません。また、医療体制を強化しなかったら、この先、何度も同じ局面に遭遇します。

 ただ、せっかく緊急事態宣言を発出したのですから飲食店に対してだけでなく、この機会に公的病院に加えて民間病院に対しても、思い切った財政支援を追加したうえで、新型コロナ対応の要請を発出すべきです。それを受け、各病院の院長が院内の各診療科に働きかけ、新型コロナに対応している医療者個人にも十分なインセンティブを与えることで報い、オールジャパンの態勢を構築すべきです。

「週刊新潮」2021年1月21日号 掲載

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