「医師会」が緊急事態宣言の延長にこだわる本当の理由 民間病院に患者が溢れてくることを懸念

医師会に過剰なメディア発信と問題視する声 経済を犠牲にして個人病院を救う思惑か

記事まとめ

  • 医師会は「徹底的に感染者を抑え込むべき」と訴え、メディアを通じて報じられている
  • しかし、医師会は開業医と個人病院の団体で、その利害にもとづいて動いているという
  • 開業医や個人病院でコロナ患者を受け入れたら、経営悪化につながりかねないらしい

「医師会」が緊急事態宣言の延長にこだわる本当の理由 民間病院に患者が溢れてくることを懸念

「医師会」が緊急事態宣言の延長にこだわる本当の理由 民間病院に患者が溢れてくることを懸念

日本医師会の中川俊男会長(2021年2月10日)

 ワクチンの接種開始は朗報だ。菅総理は日本医師会の中川会長に協力を求め、快諾を得た。だが――。経営者として腕利きの中川会長は当然、取引で見返りを期待している。緊急事態宣言をできるだけ続け、経済を犠牲にして個人病院を救う、という見返りである。

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 先月7日、1都3県などで緊急事態宣言が再び出される際、西村康稔経済再生担当相は、解除の判断基準は「東京なら1日の新規感染者が500人まで低下すること」と明言した。それから約40日、今月12日に総理官邸で開かれた新型コロナウイルス対策本部の結論は、10都府県すべてで解除見送り、であった。

 新規感染者数が減らないならまだわかるが、2月16日時点で、都内の1日当たりの感染者数は、10日連続で500人を下回り、1日平均370人ほどにまで減少していた。ところが西村大臣はテレビ出演し、「公約」を反古にした理由は説明しないまま、「減少の度合いが鈍化している」などと言い出す始末である。

「国民は“500人を切ったからなんとかなる”と思って努力を重ね、明るい光が見えてきたところで、なぜ緊急事態宣言を解除しないのでしょうか。これでは国民への裏切りです」

 と、東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏が意見する。

「政府の基本方針がぶれているのが問題です。コロナ対策と経済のバランスをとる、という筋が通っていればいいのですが、GoToのせいで第3波が起きたと批判された途端に、命が大事だという方向に一気に向きました。経済に振れたり医療に振れたりし、いまは2回目の緊急事態宣言にしがみつき、医療側に偏りすぎていますが、このぶれが一番悪い。骨太の方針があれば、一回言ったことは変わらないはずです」

 もっとも、政府に裏切られた世論も怒りを表明しない。たとえば、毎日新聞の最新の世論調査でも、緊急事態宣言を「3月7日の期限まで続けるべき」という回答が47%、「3月7日以降も延長すべき」が22%で、合わせると7割近い。だから、政府はラーメン店の倒産が過去最多、観光バスの倒産や廃業が過去最多、というニュースは無視して世論に迎合した、という見方もできよう。

 では、このような奇妙なほど萎縮した世論は、どうやって形成されたのか。

 日本医師会の中川俊男会長は会見などで再三、宣言解除の前倒しに慎重であれと訴え、「第4波が来ないレベルまで徹底的に感染者を抑え込むべきだ」と発言している。また、東京都医師会の尾崎治夫会長は、「いま解除すると、4月には1日に千人、2千人になり、第4波が来る可能性が高い」と指摘。「可能性」の算出根拠は明かさないまま、感染者数を、1日100人ほどまでに抑えるよう呼びかけている。

 こうした発言が連日、メディアを通して報じられれば、世論が緊急事態宣言の継続に導かれるのも自然に思われる。だが、医師で東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授は、

