コロナ禍でも「レンタル二郎食べる人」は人気、本人は「サービスを始めて人格も変わりました」

コロナ禍でも「レンタル二郎食べる人」は人気、本人は「サービスを始めて人格も変わりました」

"レンタル二郎食べる人"反響

レンタル二郎食べる人」というサービスをご存じだろうか。交通費さえ負担すれば、「二郎系」と呼ばれるラーメン店に一緒に食べに行ってくれるというシンプルなサービスだ。

 二郎系ラーメンを愛する大学生が当時話題になっていた「レンタルなんもしない人」風の文言でツイートしたところ、瞬く間に拡散され、申し込みが相次いだ。

 しかし、サービスを開始した2020年は新型コロナウイルスが猛威をふるい、飲食店での会食が制限された1年でもあった。サービスに影響はあったのか、「レンタル二郎食べる人」こと清水祐希さん(22)に、この1年を振り返っていただいた。

■ネタのつもりで


《『レンタル二郎食べる人』というサービスを開始します。1人で入りにくい、初めてでルールが分からない、食べっぷりを見たい、寂しい等、の場面でご利用ください。交通費だけいただければどこへでも(要日程相談)食べに行きます。飲食代は自分で支払います。美味しそうに食べるのが得意です。》

 このツイートを清水祐希さんが投稿したのは、2020年1月28日。これに注目度を表す「リツイート」「いいね」の数が、合わせて2万5000件以上もついている。当時、「レンタルなんもしない人」のヒットにより、「レンタル〇〇」という類似サービスを始める人が相次いだが、これほど多くの「いいね」を集めるサービスは出ていなかった。

 実は清水さん、東京都新宿区にある「ピコピコポン」という二郎系ラーメン店のアルバイト店員。普段は早稲田大学スポーツ科学部通う大学生だ。このツイートをした時は「クスっと笑ってもらえる文章でラーメンの魅力を伝えよう」とネタ感覚で投稿しただけで、実際にサービスを開始することになるとは思っていなかったという。

「バイト先の宣伝を任されていたので、店のまかないの写真などをツイートしていたんです。これも宣伝の一環で、ネタのつもりで書いたら思いのほか反響があって、やらざるを得なくなったという感じです。何より僕と二郎でラーメンを食べたいって人がこんなにいてくれることに驚きました」

■塩分がヤバイ


 なぜ「二郎食べる人」のサービスに人気が出たのか。その理由のひとつに、「二郎系ラーメン」のハードルの高さがある。

ラーメン二郎」とは、東京都・三田に本店をおくラーメン店のこと。こってりとしたスープに太い麺、分厚いチャーシューと山盛りの野菜が特徴的で、価格設定もリーズナブルなことから、一部の人たちに絶大な人気を誇っている。ラーメン二郎に魅了されたファンのことを示す「ジロリアン」という言葉が生まれるほどだ。一方で、量の多さや、トッピングの頼み方、食べる時の暗黙のルールなど、「二郎」独特のしきたりがあり、行ったことのない人や食の細い女性にはハードルが高い面もある。

「二郎系はルールが厳しいというイメージがあるみたいですね。(店の前にできる行列で)並んでいる間に店員が注文を聞いてきたり、食べ終わったらすぐに店を出なければいけなかったり……。もともとは1杯の単価が安いので回転率を上げるために工夫されてきたことなんですが、それが初めての人には『怖い』というイメージを与えるみたいです。女性の場合『完食できるか不安』という方も多くて、店によっては『麺4分の1』などの頼み方もできるのですが、行ったことがない方はわからないですよね」

 興味はあるけれど、ハードルが高い。そんな「二郎」に、詳しい人が一緒に行ってくれる。そこに需要があり、清水さんが始めた「ラーメン二郎食べる人」は、一躍人気サービスとなった。

「この1年で受けた依頼は131件、合計160人くらいの方とご一緒しました。6〜7割が女性です。20代の方が多いですが、小学生の子連れや50代の夫婦に依頼されたこともあります。サービス開始当初は昼と夜の1日2回、毎日二郎に行ってました。所属する柔道部の寮では夕飯も出るのでそれも食べて……。体重もですが塩分がヤバイので、水をたくさん飲むようにしています」


■コロナに助けられた


「スーパーJチャンネル」「アウト×デラックス」など地上波TVへの出演を始め、YouTubeなどメディアへの露出も多い。タレント顔負けの滑らかな語り口だが、もともとしゃべることは得意だったのだろうか。

