失言の「森喜朗」、暴行の「原田泳幸元マック社長」が晩節を汚した根本的な原因は?

失言の「森喜朗」、暴行の「原田泳幸元マック社長」が晩節を汚した根本的な原因は?

原田泳幸氏と森喜朗氏(首相官邸ホームページ/Wikimedia Commons)

 日本マクドナルドやベネッセなど、日本を代表する企業の代表取締役を歴任した、原田泳幸氏(72)が逮捕された。容疑は妻への暴行である。これまでも経営を巡る失策が取り沙汰されてきた原田氏だが、どうやら今回は家庭内での危機管理を失敗したようだ。奇しくも、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(83)も「女性」を巡る失言で辞任に追い込まれたばかり。なぜ彼らは晩節を汚してしまったのか? 大企業の危機管理に携わる株式会社リスク・ヘッジの専門家たちに分析してもらおう。

 まず、「プロ経営者」として知られる原田氏が、警察沙汰を起こしてしまった原因について、ヘッドアナリスト・田中優介氏が指摘する。

「月並みですが、暴力の直接的な原因は“怒り”です。危機管理において“怒り”は重要なテーマで、そこにはふたつの遠因が潜んでいます。ひとつは、相手の言動の想定ミス。もうひとつは、人間関係のデザインミスです。前者の“想定のミス”については、展開の予測不足が主因です。さまざまな場面で、相手の言動をよく観察しておけば、展開の予測は難しくありません。決定的な犯行の動機については捜査の進展を待ちたいところですが、おそらく原田氏は、日頃から奥さんの言動を十分に観察してこなかったのだと思います。だからこそ、想定外の言動に驚いて、怒りを爆発させてしまったのでしょう」

 こうした“想定ミス”は家庭内だけの問題ではなく、政治家や経営者も時折、同じ轍を踏んでしまう。

「最近では菅総理が、長男による官僚への接待疑惑を国会で追及された時です。普段は冷静な印象の総理が、気色ばんで“長男とは別人格です”と発言し、国民を唖然とさせてしまいました。質問を想定できていなかったのでしょう。あるいは、“8人会食”で同席した、みのもんた氏の言葉を、思わず真似てしまったのかもしれません。次男が窃盗で逮捕された時、みのさんも同じ趣旨の言葉を口にしていました」

 次に、“人間関係のデザイン”とは何を指すのか。

「相手との距離感や、上下の位置関係をあらかじめ描いていくことです。実は、多くの人はこうした関係を自分勝手に決めつけてしまいがちです。夫婦は一体の関係で、夫唱婦随が正しい、などという“デザイン”を夫が描いたとします。しかし、妻側としては、夫婦は別人格で、平等な関係性を望んでいたなら、ふたりはどこかの時点で激突が避けられません。もちろん、暴力行為は家庭内であっても犯罪ですが、原田氏にすれば何らかの理由があったのかもしれない。とはいえ、奥さんはそれを許さなかった。だからこそ、警察に通報したのだと思います。72歳の夫と55歳の妻。ひと回り以上年の差というギャップが、デザインの不一致を生んだ可能性もあると思います」

「プロ経営者」として名立たる企業の舵取りを任されてきた原田氏。プロの目から見て、彼の危機管理をどう映るのか。シニアコンサルタントの田中辰巳氏が答える。

「以前に一度だけお会いしましたが、その際に、攻めは強くても守りの危機管理は苦手な方と感じました。マクドナルドの代表を務めていた2013年、原田氏は記者会見で業績悪化について問われ、“メディアが100円マックが消えたと盛んに報道したせい“と責任転嫁したのが印象的でした。ベネッセで起きた顧客情報の漏洩事件でも、“被害者”意識を滲ませながら“金銭補償は考えない”と無責任な回答をした姿が記憶に残っています。どちらも怒りを抑えられずに、むしろ戦う姿勢を強調したわけです。本来、怒りは危機管理の天敵なのですが」

 では、瞬間的に湧き上がる怒りを抑えるにはどうしたらいいのか。

「心の中に“言葉の壁”を備えておくと、だいぶ抑制できるでしょう。たとえば、部下を叱る時には“デクレッシェンド”という言葉を壁として頭に置いておく。クレッシェンドは“だんだん強く”を意味する音楽記号です。実際の場面に置き換えると、憤りに突き動かさたまま“何やってるんだ!”と後輩を怒鳴りつけ、さらに、“そもそも君は!”と説教がクレッシェンドに続いていく。

 そうではなく、最初はきつく叱っても、“いつもの君らしくないね”と徐々にトーンダウンさせる、つまりデクレッシェンドを心掛けると、パワハラにも繋がりにくいのです。加えて、“べき論より損得”という言葉も有効でしょう。怒りというものは、自分の考える“べき論”から、相手の言動が外れた時に発生しがちです。あおり運転などもそうでしょう。べき論を乗り超えて損得で考えれば、腹は立ちづらくなるのではないでしょうか。謝罪会見の時などは、“揺さぶって言質を取るのが記者のテクニック”と思って臨めば、気色ばむことはなくなるはずです」

 他方、謝罪に使える言葉としては、

「“解毒に徹する”ことが第一です。危機管理には『感知・解析・解毒・再生』の4つのステージがありますが、謝罪会見はこのうち“解毒”のために行うものです。女性蔑視発言で辞任することになった森喜朗会長も、“解毒に徹する”と心に決めて臨めば、逆ギレのような発言は避けられたはずです」

 チーフオブザーバーの橘茉莉氏によると、他にも謝罪を失敗させる言葉があるという。

「それは“身内の擁護”です。身内が庇うような発言をすると、火に油を注ぐ結果となります。二階幹事長をはじめ、自民党の重鎮の方々は当初、森会長を庇うような発言に終始しました。“発言を取り消して謝罪したから辞任は不要だ”、と。そのせいで再び、批判の声が噴出してしまった。危機管理の専門家からすれば逆効果なのは明らかで、むしろ、森会長に恨みでもあるかのように映りました。

 ちなみに、“失言”は5種類ほどに分けられます。軽い順番に、(1)記憶違い (2)言い間違い (3)認識不足 (4)識見の欠如 (5)失言を装った故意犯です。周囲が庇って良いのは、せいぜい(2)までと心得てください」

株式会社リスク・ヘッジ
代表取締役 田中優介(ヘッドアナリスト) 
1987年、東京都生まれ。明治大学法学部卒業後、セイコーウオッチ株式会社入社。2014年、株式会社リスク・ヘッジに入社し、現在は同社代表取締役社長。著書に『地雷を踏むな―大人のための危機突破術―』(新潮新書)、『スキャンダル除染請負人』(プレジデント社)など。

取締役 田中辰巳(シニアコンサルタント) 
1953年、愛知県生まれ。慶應大学卒業後、アイシン精機を経て、リクルートに入社。「リクルート事件」の渦中で業務部長等を歴任。97年に企業の危機管理コンサルティングを手掛ける、株式会社リスク・ヘッジを設立。著書に『企業危機管理実戦論』など。

取締役 橘茉莉(チーフオブザーバー) 
横浜国立大学卒業。住友生命保険相互会社を経て、株式会社リスク・ヘッジに入社。

デイリー新潮取材班

2021年2月16日 掲載

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