いじめ問題が相次ぐ川口市教委が、県教委の指導や裁判長の要求にも不誠実対応

昌之くんの弁護団は、いじめを定めた法律に問題があるとする市の主張を「とんでもないこと」と批判する

 東京都の北側に隣接する、埼玉県の川口市。市立中学校に通っていた林昌之くん(17=仮名)は、いじめを受けた当時の学校や市教委の対応が不適切だったとして、市を訴え損害賠償を求めている。

■「法律に欠陥」のトンデモ主張

 '11年の大津市のいじめ自殺をきっかけに制定された「いじめ防止対策推進法」では、いじめを「行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」などと定めている。■ところが市側は、裁判の答弁書に「法律としての整合性を欠き、教育現場に与える弊害を看過しがたい欠陥がある」と記載。いじめ防対法によるいじめの定義は都合のいい解釈を招くもの、と主張しているのだ。

 そのうえで、昌之くんのケースが防対法の定義するいじめに該当しても、防対法に基づいて設置された調査委員会が認定したとしても、ただちに違法ではない、などと主張している。

■ 一方、昌之くんの弁護団は「以前は、力の強い者から弱い者へ継続して行われる加害をいじめとしていたが、防対法では、1回起きただけでもいじめなどと定義を広げた。子どもたちが置かれた現実を反映している」として反論。ネット上では「法に欠陥があるから守らなくていいというのか」「責任逃れ」などと、市への批判が集中している。

 市教委は取材に「法に欠陥がある」としたことについて「われわれはそう主張していない。同趣の日弁連意見書を引用しただけ。法律を否定していない」との認識を示す。

 今回の裁判は、加害者を訴えたものではなく、学校や市教委の対応が不適切だったかどうかが争点だ。

 訴状では、昌之くんへのいじめは(1)1年生の5月、サッカー部の同級生のグループLINEからはずされた。(2)3学期に部の練習中、ほかの部員から襟首を後ろからつかまれ、首絞め状態でひきずられ、揺さぶられるなどの暴力を受けた。(3)1年生から2年生にかけてグループLINEの中でサッカー部員が昌之くんになりすまし、からかいや誹謗中傷を受けた、としている。

「生徒が悪いことをすれば謝罪か反省文なのに、なぜ市教委や学校はしないのか」と昌之くん

■不誠実な対応だらけの現実

 昌之くんが受けたのは生徒からのいじめだけではない。顧問に体罰を受け、3年間で4回、学校に通えない期間があった。ところが市教委は調査委員会の設置が遅れ、決まったはずの学習支援も怠っていた。そのため文科省や県教委は学校や市教委へ再三再四、指導している。

 こうした指導に法的な拘束力はないとはいえ、なぜ市教委は指導に応えなかったのか? ■市教委は「県教委とは常に連絡、連携し、情報共有はしていた。指導なのかは第三者の判断を待ちたい」と述べたが、県教委は「指導は包括的に行われる。指導にあたるものがあったと認識している」との見解だ。

 不誠実な対応はまだある。

 裁判長は、市側にいじめを認めるか否か答えるよう再三求めているが、答弁書では一切触れていない。また、昌之くんは中学の卒業証書を手にしていない。市側は裁判所で手渡そうとし、反発を招いた。

 昌之くんの母・晴海さん(仮名)は憤りを隠さない。

■「調査報告書が公表されたとき、教育長も記者会見で謝罪しました。しかし、裁判では内容を否定しています。法に欠陥があるから、指導しなかったのでしょうか」

 いじめ問題への教育現場の姿勢を子どもたちは見ている。それを忘れてはならない。

(取材・文/渋井哲也)

しぶい・てつや ◎ジャーナリスト。自殺、自傷、いじめなど、若者の生きづらさに関するテーマを中心に取材を重ねている。近著に『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)があるほか、現在、来年に刊行予定のいじめ問題に関する著書を執筆中

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