事件現場清掃人は見た 孤独死した男性の弟に居酒屋オーナー夫妻がしたあり得ない提案

 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り、悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。2002年からこの仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏には、今も忘れられない現場がいくつもある。今回は、孤独死した友人の兄のケースについて聞いた。

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 まったくの他人同士でも、夫婦や家族以上の強い絆で結ばれていることがあるという。高江洲氏の高校時代からの友人には、父親が異なる兄がいた。

「友人からある時、『相談がある』と連絡がありました。『実は、兄弟がいることが分かった』と言うのです」

 と語るのは、高江洲氏。

「突然、警察から電話があったそうです。彼に戸籍上のお兄さんがいて、その人が大阪のアパートで孤独死したため、遺品や遺骨を取りに来て欲しいと告げられたといいます。この時、初めてその存在を知ったそうです。母親は再婚して友人を産んだそうですが、改めて母親の戸籍謄本を確認すると、孤独死したというお兄さんの名前が記されていました。友人は、お兄さんが住んでいたアパートの遺品をどう処理していいのか教えて欲しい、と言っていました」

 高江洲氏は、まず現場がどんな状態なのかを確認するようにアドバイスしたという。


■アパートの清掃をやらせてほしい


「お兄さんが住んでいた大阪のアパートは1Kで、荷物が多く、ゴミも散乱していました。病死してから、死後5日経ってから発見されたといいます。夏場でしたので、死臭がかなりあったそうですが、大家さんからは、『荷物を引き取ってくれたらそれでいい』と言われたそうです。私の経験上、事故物件となった場合、大家さんから特殊清掃の料金を請求されたり、損害賠償を請求されたりすることがあります。何も請求されなかったということは、お兄さんと大家さんは、とてもいい関係を築いていたのだと感じました」

 結局、高江洲氏は友人から、このアパートの特殊清掃を依頼された。

 友人は警察から、お兄さんには生前懇意にしていた人がいるので連絡するように言われたという。

「友人が電話をすると、居酒屋のオーナーが出たそうです。工場に勤務していた兄はその居酒屋の常連で、夫婦で切り盛りしているその店に、仕事帰りに立ち寄るのが習慣でした。そのため、オーナー夫妻とお兄さんは家族同然の付き合いをするようになったそうです」

 オーナー夫妻は、お兄さんが住んでいたアパートの清掃をやらせてほしいと申し出た。

「私はそんなことがあるのかと、驚きました。いくら親しくしていたとはいえ、死臭ただよう部屋の掃除を他人が買って出るなんて、これまで経験がありませんでしたから」

 最終的には、アパートの清掃はオーナー夫妻と数人の店の常連で行うことになった。

「一軒の居酒屋を介してつながった、年代も出身地もさまざまな人たちが、身寄りがないと言われていたお兄さんを弔ったのです。おそらく故人の思い出を語り合いながら、みんなで賑やかに作業をおこなったのでしょう」

■お骨を私たち家族の墓に


 友人は、兄のお骨や遺品を受け取るため、再び大阪を訪れた。そして、部屋を片付けてくれたオーナー夫妻にあいさつに行った。

「すると、夫妻は友人に『お兄さんの骨を、私たちの家族の墓に入れさせてください』と申し出たそうです」

 友人は、しばらく言葉が出なかったという。

「夫妻は、お兄さんを身寄りがないと思っていたわけですから、生前冗談交じりに、『死んだらうちの墓に入ればいいよ』と話したことがあったのかもしれません。とはいえ、結局弟がいたわけですから、夫婦がわざわざそこまでやる必要はない。お兄さんに対する、並々ならぬ愛情を感じました」

 友人は、お兄さんのお骨を夫妻に渡すことにしたという。

「友人は、『本当にこれで良かったのかな』と言うので、私は『君がお兄さんの立場だったら、どうしてもらいたい』と言いました。彼はしばらく考え込んだ後、自分の出した答えに納得したようでした」

 友人の兄が住んでいたアパートの大家さんや居酒屋のオーナー夫妻、常連客はみな優しい人たちだったそうだが、

「今回は、人と人との絆の強さに触れることができました。この時ばかりはいつもの仕事の辛さを忘れて、本当に幸せな気持ちになれました」

デイリー新潮取材班

2021年2月19日 掲載

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