失政で消えた「コロナワクチン」6千万人分 河野太郎をワクチン担当相に据えた背景とは

失政で消えた「コロナワクチン」6千万人分 河野太郎をワクチン担当相に据えた背景とは

なにもご自身がウイルスにならなくても

 少なくとも日本では新型コロナは騒いでいるほどの脅威ではない。それはお読みいただければわかるが、にもかかわらず、多くの人は恐れている。そこで頼りになるのはワクチンだが、ファイザー社と契約していたはずの6千万人分が、失政の挙句、消えかかっていた。

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 パンデミックの最中、数字は刻々と変わるから、新型コロナウイルスがいかに恐ろしいかと、煽ろうと思えばいくらでも煽る余地がある。しかし、恐れすぎはまた、さらに恐ろしい結果を生み出しかねない。

「備えあれば憂いなし」という。実際、感染者数が減った夏から秋に医療体制を整えていれば、医療崩壊の心配も要らなかっただろう。一方、最悪の事態に「備え」るあまり、人々の行動を停止させれば倒産や失業を生み、心身に別の病気を呼び込みかねない。挙句、自殺や病死が増えれば、「備え」は「憂い」に直結する。

 ことさらに「備え」が必要だと強調しているのがテレビのワイドショーだ。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」では1月25日、コメンテーターで同局の玉川徹氏が「ゼロコロナをめざして徹底的に(感染者数を)下げる」と提案。日本医科大学特任教授の北村義浩氏もイギリス由来の変異種に触れ、「1・7倍くらい強い感染力がありますから、これだけ頑張っているという取り組みをしても、まったく抑えられません」と強調。「ゼロをめざすくらいの強い取り組みを、まず政府が」と玉川氏に同調した。

 感染を防止できさえすれば問題が解決するなら、ゼロをめざすのもいい。だが現実には、経済も社会も止まれば、生活の糧も生きる励みも奪われる人が、どれだけいるかわからない。コロナ禍で仕事が増えている専門家と、身分が保証されているテレビ局の社員ならではの発言、と指摘したらうがちすぎだろうか。

 恐れすぎてしまうのは、ある情報を一方向から眺めただけで、恐いと思い込むからだろう。しかし、危機において欠かせないのは物事を俯瞰する力である。たとえば変異種について、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授は、このように見る。

「変異種が今後、日本でも広がる可能性も否定はできませんが、日本はもともと1万人当たりの死亡率がイギリスの40分の1、感染率も20分の1程度。仮に変異種の感染力が1・5倍あっても、どれだけ影響があるでしょうか。感染者は少し増えても、感染爆発するとは到底思えません。致死率が3割高いという話もイギリスで出ていますが、そもそも日本の死亡率はイギリスの40分の1程度なので、あまり心配しすぎないほうがいい」

 新型コロナウイルスを買いかぶらないために、こんな例も挙げておこう。「このウイルスは無症状の若者が高齢者にうつすから恐い」といわれるが、それにどう備えればいいのか。

「発症するのは一般的にいえば、体内のウイルス量が閾値(いきち)を超えたとき。他人に感染させるには、ある程度のウイルス量が必要なはずなので、発症直前の無症状者が一番危ないと思います。一方、感染してもずっと無症状の人は多くの場合、ウイルス量が少ないと考えられるので、感染させる可能性は低いはずです」

 と、宮沢准教授。もっとも、発症する人としない人の区別はつかないが、

「自分も他人も感染しているかもしれないと思い、マスクをし、飛沫に気をつけ、手洗いをするしかありません。しかし、そうして感染対策を怠らなければ、感染させることもすることもないと思います」

 煽る報道に惑わされず、地道に感染対策をする。それで十分なのである。


■休校で子どもたちが犠牲に


 恐れすぎるとなにが起きるか。1月7日に出された緊急事態宣言は、各報道機関の世論調査によれば、9割前後の人が支持している。そもそも菅義偉総理が決断するに際し、世論に背中を押された面がある。

 だが、昨年の緊急事態宣言や再三の自粛要請は、自殺者の増加という副作用につながった。昨年の自殺者数は前年より750人多い2万919人。リーマンショック後の2009年以来、11年ぶりの増加で、特に女性は885人も増えた。痛ましいことに小中高生の自殺者も、68人増えて440人。同様の統計がある1980年以降で最多となった。

