法廷で「よっしゃー!」と喜んだ「アポ電」強盗犯 裁判官が見誤った“酌むべき事情”

法廷で「よっしゃー!」と喜んだ「アポ電」強盗犯 裁判官が見誤った“酌むべき事情”

須江拓貴被告

 己の犯した罪と向き合おうとしない者を、法で裁くのには限界があるかもしれない。男は「アポ電強盗」に入り80歳の女性を死亡させた罪で起訴され、無期懲役を求刑されていた。だが、一審判決で懲役28年の有期刑を言い渡されると、人目をはばかることなく「よっしゃー!」と叫んだのだ。男を歓喜させた判決とは――。

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■閉廷直後に響いた男の叫び


「閉廷します」

 裁判長の言葉で、法廷の全員が起立・礼をした直後のことだった。傍聴席の扉が開かれ、傍聴人たちが外に出ようとした刹那、被告人席から雄叫びが聞こえた。

「よっしゃー!」

 叫んでいた男は、つい先刻、懲役28年に処されたばかりの男であった。傍聴人が振り返る。

「みなが唖然としていました。被告は法廷にスーツ姿で現れ、一見、反省したそぶりを見せていましたが、まったく反省していないんだと誰もが思いました」

 3月9日、東京地方裁判所で開かれた「江東区アポ電強盗致死事件」の判決公判での一コマである。「よっしゃー」発言は、即日テレビや新聞で報道されたが、実は男は他にもふてぶてしい態度を見せていた。

「彼は主文言い渡しの直後に、証言台で裁判長に対し、90度深々と礼をしてから『っした!』と叫んでいました。“ありがとうございました”の語尾だけを強調した、居酒屋店員が客を威勢良く見送る時のような言い方です。被告は彼を含めて3人いましたが、叫んでいたのは彼だけでした」(同)


■世間を震撼させた「アポ電強盗」


 法廷で遺族感情を逆撫でするような態度を見せた被告の名は、須江拓貴(24)。まずは彼が犯した罪を振り返りたい。

 事件が起きたのは、2019年2月28日午前11時頃。須江被告は、小松園竜飛(29)、酒井佑太(24)の両被告と3人で、加藤邦子さん(当時・80)が一人暮らしをしていた東京都江東区のマンションを、宅配業者を装い訪問した。そして加藤さんの手足をラップフィルムなどで緊縛し、口を粘着テープで塞いで抵抗させない状態にして、室内の金品を強奪しようとしたのだ。

 加藤さん宅に押し入る10日ほど前に、彼らとは別の詐欺グループが、加藤さん宅に家族を装い「家に金はあるか」と確認する電話を入れていた。彼らはその情報を元に押し入ったのだが、結局、何も探し出せずに退散したばかりか、加藤さんを死なせてしまったのである。


■他にも数々の凶悪事件を起こしていた3人


 現場付近の防犯カメラから、逃走に利用した車がすぐに割り出され、事件発生から半月後の3月13日、3人は逮捕された。逮捕後、彼らがSNSなどで知り合った他の詐欺グループメンバーらと組んで、なりすまし詐欺や凶悪な強盗を繰り返していたことも判明した。判決で犯罪事実として認定された余罪を列記する。

●2018年10月 警察官になりすまして電話した後で、神奈川県横浜市の当時57歳の女性宅を訪問。キャッシュカードをだまし取り、現金約136万円を窃取(酒井被告と他のメンバー)

●2018年11月 大阪市の路上で、当時47歳の男性に暴行を加え、財布の入ったカバン(時価合計15万円相当)を強奪(酒井被告と他のメンバー)

●2019年1月 東京都中央区日本橋の会社事務所に空き巣に入り、金庫等(時価合計3万円相当)を盗む(須江、小松園の2被告と他のメンバー)

●2019年1月 埼玉県越谷市で、不正入手した女性のキャッシュカードで金を引き出そうとするも未遂に終わる(須江被告と他のメンバー)

●2019年2月 警察官を装い、東京都渋谷区笹塚の老夫婦の家に侵入し、手足を縛ったうえで暴行を加え、現金400万円ほか定期預金証書等、時価合計123万円の金品を強奪(須江、小松園の2被告と他のメンバー)

●2019年2月 長野県佐久市のブランドショップに空き巣に入り、財布など35点(販売価格合計230万円相当)を盗む(須江、小松園、酒井の3被告)

 最後のブランドショップの空き巣事件は、加藤さん宅にアポ電強盗に押し入った同日の出来事だ。彼らは深夜2時過ぎに長野で空き巣に入った足で、東京に向かい、次の事件を起こしたのである。


■検察側は無期懲役を求刑したが……


 公判で争点となったのは、加藤さんの死因だった。検察側は「首を圧迫させたことによる窒息死」だったと主張し、強盗致死罪で最も重い無期懲役を求刑した。一方、弁護側は「事件によるストレスで慢性心不全が急激に悪化して死亡した」として、懲役22〜26年の有期刑が相当と訴えた。

 東京地裁の守下実裁判長は、弁護側の主張を認め、死因を「慢性心不全の急激な悪化によるもの」と認定した。その上で、主犯格の須江被告に懲役28年、他2人の被告に27年を言い渡した。

 検察側は、被告らが加藤さんの頸部を圧迫させたことを示唆する所見として、眼瞼や眼球結膜に高度の溢血点や溢血斑が発現していたと主張したが、判決では「ステロイドを比較的長期にわたって、服用していたことで血管が脆くなって出血しやすい状況にあった可能性がある」と退けられた。地裁は、頸部の表面に目立った内出血等が見当たらなかったことも重視し、加藤さんが窒息死した可能性はあるとしながらも、慢性心不全で亡くなった可能性を排斥できない限り、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従うべきだとした。

 量刑理由で守下裁判長は、「死因の一つの要素である被害者が慢性心不全の状態にあったことは被告人らが知り得ない事情」だったと述べ、先に笹塚で起こした緊縛強盗で被害者に傷害を負わせていなかった点にも言及。その上で、「被告人らが行為に及ぶ際に、被害者を死亡させるリスクを想定するのは容易ではなかった」と指摘した。

 また、一連の犯行が短期間で、犯罪で得た収益の取り分の多くを得るべき「上位者」がいたことも考慮した上で、酌量軽減し、有期懲役刑とすべきと判断したと述べた。


■量刑理由で述べられた「酌むべき事情」


 このように、弁護側の主張が全面的に認められた判決だった。無期懲役と有期刑は雲泥の差である。

「現在の運用では、無期懲役に処せられると、少なくとも30年を経過しないと仮釈放の対象とはなりません。仮釈放は申請したからといって簡単に認められるものではなく、日弁連は“無期懲役は事実上の終身刑”と批判しているくらいです。一方、有期刑の場合、模範囚であれば3分の2くらいの刑期で仮釈放を得られる可能性があります」(司法関係者)

 だからこそ、須江被告は「よっしゃー」と叫んだのだろう。

 守下裁判長は須江被告に対し、“酌むべき事情”として、次のようにも述べていた。

「罪を認め反省の弁を述べており、一定程度内省を深めていることがうかがわれる。強盗致死の被害者遺族に被害弁償を申し入れている」

 だが遺族は、須江被告が見せた態度から反省の情を感じただろうか。28年という刑期で、この男が更生し、社会復帰できるとは到底思えない。

デイリー新潮取材班

2021年3月16日 掲載

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