事件現場清掃人は見た 孤独死した老女の部屋を清掃した同業者が自死した理由

 孤独死などで、長期間遺体が放置された部屋は、悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、特殊清掃人の仕事である。2002年からこの仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、今も忘れられない同業者の死について聞いた。

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 特殊清掃は、強烈な死臭が漂う部屋で、故人の痕跡と格闘する過酷な仕事である。ベテランの清掃人でも、途中で投げ出してしまうこともある。これまで3000件以上の依頼を受けた高江洲氏でさえ、今も思わず目を覆いたくなる現場に出くわすという。

「辛いのは、死者の痕跡を目の当たりにすることだけではありません。清掃を行うにあたっては、遺族から故人の生前の話を伺うことがありますが、その人の人生に感情移入してしまい、しばらく立ち直れないこともあります」

 と語るのは、高江洲氏。

「凄惨な現場を清掃することはもちろん、ご遺族にもかなり気を使わなければなりません。そのためストレスが溜まってしまいます。特に、仕事を終えた後は、頭がぼーっとして、帰りの車の運転がうまくできず、危うく事故になりそうになったこともあります。現場では、いつもこの部屋で亡くなった人は自分とは無関係だと言い聞かせながら作業をしているのですが……」


■除菌剤を売って欲しい


 高江洲氏は特殊清掃のセミナーを開き、新規参入者のために清掃のノウハウを伝えている。テレビ出演したこともあり、この業界では知られた存在だ。

「5年前、20代前半の男性から、特殊清掃で使用する除菌剤を売って欲しいと電話がありました。特殊清掃では、人が亡くなった現場だけではなく、大量のゴミが溜まった部屋の清掃なども行います。彼は、まだ特殊清掃の仕事を始めたばかりらしく、色々とノウハウを教えました」

 高江洲氏のアドバイスを受けた後、男性は3DKの木造のアパートに住むお婆さんの部屋の清掃を行ったという。

「お婆さんの部屋を同僚と2人で、2週間かけて掃除をしたそうです。掃除をしていくうちにお婆さんと親しくなり、その後孫のようにかわいがってもらったといいます」

 男性から最初に電話があってから2カ月後、再び電話が……。

「お婆ちゃんが部屋で亡くなっていたというのです。死後何日も経っていたそうで、現場はかなりひどい状態だった。彼は、その部屋の清掃を請け負ったといいます。私は、作業の手順を細かく伝えましたが、彼はまだ経験が浅いので、大丈夫だろうかと心配になりました」

 さらに、その1週間後……。

「気になって彼に、ショートメールを送ってみたんです。『作業はうまくいきましたか』と。ところが一切返信はありませんでした」

 すると、1カ月後、彼の父親からショートメールが届いたという。

■父親からのショートメール


「『息子が自死しました。生前は、お世話になりました』という内容でした。もう?然としましたね。私も特殊清掃の仕事をした後、辛くて死にたくなったことが何度かありますから、彼の気持ちもよく分かります」

 父親からショートメールが届いてから2週間後、今度は高江洲氏の会社に電話があった。

「亡くなった彼と一緒に特殊清掃をやっていた、後輩からでした。自死した理由を教えてくれました。彼は、自分がお婆ちゃんの様子をマメに見に行っていたら、孤独死せずにすんだかもしれないと自分を責めていたそうです。そして、生きる意味を考え始めたといいます。仲良くしている人の特殊清掃をやることは普段以上にツライから、私は基本的に、知人の特殊清掃は行わないことにしています。彼は、本当に精神的なダメージを受けたんでしょう」

 かわいがってもらったお婆さんの部屋の清掃をすることは、彼にはかなりの精神的負担になったとみる。

「一般のサラリーマンに比べても、特殊清掃で得られる報酬はかなり高いと思います。人が亡くなったことで成り立つ仕事なので、いつも罪悪感が伴います。私は自分の身の丈以上の報酬ではないのかと思い、あまりためこむのはよくないと散財してしまうこともあります。とにかく亡くなった方のことを考えてしまうと精神的にも大変です。あまり長くはやっていけません」

デイリー新潮取材班

2021年2月15日 掲載

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