いじめ加害者と決めつけられ適応障害に 担任に追い詰められた児童の「消えたい」日々

「しにたい。しにたい。」「いらつく」……。優奈さんの日記からは、担任の指導で受けた傷の大きさがうかがえる

 名古屋駅から私鉄特急で20分ほど進むと、田園風景が広がる。人口2万人ほどの愛知県丹羽郡の小学校で、いじめの指導をめぐってトラブルになっている。指導された児童の保護者は学校の対応に納得しない。教師の叱責に恐怖を感じた児童は、事件から1年がたついまでもフラッシュバックが起きている。

■悪い点が思い当たらないのに5回も謝罪

 事の発端は'18年10月11日。■小学5年の沢井優奈さん(仮名、以下同)の母親・理紗さんは、担任に「娘の様子がおかしい」と相談した。すると担任から「あなたの子どもが嫌がらせをしている」と言われた。同じクラスの女児が優奈さんから嫌がらせを受け、「学校へ行きたくない」と担任に訴えているというのだ。

■ 本当に嫌がらせがあったのかどうか、担任は事実を確認しないまま理紗さんに「相手が嫌な思いをしたら、いじめです」と断言した。優奈さんに思い当たる点はなかったが《悪いところがあったら直すので教えてください。ごめんなさい》と、同級生あてに手紙を書いた。

 翌日、手紙を渡すときに担任が立ち会って「指導」した。このときも事実確認はしていない。教委側の説明では、嫌がらせを受けたと訴えた女児に担任は「そんなつもりはなかったので気持ちを酌んであげてね」と言い、優奈さんには「ごめんねと素直に伝えて」と助言、指導したという。開示文書でも「和解」とある。

 一方、優奈さんの両親の話では食い違う。担任は優奈さんに、女児の前で手紙を読み上げ謝罪するよう指導した。父親の栄治さんは■「娘は何が悪かったのかもわからないまま、5回も謝罪させられました」と言う。

 指導の前提となる事実が曖昧なため、母親が担任に「娘がしたことを教えてほしい」との内容を連絡帳で届けた。すると、昼から5時間目の初めにかけてと集会の冒頭に、担任は優奈さんを呼び出した。

「この一件で、ほかの児童から“優奈が何か悪いことをした”と思われるようになりました」(栄治さん)

 ■また両親によると、自白の強要もあった。「先生の言っていることがわからないの?」「あなたのそういうところがダメなのよ」と迫る担任に反論できない優奈さんは頭痛がひどくなり、立ち上がろうとすると「話は終わっていません。座りなさい」。トイレにも行かせてもらえなかった。

 その後、担任から伝えられた内容は、次の5点。(1)理科の実験中、優奈さんが女児とは逆隣の児童と一緒に教科書を見ていた。(2)一緒に遊ぶ約束をしていたが女児だけ取り残された。(3)列に並ぶとき、女児の前が空いたので、前に詰めるように言われた言葉がきつかった。(4)休み時間に集まって話していたとき、嫌な目で見てきた。(5)自然教室で、優奈さんがほかの子に預けた腕時計を女児が持っていたことで問い詰められた。

 だが、優奈さんには言い分がある。(1)優奈さんと逆隣の児童の間にガスバーナーがあり、1冊しか教科書が置けなかった。優奈さんは女児に「教科書、置ける? 大丈夫?」と2度、声かけをしている。(2)みんなで女児を探したが、そのときにはいなかった。(3)きつい言い方はしていない。(4)女児が何の本を読んでいるか見ただけ。(5)なぜ女児が時計を持っていたのか疑問だったから聞いただけ──というものだ。

■■「殺される」「自殺したい」「消えたい」

指導は誤りと認めない学校、調査委の設置を拒む教委に父・栄治さんの不信は募る

■ 10月18日、父親が学校を訪問したとき、教頭は「今ある情報では、いじめとは言えない」と言い、教務主任や担任と確認が不十分だったことを謝罪したが、指導法の問題点には触れなかった。

 担任からの指導後、優奈さんは学校へ行けなくなった。日記には■「顔合わせたくない」「殺される」「自殺したい」「消えたい」などの言葉が並ぶ。'19年4月、心療内科で「適応障害」「うつ」との診断を受けている。

■「逃げても、逃げても先生が追いかけてくる、椅子に座らされ、縛りつけられて、殺される夢を毎日、見続けて。壁に血がついて見えたり、トイレの汚水が血に見えたりすると言っています」(栄治さん)

優奈さんの痛切な心の叫びが書かれた日記の一部

 当時の指導について、教委は取材に対し「当時の担任が精神疾患となり聞き取りができない」としつつ、「あとから見れば、最初から学校全体として対応すればよかったと思うが、当時としてはしかたがない」と述べた。

『いじめ防止対策推進法』に基づいて、両親は調査委員会の設置を教委に求めたが、教委は「教員と子どもの間で起きたことは、いじめではない」として応じていない。そればかりか「法的対応を伴う」として、この問題の対応に顧問弁護士を依頼した。

 優奈さんは現在も叱責の恐怖から復学できていない。

■「誤った指導をすれば命を落としかねませんし、静観しているだけでは悪化していくだけ。娘が自分を傷つけることなく、死にたいと思わないような生活を送れるようにしてほしい」(栄治さん)

 優奈さんが回復し、安心して学ぶ環境を得られる日は、いつになるのだろうか。

(取材・文/渋井哲也)

しぶい・てつや ◎ジャーナリスト。自殺、自傷、いじめなど、若者の生きづらさに関するテーマを中心に取材を重ねている。近著に『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)があるほか、現在、来年に刊行予定のいじめ問題に関する著書を執筆中

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