「いえ、全く。テレビを見た中高時代の友達から『こんなしゃべるやつだったか?』って、驚かれるぐらいです。普通の大学生だった自分が、二郎を通じてテレビに出たり知らない人から相談されたりするようになるなんて驚きです。小学生の時から柔道一筋で女性と話す機会もほとんどなかったのに、この1年で100人近い女性と食事をしたのもすごいことだと思います」

 身長180センチ、体重110キロの立派な体躯に柔道全国大会の優勝経験もある猛者だが、話し方は丁寧で、言い回しも謙虚。この人柄もサービスが人気となった理由のひとつに違いない。

 ところで、清水さんがツイートをしたのが2020年の1月28日。その直後、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」における新型コロナウイルスの集団感染が明らかになり、マスクやトイレットペーパーが品薄に。4月には最初の緊急事態宣言が発令され、外出の自粛、飲食店の営業が制限されるなど、飲食関係のサービスは厳しい局面を迎えた。

「レンタル二郎食べる人」のサービスにも影響はあったのだろうか。

「依頼の数は毎日というわけではありませんが、コンスタントにあります。メディアに露出するとグワーっと増えて、あとはポツポツと。今は週2回ぐらいです。毎日二郎だと塩分過多になりそうなので、そこはむしろコロナに助けられたような。感染についても、店舗内でおしゃべりするわけではないので、対策さえしていれば問題ありません。食べきれない麺を引き受けて食べる『麺ワープ』は自分もキツイし、コロナの問題もあるので止めました。今は、駅から店までの道のりで食べるスピードや量を聞き取って、依頼者が食べられる量のラーメンを注文するようにしています」


■行動原理は愛


 実際に二郎系のラーメン店「ピコピコポン」へ同行してもらうと、「普段ラーメン食べますか?」「普通のラーメンを一杯食べきれるのでしたらミニは大丈夫かと」など、こちらの食べられる量を聞き取りながら、注文を決めるのを手伝ってくれた。麺が提供される少し前に「にんにく入れますか?」と聞かれ、それがにんにくだけではなく、ほかのトッピングも含めた追加の合図であることや、オススメのトッピング、食べ方についても教えてくれる。「あぶら」を増量した清水さんは、あぶらのかかった野菜をつまみのように食べるのが好きだというので試してみた。なるほど、あぶらが甘くてうまい。肉も分厚く、とても850円とは思えないガッツリとした食事だった。

「僕の場合、肉にかじりつきたいと思ったら二郎に行くんです。こんな安価で迫力のあるお肉を食べられるところ、ほかにありませんから」

 肉を食べにラーメン店へ行く。中々ない発想だが、あの分厚さなら頷ける。店内には置いていないティッシュペーパーとウェットティッシュを持ち歩き、さらにはブレスケアまでくれるという、まさに「二郎初心者」にとって痒いところに手が届くサービスだ。

「僕と一緒に行ってくれた方から、『2回目は1人で行けました』とか『麺4分の1にして食べきれました』とか報告を受けると、二郎食べる人冥利に尽きますね。僕をきっかけに二郎に通うお客さんが増えて盛り上がってくれれば嬉しく思います」

 初心者の案内役となることが多いが、二郎ファン、いわゆる「ジロリアン」からも連絡をもらうことがあるという。

「全国にのれん分けをした“直系”と独自に修行して店を構えた“支店”を合わせて41店舗がありますが、その全店舗を制覇した記念に一緒に食べたい、とか、コロナが落ち着いたら京都店行きましょう、とか。会津若松店まで青春18きっぷで行ったこともあります。遠すぎて友達もついてきてくれないから、一緒に行って欲しいという依頼でした。サービスについても『行動に移してエライ』というようなことを言われます。勝手に二郎食べる人を名乗って怒られないかなと思っていたのですが、特にお叱りを受けることもなく、安心しました」

「飲食代は自分で支払います」という謙虚な一文も「ラーメン愛を感じる」と好意的に受け止められている理由のひとつらしい。清水さんの目的は「二郎系ラーメンの宣伝」で、レンタルサービスの行動原理は二郎愛そのもの。なぜ、そこまで二郎を愛してしまったのだろうか。

「二郎は人生を変えてくれた存在です。お店ごとに味も違うし、これほど熱中できる食べ物はありません。独自のルールがあるところも外国に行ったみたいな非日常感が味わえて楽しいし、このサービスを始めて人格まで変えることができました。大学院進学予定ですが、社会人になっても、僕に需要がある限り、体が持つ限り続けたいと思います。むしろ、二郎に適応した体に進化したいですね」

 3度通うとヤミツキになると言われる二郎系ラーメン。行ったことのない方は、いつか「レンタル二郎食べる人」を利用してみてほしい。新しい扉が開けるかもしれない。

森下なつ/ライター

デイリー新潮取材班編集

2021年2月17日 掲載

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