 国際政治学者の三浦瑠麗さんはこう見る。

「女性は非正規雇用が多く、失職しやすい。ハローワークに行ったりする人が少ない傾向もあり、失業者としてカウントされない人が一定数います。ですから、女性の失業率の実体は、表に出ている数字以上に悪化していると予想され、男性と同程度の失業率の上昇が、自殺者増に結びつきやすいのでしょう。加えて、シングルマザーのほうがシングルファーザーの家庭より貧困度が高いこと、産後の女性はうつになりやすいこと、子どもの休校時などに家事や育児の負担が女性にのしかかりやすいことなど、コロナ禍の政策のダメージを、女性のほうが受けやすかった。ところが、人と人との接触を避けるように求められ、社会的支援も得にくい状況が生じていました」

 だが、それだけでは説明できないという。

「私たちの調査でも、女性のほうがコロナ禍を深刻に受け止めやすい、との傾向が表れています。マジメで、ワイドショーの煽り報道を信じやすいのか。健康不安も女性のほうが高い。間違ったリスク認識が広がるほど、女性は深刻に受け止めやすいのだと思います」

 子どもの自殺が増えたことについては、どうか。

「アメリカでロックダウンの解除後に行われた調査で、若者の25%が、直近1カ月に自殺を真剣に考えた、と答えています。子どもの場合、大人より完全なロックダウンになりやすい。大人はリモートワークでも、週に1、2回出勤するのは普通ですが、子どもは休校になると学校にまったく行けません。学校再開後も、部活も音楽祭も禁止されるなど、大人以上に自由を制限され続けています」

 臨床心理士でスクールカウンセラーも務める明星大学の藤井靖准教授も言う。

「休校で学校生活が不安定になったばかりか、行事や友だちとの触れ合いも制限されました。複数の変化の積み重ねは子どものストレスになります。それが死にたい気持ちや自殺に結びついてしまう。また、親の生活が不安定になり、余裕を失ってイライラしていると、その感情は子どもに伝わります。しかも、学校とのかかわりが制限され、反対に、家にいて親とのかかわりは増えたので、家族の様子は二極化していたと思います。家族の時間を楽しんだ家庭がある一方で、もともと虐待傾向が見られた家庭では、その傾向が悪化した。実際、学校再開後、“家にいづらかった”“早く学校が始まってほしかった”と話す子が多かった。親になんでも話せる子ばかりではありません。学校の友だちや先生にしか話せないこともあり、それがコロナ禍で制限されてしまったのです」

 命と健康を守る、といって始まった一斉休校だったが、子どもが新型コロナに強く、重症化しないのはデータからも明らかだ。むしろ子どもが命と健康を奪われる失政というほかない。


■最終契約を結ばないまま


 それでも、FNNの最新世論調査では、「緊急事態宣言を出す必要がなかった」と答えた人は3・3%にすぎない。冷静になるにはワクチンが必要なようで、同じ調査でも、「ワクチンに期待する」という人は77・2%におよんだ。ところが、ワクチンをめぐっては政府内に軋轢が生じていた。

 1月20日、田村憲久厚労相は米ファイザー社が開発したワクチンについて、年内に約7200万人分の供給を受けることで「正式に契約した」と発表した。報じた記事には、〈厚労省が同社と昨年7月に結んだ基本合意では、今年6月末までに6千万人分を供給するとしていたが、契約では年内となり、数量が増えた〉とあったが、微妙な変更はどうして生じたのか。政府関係者が解説する。

「厚労省はファイザーの日本法人と、6月までに6千万人分のワクチンを供給してもらうことで、基本合意していた。ところが、薬害エイズで課長が起訴されたのがトラウマの厚労省は、ファイザーと最終契約を結んでおらず、その間に、日本への供給分は米国に回されてしまった。つまり6千万人分が〈6月末までに〉間に合わないことになっていたのです。慌てた官邸はファイザーの米国本社と交渉し、最終契約を結びましたが、供給時期は〈年内〉となって、五輪に間に合うかわからない。菅総理は大激怒し、河野太郎行革担当相をワクチン担当に据えたのです」

 ところが、お世辞にも調整が上手いとはいえない河野大臣は20日、厚労省の発表を受けた「接種の開始は5月ごろ」という報道をやり玉に挙げ、〈勝手にワクチン接種のスケジュールを作らないでくれ。デタラメだぞ!〉とツイッターに投稿。22日にも会見で「修正させていただく」と述べた。

 修正の対象は、坂井学官房副長官の「6月までに接種対象となるすべての国民に必要な数量の確保は見込んでいる」という発言だった。一方、坂井氏も「修正しません」と応じたのだ。

