出張から帰ると美人妻も子も犬も消えていた… 不倫の恋も破れたアラフィフ男の慢心

出張から帰ると美人妻も子も犬も消えていた… 不倫の恋も破れたアラフィフ男の慢心

「犬は僕にいちばん懐いていたのに……」とマサユキさんは嘆く

 妻に不倫を疑われ、否定はしたものの不倫相手と別れられず、結局、どちらも失ってしまう。もう少しうまく立ち回れなかったかと思うものの、後悔先に立たず。こんな男性は少なくない。

 マサユキさん(仮名=以下同・49歳)は、2年前に離婚した。「した」というよりさせられたといったほうがいいかもしれない、とは本人の弁である。

「1週間のアメリカ出張から戻ったら、家に誰もいなかったんです。妻も、当時16歳だった息子も、14歳の娘も、そして犬も。犬は僕にいちばん懐いていたのに……」

 成田から妻に電話したが出ない。家の固定電話にかけたらすでに「この電話は使われておりません」とアナウンスが流れた。「嫌な予感」はなかったとマサユキさんは言う。その鈍感さが妻に嫌われた理由かもしれないのだが、彼はそれに気づいていない。

「玄関を開けてすぐ、妙な雰囲気には気づきましたよ。下駄箱の上にかかっていた、妻のお気に入りの絵がなくなっていたから」

 彼は29歳のとき、社内恋愛で「他社から見に来る人がいる」ほど美人で有名だったルリさんと結婚した。2歳年上の姐さん女房だから、マサユキさんの母親は反対したが、彼の耳には入らなかった。

「僕は見たとおり決してハンサムではありませんから、社内でも『どうしてあいつがルリさんと結婚できたんだ』と大騒ぎになりました。ルリは、誰が見ても美人だけど気が強いことでも有名でした。仕事もできたんですよ。だから僕みたいな平凡な男が、どうして彼女をということになった」

 ただ、ルリさんはどこか古風なところもあり「結婚したら私は家庭を守る」と言い出した。マサユキさんとしては仕事をしていてくれたほうがいいと思ったのだが、彼女の思いは尊重した。

「子どもがふたり生まれて、専業主婦となったルリはとても幸せだとよく言っていました。今で言うワンオペになりがちでしたが、彼女の実家が近かったし、彼女自身、『あなたはとにかく仕事でがんばってちょうだい』と言っていた。だからがんばりましたよ」

 妻にお尻を叩かれる状態ではあったが、彼は仕事に邁進した。35歳で営業部長補佐という異例の出世も成し遂げたのだという。

「たまたま営業に向いていたのと、当時の営業部長と馬が合って、とにかく仕事が楽しかったんです。週末でもどちらかは仕事をしていましたね」

 その代わり、土曜か日曜の1日は必ず子どもたちと話したり遊んだりした。妻と一緒にスーパーに買い物に出かけがてら、1週間分の話をするのも楽しかった。

「ルリのことは本当に愛していたし感謝もしていた。妻もそれはわかってくれていると信じていました」


■結婚して16年、妻に「緊張」していた


 それなのに、営業部長となって数年たった45歳のとき、魔が差したというのだろうか。彼は「すとん」と恋に落ちてしまったのだ。背景には、妻が夫婦の営みを拒むという状態があった。

「その時点ですでに10年近く、妻とは関係がありませんでした。一緒にお風呂に入るし、手をつないだりハグしたりはするんだけど、夜中にベッドに潜り込もうとすると逃げてしまうんです。『こんなに好きなのに』と言うと、妻は『私もあなたのことが大好き。でもあの行為はどうしても好きになれないの』って。もっと求めようとすると泣くんです。泣いている妻には何もできない。それさえなければ妻はいつも上機嫌でやさしい。自然と求めなくなりました」

 それが原因というわけではないが、結果的に彼が恋に落ちてしまったのは、どこか満たされないものを感じていたからだろう。

 相手は、仕事のスキルをブラッシュアップするために参加したセミナーで知り合った10歳年下の女性だ。ホテルでおこなわれたセミナーで彼女と名刺交換をして好感をもち、そのままホテル内のバーで一杯飲んだ。

「たったそれだけのことなのに、当たり障りのない話をしただけなのに、彼女――ミユキのことが忘れられなくなった」

 翌日、彼からメールを送って、その晩、食事をともにした。結婚してから、プライベートで女性とふたりきりの食事などしたこともなかったのに、そのときの彼は自分でもことのなりゆきに驚いていたという。

「もともと恋愛なんてそんなに縁がなかったし。モテたこともありません。なのにあの時は夢中になりましたね」

 その次のデートで彼女をひとり暮らしの部屋に送り、そのまま数時間を過ごした。

「彼女も僕を欲していたと言ってくれて……。照れくさいですが、あのとき、生きていてよかった、男として本当にうれしいと感じました」

 それから10日間、続けて会った。仕事で遅くなっても、30分でも彼女に会って声が聞きたい、抱きしめるだけでいいとせっぱつまったように彼女を求めた。

「10日ぶっ続けで会って、ようやくこのままではマズい、ペースを落とさなければと思ったんです。それからは1週間に1度くらいかな、ふたりで食事に行って帰りに彼女の部屋に寄るという感じで会っていました。ときには映画を観に行ったり、彼女はお芝居が好きだったのでチケットをとってくれて一緒に行ったり。僕にはない趣味を彼女はもっていたから刺激にもなりました」

