事件現場清掃人は見た 自殺した「20代男性」の部屋のテーブルを見て想像した光景

 自殺や孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。2002年からこの仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、ネットで知り合った男性と自殺した20代男性の話を聞いた。

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 高江洲氏が経営する会社は、24時間体制で仕事の依頼を受け付けている。

「10年ほど前の話です。深夜、会社にかかった電話が私の携帯に転送されてきました。時間を気にしたのでしょうか、呼び出し音は数回鳴って切れてしまいました」

 と語るのは、高江洲氏。こんな時間に電話をかけてくるのは、切羽詰まった状況にある依頼者に違いないと思い、すぐにかけ直したという。

「『なにかお困りの事情がおありでしょうか?』と聞くと、相手はびっくりした感じでした。そして、かぼそい女性の声で『実は、兄が自殺をしてしまいまして……』と言うのです。かなり動揺しているようでした」

 高江洲氏は、女性が冷静になるのを待って、遺体が発見されるまでの経緯を聞き出した。


■自殺系サイト


「彼女のお兄さんが亡くなったのは、3日前。現場は東京近郊の1Kのアパートでした。練炭自殺でしたが、部屋にはもう1人、見知らぬ若い男性の遺体があったといいます。2人はどうやら自殺系サイトで知り合った間柄らしいということです。私は事情を聞いて、彼女に必ず力になるからと約束し、電話を切りました」

 高江洲氏は翌日、現場に向かった。

「妹さんとそのご両親の3人が出迎えてくれました。通常、現場の確認には遺族も立ち会っていただくことになっていますが、女性に生々しい自殺の痕跡を見せるのはどうかと思い、父親だけに立ち会ってもらいました」

 部屋は、2カ所ある窓、クローゼット、エアコンすべてガムテープで目張りがされていた。

「テーブルやベッドの脇などに計6個の練炭の燃え殻がありました。テーブルの上には、ウイスキーが入ったロックグラスが2つあり、睡眠薬が無造作に置かれていました。練炭に火をつける前、2人はウイスキーで睡眠薬を飲み、死の恐怖を和らげようとしたのでしょう。そう思うと、悲しい気分になりました」

 亡くなった2人は、どちらも20代前半だった。ネットで知り合った男性も後日、身元が判明したという。

「2人で一緒に自殺するケースはけっこう多いですね。1人で死ぬのが怖いから、ネットで仲間を探すようです」

 部屋には通勤カバンや書類などがあり、自殺した男性は会社勤めをしていたこともわかった。

 自殺願望のある人がネット上にある自殺系サイトで仲間を探し、一緒に自殺する“ネット自殺”は1990年代から発生しているが、近年増加傾向にある。コロナ禍の影響もあってか、警察庁の委託を受けたネット上の違法・有害情報を監視する「インターネット・ホットラインセンター」(IHC)によると、警察庁に通報した自殺系サイトの情報は2020年上半期(1〜6月)で、19年同期(733件)の4倍以上の3042件にものぼる。

■“事故物件”は5年間の告知義務


 遺体は、ベッドの上とベッド脇で発見された。

「死後3日といっても夏場でしたから、血痕と体液がベッドとカーペットの上に残っていました。もっとも、腐敗臭はほとんどありませんでした」

 2人が自殺したことで、アパートの大家は激怒したという。

「アパートで自殺があった場合、新規の契約者には、“事故物件”として5年間告知する義務があります。自殺があると、退去者が続出し、大家さんは大きな損害を被り、訴訟にまで発展することも珍しくありません。そこで、私は遺族にハウスクリーニングとクロスの張り替えを提案しました」

 遺族はその提案を受け入れた。同時に、高江洲氏は大家に掛け合ったという。

「大家さんはかなり立腹しているようで、最初は相手にしてもらえませんでした。けれども、ハウスクリーニングとクロスの張り替えを提案したら、何とか同意してくれました」

 高江洲氏は遺品を運び出し、ベッドとカーペットを撤去。ハウスクリーニングとクロスの張り替えを行った。

「作業には4日かかりました。仕事を終えてトラックに乗り込むと、ご遺族が3人揃ってやってきて、何度もお礼を言ってくれました。トラックが走り出しても、ルームミラーには深々と頭を下げる3人の姿が映っていました。ご遺族もこれでようやく一息つくことができたのだろうと考えると、少しはお役に立ててよかったという気持ちになりました」

デイリー新潮取材班

2021年3月12日 掲載

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