「私はかねてから、大手メディアが医師会の新型コロナに関する発言を取り上げること自体、大問題だと考えていました」

 と話す。なぜか。

「日本医師会は開業医と個人病院の団体です。しかし、日本で新型コロナ患者を受け入れているのは、病院全体の約2割にすぎない公的医療機関が中心で、開業医や個人病院ではなかなか患者の受け入れが進みません。医師会は彼らの利害にもとづいて動きます。コロナ患者を受け入れ、一般患者の足が遠のいたり、職員に感染者が出たりすれば、経営悪化にもつながりかねません。本音ではコロナ患者を受け入れたくない、しわ寄せを受けたくない、と考えているのではないかと疑う人も多いです。しかし、この有事に、中立とは言いがたい病院の経営者の“代表”の意見を報道していいものでしょうか」

 だが、いまのところ、事は医師会の思惑通りに進み、後述するが、ワクチン接種とからんで、彼らの発言力はさらに増している。一方で、医師会が拒む「しわ寄せ」は、ひとえに飲食店や観光産業、文化事業などが受け、ひいては経済全体に及ぼうとしている。


■知事が好き勝手に命令を


 緊急事態宣言が解除されないまま、2月13日に施行されたのが、改正特別措置法である。休業や営業時間短縮の要請に応じない事業者に、都道府県知事が命令を下し、罰則も適用できるようになったわけだ。都内南部の居酒屋の店主は、

「いまも常連さん限定で、夜8時以降も営業していますが、今後も続けます。一番大きいのは僕のプライドです。何年もお金を貯めてようやくオープンできた店ですし、この店が好きで来てくれるお客がいるかぎり、罰金を支払うことになっても営業します。アルバイトの子の収入のこともありますね。本業と掛け持ちで働いている子が多く、みなコロナのせいで本業の稼ぎが減っていて、ここのアルバイトまでできなくなったら、本当に生活が立ち行かなくなってしまいそうです」

 と語る。営業することが法を犯すことになるのであれば、それを是としがたいのは言うまでもない。しかし、法に従うことが、すなわち破滅につながる人が少なからずいることも、また事実なのである。

 たとえば、和食レストラン「権八」やカフェ「ラ・ボエム」などを運営するグローバルダイニングは、これまで一部店舗を除き、時短要請に従っていなかった。が、長谷川耕造社長は、12日に行われた決算発表の会見で「法律ができたら守るのは納税と同じですから」と発言。不本意ながらも法の施行後、時短営業を命じられた場合は、それに従う姿勢を明らかにした。

 だが、米村教授は、そもそもこの改正特措法に問題があると、こう指摘する。

「一般的な法律には、国や自治体がどんなときに、どんな手続きで、どんな内容の命令を発することができるのか、明記されています。法律には基本的に、権力を行使できる場面を絞っておく、という考えがあるからです。ところが特措法には、そうしたことが改正前から明記されていません。“緊急事態だから、都道府県知事に特別な権限を白紙委任してもよい”という考えが基本にあり、事実、知事たちは緊急事態宣言下で権限を行使できます。そのうえ知事たちは、まん延防止等重点措置を、6カ月という期限つきで発動できるようになった。要は、今後は緊急事態下でなくても、総理が必要と判断すれば、知事たちは時短営業などの命令ができるようになったのですが、具体的にどういう必要に迫られたとき、と限定されていないのです」

 飲食店などは、生殺与奪の権を知事にすっかり握られてしまったわけだが、それに止まらないという。

「命令の対象を飲食店に限定するとも書かれておらず、都道府県知事の権限で県境を封鎖するなど、ロックダウンに近い措置も可能なはずです。また飲食店については、3密状態で接待を伴う店から、30分に1度は店内の空気を入れ換えられる設備が整った店まで、十把一絡げに規制するのは問題です。重要なのは、危険な行動を慎んでもらうことに尽きます。それなのに、期限つきで緊急事態宣言と同様のことができるようにするだけなのは、思考停止も同然。独裁国家ではないのに、知事が好き勝手に命令できる状況など、あってはなりません」

 こうして飲食店等には八方ふさがりの状況下、米製薬大手ファイザーが開発したワクチンが、14日に承認されたのは、せめてもの朗報だろう。そんなワクチンに不安があっては、九方も十方もふさがってしまうので、ここでワクチンのリスクを子細に検討したい。