「6月までの確保を“見込む”を“めざす”にすることで落ち着きましたが、ワクチン接種の日程管理で主導権を握りたい河野大臣の思惑が働いた恰好です。もちろん、五輪前にワクチンが国民に行き渡らない可能性を懸念する、菅総理のいら立ちが影響していると考えられます」(同)

 大切なのは国民の不安を煽ることではなく、安心に結びつけることだろう。

 東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は、

「滞りなく供給してもらえるとありがたい」

 と希望を述べ、続ける。

「新型コロナのワクチンは予防効果も予想以上で、アナフィラキシーなどの副反応も、一般的なワクチンとくらべて多いわけではない。有効性も安全性も高く評価しています。一方、周囲の医療従事者に聞くと、40歳未満の若い医師や看護師には、周囲の様子や結果を見たいという慎重な人もいた。理由の一つは、各人のアレルギー反応や副反応への心配。もう一つは、医療従事者に万一、副反応が出たとき、病院の機能が低下することへの心配です」

 実際、感染拡大が深刻なアメリカでも、医療関係者の4分の1は、ワクチン接種に後ろ向きだという。それでも寺嶋教授が、多くの医療従事者が接種したほうがいいと説く理由は、

「一つは感染対策。ケガや手術で入院される方のなかに、症状はないのに思いがけずコロナに感染している人がいて、そこから医療従事者が感染し、ほかの患者さんに広めてしまう、という事例を予防し、病院の機能ダウンを防げます。二つ目は、不安の解消につながるから。医療従事者、高齢者、持病がある人の順に接種予定ですが、やはり身近な人が接種し、副反応が想定内で、はじめて実感が湧くと思います。また、ワクチンの保存から接種までのオペレーションが混乱なく進んでいれば、心配は払拭されると思うのです」


■永久に続けるのか


 浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫医師は、

「昔、打つと牛になると言って、天然痘の種痘を拒んだ人がいたそうですが、ワクチンの副反応への心配は、それに近いかもしれない」

 と指摘。そのうえでワクチンへの期待を述べる。

「私は、新型コロナは将来、風邪の一種になると言ってきましたが、ワクチンはその状況が訪れるのを早めてくれると思います。高齢者の重症化、死亡を防げるはずのワクチンを打たないという選択はしないでほしい。我々も新型コロナの患者を懸命に診ていますが、状況は厳しい。ずっと続けるのは難しいから、ワクチンを普及させ、早く普通の風邪にしてほしいのです」

 河野大臣はウイルスの真似をしている場合ではないのだ。しかし、普通の風邪になる前に自殺者がさらに増えても、本末転倒だ。免疫学が専門の順天堂大学特任教授、奥村康氏は、

「日本など東アジアの人は、新型コロナへの集団免疫がある程度できていると思う。それでも亡くなる人を守るのに、ワクチンには重要な役割があると思います」

 と述べ、あえて言う。

「コロナで1日に数十人亡くなったと大騒ぎする一方、肺炎で亡くなる人は毎日何百人もいる。少し離れて眺めれば、コロナで亡くなる人は、日本ではそれほどの数字ではありません」

 事実、昨年1〜8月に肺炎で亡くなった人は5万3306人におよぶ。しかし、2019年の同時期は6万4083人。コロナ対策の成果か、逆に減っているのだ。東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏が指摘する。

「毎年、日本では約140万人が亡くなりますが、昨年の死亡者数は10月までの統計では、一昨年よりむしろ少ない。コロナが日本の死亡率を上げたという事実はありません。インフルエンザでは毎年1万人が亡くなりますが、コロナでは5千人が亡くなると対策費を何十兆円も投じ、社会が大混乱する規制をかける。結果、インフルの死者が今季はほぼゼロ。衛生対策を頑張った結果で、それ自体はすばらしいですが、仮にコロナを克服しても、マスク着用や会食自粛、海外渡航制限などを続けなければ、またインフルで1万人が亡くなる。コロナでの5千人で大騒ぎする人たちは、永久にこの対策を続けないと筋が通りません」

 続けた結果、失業者があふれ、自殺者が増加し、感染者への偏見と差別が増す。コロナを恐れすぎるあまり、そんなおかしな社会にしてはならない、ということを肝に銘じつつ、医療従事者と高齢者、基礎疾患がある人たちへのワクチン接種を待ちたいものである。

「週刊新潮」2021年2月4日号 掲載

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