事件現場清掃人は見た お風呂で「お婆ちゃん」はなぜ煮込まれてしまったか

 自殺や孤独死で遺体が放置された部屋は、死者の痕跡が残り、凄惨な状態となる。それを原状回復させるのが、特殊清掃人の仕事である。2002年から特殊清掃に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を上梓した高江洲(たかえす)敦氏は、東京郊外の一軒家で、思いもよらぬ現場を目の当たりにした。

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 これまで高江洲氏が手掛けた事件現場は3000件以上。ぶら下り健康器を使って首吊り自殺した母娘、娘を刺殺して、自身の首を切って死んだ母親……。多くの凄惨な現場を目撃してきた高江洲氏でさえ思わずのけぞったのは、ある古い一軒家の浴室に入った時であった。

「60代の一人暮らしの女性が、浴室で亡くなっていました。最初、女性の姪御さんが、『お婆ちゃんと連絡が取れない』と警察に通報。警察官が窓を割って家に入ったところ、湯気が立ち込めた浴槽の中に女性の遺体を発見したそうです」

 と語るのは、高江洲氏。

 仕事の依頼は、姪御さんからだった。

「か細い声で『あの、お婆ちゃんがお風呂で亡くなっていまして……』と言うので、『ご確認はされたのですか?』と聞くと、『警察の方に見ない方がいいと止められて、まだ身内の者は誰もみていません』と答えました」


■48時間以上追い焚きされて


 そこで、早速現場に行ってみた。

「家の中は、すごくきれいに整理されていました。亡くなった女性の妹さんとその4人の娘さんが遺品を整理していました。浴室をのぞいてみると、?然とするほかありませんでした。浴槽には、赤褐色のゼリー状になった風呂水が悪臭を発していたのです。女性は心臓発作で亡くなり、3日後に発見されたそうですが、追い焚きをしたままの状態だったので、48時間以上お風呂に浸かったままでした。古い浴槽だったので、追い焚きが自動で止まる機能も付いていなかったんですね」

 想像しただけでも目を覆いたくなるような話だ。

「風呂水を処理するには、バキュームカーのホースで吸い上げるのが一番簡単なのですが、費用がかかります。妹さんたちに相談してみようと彼女たちがいた部屋を覗くと、5人は昔を懐かしむように遺品を整理していました。さすがにバキュームカーを使いますか、とはとても言えませんでした」

 そこで、風呂場の状況を説明した。

「彼女たちに、『時間がかかりますが、浴槽に残っている水をすくい取ってから浴室全体を清掃いたします』と伝えると、『わかりました』と承諾してくれました」

 結局、風呂桶で風呂水をすくい、トイレに流したという。

「ゼリー状の風呂水をすくってみると、固まっていた表面がやぶれ、たちまち強烈なにおいが立ち上がりました。さすがの私も、この時ばかりは逃げ出したくなりました」

■お婆ちゃん、どうもありがとう


 数時間かけてきれいに清掃し、においも消した。

「元通りになった浴室にご遺族を呼びました。彼女たちは風呂釜を囲んで泣いていました。そして口々に、お婆さんにお礼を言っていました」

《私たち、お婆ちゃんとこのお風呂に入ったのです》

《子どもの頃は、このお風呂で遊びました。思い出のお風呂なのです》

《お婆ちゃん、どうもありがとう》

「お婆さんが亡くなった日にも姪御さんは遊びに来ていて、『また来るからね』と言って別れたそうです」

 それにしても、何ともショッキングな亡くなり方だが、

「ご家族に見守られて息を引き取るのが、理想的な亡くなり方かもしれません。でも、思い出のお風呂で、親族5人が涙を流してお礼を亡くなったお婆さんに言っている光景を見て、決して不幸な別れ方ではないと思いました。お婆さんがみんなから愛されていたことが、本当によくわかりました。それが私にとっての救いでした」

デイリー新潮取材班

2021年2月2日 掲載

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