■日本医師会の圧力


 東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は、

「新型コロナのワクチン接種で、副反応が生じる可能性はたしかにあります」

 と言うが、その内容は、

「ファイザー社製は20万分の1、モデルナ社製は36万分の1の確率で、急性アレルギー反応“アナフィラキシー”を起こすと報告されています。ただ、これは一般のワクチンでも100万分の1の確率で起きていることです。また、ファイザー社製も、接種開始直後の10万分の1が、いまは20万分の1にまで減った。今後、100万分の1という数字に近づく可能性もあると思います」

 具体的な副反応についても説明してもらおう。

「大別して3種類が想定されます。(1)が接種から30分程度で起こる副反応、(2)が1〜2日で起こる副反応、(3)が長期的に起こる副反応です。(1)はアナフィラキシーショックと迷走神経反射が挙げられます。迷走神経は身体をリラックスさせる自律神経。ワクチンの筋肉注射で強い痛みを感じたり、恐怖心や不安感があったりすると、迷走神経反射で血圧が低下し、脈が遅くなり、眩暈(めまい)を感じたり意識が遠のいたりします。頭を低くして横になっていれば収まりますが、注射などに恐怖を感じる方は、接種後30分程度、人目の届く場所に待機しておくといい。またアナフィラキシーショックは、全身の皮膚の赤い腫れ、呼吸困難、唇やまぶた、舌の腫れ、腹痛や吐き気といった症状が出ます。ただ、そうした症状が出たのは、ファイザー製を接種した189万人中21人で、死者は報告されていません。激しい呼吸困難や血圧の急低下には、アドレナリン注射で血管を収縮させ、反応を抑える治療ができます。また21人中17人は、以前にほかのワクチンや薬、食品などでアレルギーを起こしたことがあり、さらに7人は過去にもアナフィラキシーを起こしていました」

 では、どういう人が反応しているのか。

「米CDC(疾病予防管理センター)などの分析では、ワクチンの中核mRNAを包むカプセル、ファイザーの場合はポリエチレングリコール、モデルナの場合はポリソルベートに対し、アレルギー反応を起こしているのではないかと示唆されています。これは歯磨き粉やシャンプー、化粧品などにも含まれる成分で、それらに敏感な方や、食物や薬、ほかのワクチンにアレルギーがある方は、接種前に医師に申告し、万一のときに治療してもらえるようにしておくといいでしょう」

 残り二つの副反応だが、

「(2)は、インフルエンザのワクチンなどでも見られる一般的な副反応で、接種部位の痛みや腫れ、発熱や倦怠感、頭痛などの症状が出ることがありますが、さほど心配要りません。最後に(3)。若い方を中心に心配されている方が多いと思います。ただ、長期的な副反応の詳細は明らかになってはいませんが、ワクチンの仕組みから起きにくいと思っています。現在、コロナワクチンにはファイザーとモデルナのmRNAワクチンと、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンがあります。前者はメッセンジャーRNAというタンパク質の設計図を細胞に取り込ませ、体内でウイルスの表面にあるSタンパクを形成し、抗体を生成する。後者もSタンパクの設計図となるDNAを組み込んだワクチンで、アデノウイルスなど人体に無害なウイルスが運び屋として使われる。いずれも細胞に取り込まれた後、分解されて長くは体内に残らないので、長期的に人体に影響を及ぼすとは考えにくいのです」

 まず、全国100の国立病院で、医師や看護師約4万人を対象に先行接種が始まる。続いて3月中旬、370万人の医療従事者への接種が始まり、寺嶋教授はそこに含まれるという。

 そして一般への接種が続き、その際、開業医や個人病院の協力も不可欠であるのは言うまでもない。そこで「ワクチン接種体制の構築に全力で取り組む」と強調し、同時に「感染者数が下がりきらない状態で対策を緩めるな」と圧力をかけているのが、日本医師会の中川会長である。