 妻と彼女を比べたことはない。だがそのとき、彼は気づいたのだという。

「結婚して16年経っていましたが、それでも妻に対して緊張していたんだとわかったんです。結婚当初の緊張感が抜けていない。社内一の美人と評判だった妻の前では、いい夫を演じてしまう。だけどミユキの前では、もっとダメな自分でいられるんです」

 妻に緊張し、妻に尻を叩かれたからこそ結婚後に出世できた自分がいる。だがミユキさんと一緒にいると、もともとの「ダメ男」でいることができる。それは彼にとって、唯一、リラックスできる時間だったということだろう。


■「ねえ、浮気してる?」


 2年ほど、ミユキさんとはうまくいっていた。ミユキさんは離婚歴があり、いつも「もう結婚はしたくない。だから私はあなたを束縛しないし、家庭を優先させていいからね」と言うほどさっぱりした女性だった。

「『いつか年をとって、万が一、オレがひとりになったらミユキと一緒に住みたい』と言ったことがあるんです。それは僕の本音でもありました。妻が先に逝けばいいと思ったわけではない、だけどいつかひとりになったら、という妄想を抱くことはあったので。でもミユキはじっと僕の顔を見て、『考えておくわ』って。僕が一番ではないのかとちょっと不安になりましたが、彼女はそういう女性なんだろうなとも思った。決して重くならず、常に軽やかに生きていきたいと言っていました」

 そのころマサユキさんは、いつものように出社しようとしたときに妻から「ねえ、浮気してる?」と聞かれたことがある。それは「いってらっしゃい」の代わりにごく普通に妻の口から飛び出してきた。

「あまりにも突然で、あまりにも自然だったので、思わず、うっと詰まってしまいました。瞬時に立ち直って、『なんだよ、急に』と笑いながら言ったのですが、妻はにこりともせずに『なんかそういう気がしただけ』って。何かに気づいたのかとあれこれ考えを巡らせたけど、妻が僕の携帯を見ることはないはずだし、ミユキが妻に連絡をとってくるはずもない。どういうことなのかと心に重いものを詰めこまれたような気分でした」

 その晩、帰宅してからわざと軽い調子で、「今朝のひと言はなんだったの、何か疑ってるの?」と聞いてみたが、妻に「ちょっと言ってみただけ。気にしないで」と躱された。

 その後、マサユキさんがアメリカ出張から帰ると……自宅は冒頭で触れた有様だった。


■マサユキさんが理解していなかったこと


 のちに相手側の弁護士から聞いたところによれば、やはり妻は、彼の不倫の事実をつかんでいた。最初は「何かがおかしい」という妻のカンだった。

 彼がミユキさんと恋に落ちたばかりのころだ。

「夫の帰宅時間はいつも不規則だったから、帰宅が遅いから疑ったわけではない。ある日、夫が『ただいま』と言ったとき、その声の調子や言い方が、いつもの『ただいま』ではなかった。そこから疑うようになった」

 妻はそう言ったのだという。夫を愛していたからこそ、妻はその微妙な「ただいま」の違いに敏感になったのだろうか。

 いつか浮気をやめるだろうと思っていたが、一向にやめる気配がない。探偵事務所に頼んで相手の住まいも突き止めた。

「妻はミユキに会ったそうです。お互いにけんか腰にはならず、ミユキは妻に謝った。妻は謝らなくていいと言った。そして妻は子どもたちを連れて出て行ったんです」

 マサユキさんがミユキさんに連絡をとろうとしたが、電話はつながらなかった。受信拒否をされたのだ。

 その後、離婚が成立した。家を処分し、すべての財産を整理して、そのほとんどを妻に渡した。マサユキさんに残ったのは、誰にも言わずに貯めていた200万円だけだ。

「妻は実家に戻りました。僕は子どもたちには自由に会っていいということになっていますが、離婚してすぐに子どもたちに謝ったとき、ふたりとも無言だった。それが引っかかって、なかなか会いたいと言えませんでした。ただ、18歳になった息子とは先日、ようやく会えた。涙が出ました。息子にひたすら謝って『もういいよ、大人には大人の事情があったんでしょ』って言われて、さらに泣けてきて……」

 ミユキさんとは、あれきりだ。電話を拒絶、メールの返事もないことが、彼女の意志だと受け止めるしかなかった。ただ、何も言わずに去ったミユキさんには、今も未練があるようで、いつか再会できるのではないかと期待しているとつぶやいた。

「ミユキに恋してしまった。それは事実だし、後悔してはいけないような気がするんです。でも一方で、家庭を壊す気なんてまったくなかったのに、どうして妻はあんなにいきなり僕を見捨てたのか。それがどうしても納得できない。いや、妻から見れば僕の不倫は許せないでしょう。でも子どももいるんだし、家庭、家族ということを考えたら、あんなに急に出て行かなくても……。せめて怒りをぶつけてくれればよかったのに」

 妻が許してくれると思っていたのだろうか。世の中には、泣いて謝れば許してくれる妻もいるかもしれない。だが、ルリさんがそういう女性ではないと理解していなかったことが、彼の“敗北”につながっているのではないかと思えてならなかった。ミユキさんに関しても同様だ。バレたら潔く身を退くタイプの女性であることは、彼がいちばん分かっていなければならなかったのではないだろうか。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年2月24日 掲載

関連記事(外部サイト)