事件現場清掃人は見た 閉鎖された団地で孤独死した「男性」と「押し入れの穴」の関係

 孤独死などで遺体が長期間放置された部屋は、目を覆いたくなるような悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。2002年からこの仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を上梓した高江洲(たかえす)敦氏に、団地で孤独死した男性の話を聞いた。

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 ある日、高江洲氏の会社にある市役所から電話が入った。閉鎖されていた団地の一室を清掃して欲しいとの依頼だったという。

「閉鎖されていた団地には人は住んでいないはず。最初は妙だなと思いました」

 と語るのは高江洲氏。

「詳しく事情を聞いてみると、団地の一室で身元不明の男性の遺体が発見されたというんです。病死して、半年後に発見されたということでした。遺体の一部は白骨化していたといいます」

 高江洲氏は早速、見積もりをするために東京郊外の団地に向かった。


■人の背丈ほど積まれたゴミ


「団地の1階部分は、窓やドア、階段の入り口すべてにコンパネ(合板)が釘で打ち付けてありました。ところが、敷地奥にある一室の入り口だけはコンパネがはがされていたのです」

 部屋の入口には、人が出入りしていた形跡があったという。

「部屋の間取りは2DKで、中に入ると死臭と食べ物の腐敗臭、糞尿の臭いが立ちこめていました。さらに奥の部屋を見ると、恐るべき光景が広がっていました。ペットボトル、ビールの空き缶、コンビニ弁当のトレー、マンガ雑誌や成人向け雑誌などの生活ゴミが、人の背丈ほどもうず高く積まれていたのです。室内に大量にあったマンガ雑誌のタイトルを見ると、私と同世代、つまり40〜50代の人が読むようなマンガでした。亡くなった方もこれくらいの年代だったのだと思います」

 部屋にはロウソクの燃え殻があり、卓上カセットコンロや空になったカセットボンベがあったという。

「男性は、この部屋に勝手に住み着いたんです。当然、電気、ガス、水道は止まっています。窓はコンパネで塞がれていたので、外から光も入ってきません。ロウソクを灯しながら、長い間暮らしていたのでしょう。蒲団もなく、ゴミの上に寝ていたようです。ゴミの量から考えると、数年間は住んでいたようです」

 あまりにゴミの量が多すぎて、清掃は4人で行ったという。

「一番大変だったのはトイレでした。水が出ないので汚物が山のように積もり、トイレットペーパーの代わりに使用した雑誌の切れはしが散乱していました。ポンプで吸い出すことができず、すべて手で掻き出すことになりました」

 部屋のゴミをあらかた片づけた後、押し入れを開けてみた。すると、そこには意外な光景が……。

■「行旅死亡人」


「押し入れの床に大きな穴が開いていたのです。穴を覗いてみると、案の定、床下一面にゴミが溜まっていたのです」

 ゴミは、床下の隅々まで溜まっていたという。

「床下でかなりの期間、生活をしていたのです。最初は床下で隠れるように寝泊まりしていたんでしょう。ところが、見つからないと思って、床下から出て部屋で暮らすようになったのでしょう。床下の高さは1・6メートルあって、押し入れの穴の下には脚立もあった。それを使って昇り降りしていたようです」

 男性は、玄関で亡くなっていたという。

「特殊清掃では、玄関まわりが主な作業場所になることが多いのです。つまり、突然身体に異変を感じ、助けを求めるも玄関先で倒れてしまう人が少なくありません。おそらく、この男性も似たようなケースだったと思われます」

 清掃には4日もかかったという。ゴミの量は2トントラックで8台分にも及んだ。

 高江洲氏にとっても、こうした事例での清掃は初めての体験だったという。

「身元が判明せず、引き取り手が存在しない死者を法律上『行旅(こうりょ)死亡人』と呼ぶそうです。字面からわかるように旅先で亡くなる場合もあれば、山林や河川で遺体が発見される場合もあります。身元がわからない状態で亡くなれば、誰でも行旅死亡人になります。自治体が火葬を行い、遺骨は無縁仏として埋葬されるそうです」

 高江洲氏は、このケースのように、空き家で人知れず亡くなる人が増えるのではないかと危惧する。

「日本ではこの数年、空き家が大きな問題になっています。このまま人口減少が進むと、一般住宅の4戸に1戸が空き家になるという予測さえあります。生活苦で、行き場を失った人たちが空き家に勝手に住み着いて亡くなる。今までになかった孤独死の形が増えるかもしれません」

デイリー新潮取材班

2021年3月9日 掲載

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