 菅義偉総理は10日、中川会長と官邸で会談し、「ワクチン接種体制整備への格段の支援」を求めたが、お願いすれば、相手の言い分を聞かざるをえなくなるのは、世の道理。中川会長の術中にはまった感もある。


■過剰なメディア発信


 問題は、なぜ医師会は緊急事態宣言の延長をこうも訴えるのか、である。

「医師会は、感染者が増えて公的病院から医師会会員の民間病院にまで患者があふれてくるのを、できれば避けたいと思っているのでしょう。そのため緊急事態宣言の延長にも、ワクチン接種への協力にも、積極的になっているのです」

 と言うのは東京脳神経センター整形外科、脊椎外科部長の川口浩氏。医師会が重ねて訴えるのは、「命のため」ではなく、「自分たちのため」だというわけだ。

「緊急事態宣言解除の六つの指標のうち、なお目に見えて減少に転じていないのは“病床の逼迫具合”です。原因は、重症もしくは中等症から回復しても辛さが残る患者さん、退院できるまで体力が戻るのに時間がかかる高齢者を、受け入れてくれる後方病院の不足。コロナ患者を受け入れる指定病院と、その後方病院が連携し、回転率を上げられれば解決に近づきます。後方病院は急性期の患者の治療には当たらないので、有床の開業医や個人病院が担うこともできるはず。医師会会員には使命感の強い先生は多くおられます。医師会がすべきは、政府や分科会の対策への根拠のない介入や批判ではなく、エビデンスにもとづき、コロナ患者への医療提供体制の再構築策を提示することです」

 そのために提案する。

「新型コロナの扱いを指定感染症2類相当から格下げする。インフルエンザと同程度のウイルスという認識が広がれば、一般患者もコロナ患者の受け入れ病院を避けなくなるでしょう。喫緊の課題としては、どうすれば後方病院になってくれるか、会員から聞き取るのもいい。後方病院になった結果、ほかの患者が怖がって来院しなくなるなら、金銭的補償をするなど、やり方はある。エビデンスにもとづいて政府と相談していくことが、医師会の本分でしょう。“影響力があります”“国民の健康を考えています”という自己存在感アピール、過剰なメディア発信は、同業者から見ても目に余ります」

 国際政治学者の三浦瑠麗さんも言う。

「日本医師会は業界団体ですが、現に政府の政策を縛っている以上、その主張を精査する必要があります。いま医師会は“緊急事態宣言を再び出さなくていいように、感染者を十分に減らそう”と主張していますが、それは、病床数を一切増やさない前提でのシミュレーションにもとづいていると思われます。法律があっても飲食店の営業を制限できるのは、実効再生産数の上昇局面で病床が逼迫するなど、緊急性がある場合に限られるでしょう。感染対策をし、人に危害を加えていない営業活動を引き続き制限する権利は、医師会には認められず、認めれば自由主義の根幹に抵触します」

 前出の唐木氏は、

「日本医師会も東京都医師会も、自分たちの担当は地域医療で、新型コロナには手を出したくないという姿勢で、一貫しています。中川会長の、コロナは国立病院が対処してくれ、感染者が増えると迷惑なので減らしてくれ、国民は努力してくれ、と評論家的な言動もそこからきています。医師会としては、人の命が大切だという、だれも反対できない建前が大事。一方、社会が混乱し、それによって失われる命があることには、彼らは触れません」

 と、医師会の本質をあぶり出したうえで言う。

「一番の問題は、医療体制を充実させると言いながら、させてこなかったこと。それなのに責任を国民に押しつけ、自粛を呼びかけている。そろそろ国民も怒らなければいけません」

 中川会長、経営者の鑑だが、残念ながらコロナで苦境の経営者に見習う余裕はなく、国民の多くはその“手腕”に気づいていない。だが、時間はあったのに医療体制を整えず、彼らの付け入る隙を作った菅政権の責任も重い。医療を拡充し、エビデンスを基本に新型コロナの扱いを見直すまで、コロナ禍は人災である。

「週刊新潮」2021年2月25日号 掲載

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