嵜本晋輔「リユース業でもスポーツ界にもサステナブルな仕組みをつくりたい」

Jリーガーとして戦力外通告を受けたのち、父親が経営するリユースショップに入社。やがて「なんぼや」などを展開するバリュエンスグループを立ち上げ、マザーズ上場へと導いた起業家・嵜本晋輔さん。嵜本さんは「失敗をどう捉えるかで人生は変わる」と主張してきた。

「もちろん会社が傾くような失敗はしちゃダメです。会社が傾くような失敗をしないように毎日、小さな失敗を積み重ねているんです。他社より3倍多く失敗できれば、成長できるチャンスが3倍生まれるということですから」

■思い描いた通りにいかないのが仕事だと思っている

嵜本さんは、これまでも失敗することの必要性を語ってきた。失敗を繰り返すことで、個人として会社として成功や成長できる確率が上がると信じているからだ。もし失敗のない会社があるとすれば、それは「目標設定が低いからではないか」とさえ言い切る。

しかし世間では、失敗した時点で評価される。平社員なら上司にとがめられる。やがて成長や成功へとつながるとはいえ、そのときが訪れるまで我慢するのは、経営者としてもつらいのではないだろうか。

「僕は思い描く通りにいくことのほうが珍しいと思っているんです。みんな、思い描いた通りにやることが仕事だと思っているんでしょうけれど、僕は一種、悟っているところがあって、失敗してもダメージがないんです。『はい、やっぱり失敗したでしょう?』みたいな捉え方ですね。だから社内でも、意識的にそういう雰囲気になるようにしています」

嵜本さんはそう言うが、会社が成長するにつれて、プレッシャーは重く自身にのしかかっているはずだ。だが、その点についても「ポジティブシンキング野郎」で居続ける強さがある。

「プレッシャーを感じられる立場にいられて幸せだなと思っています。上場していなければ株主に説明する義務もないわけですし、株主総会で緊張するようなことも経験しなかったでしょう。上場企業の社長だからこの経験ができていると考えると、僕は幸せだなと思いますね」

では、小さな失敗を繰り返し、やがて成長へとつなげるために嵜本さんが心がけていることはなんだろうか?

「行動指針は『つかむために、手放せ。』です。多くの人は立場だとか役職を獲得すると、それを手放すには多くの不安や恐れが生じるものです。だからほとんどの人は手放さない。けれども、手放せない人は周りから『あの人は自信がないんだな』と見透かされるわけです。

それに、両手がふさがっていたら、何もつかめません。片手だけでもフリーにしておけば、転がってきたチャンスをつかめるんです。だから、しがみつくことって個人にとっても会社にとっても、すごくリスクの高いことなんです。僕は次の新しいもの、例えば会社や個人の成長を得るために、弊社でいえば既存のビジネスモデルであっても、ときには積極的に手放していくことを意識しています」

▲嵜本さんの行動指針は『つかむために、手放せ。』

■バリュエンスを多くの人から愛される企業にしたい

偶然なのか意図してのことなのか、嵜本さんの考えはバリュエンスのブランド品や貴金属を買い取る事業と相通じるところがある。新しいものを手に入れるために、手放すことが必要なこともあるというわけだ。

「成長し続ける企業と衰退した企業とを見比べると、結局は変化による適応力なんですよね。手放すという意思決定や経営判断ができなかったところが衰退していく。僕たちも、いつなんどきそうなるかわからない。だから第2、第3の柱を作るとともに、今の事業を再定義するようにしています。会社が成長しているからこそ、再定義ができるのだと思っているので。そんなときにこそクリエイティブが発揮できるんだ、と。そこは危機感を持ってやっていますね」

一方で、利益だけを追求することは「もうやめる」と嵜本さん。今後、消費者はそんな企業の商品に手を伸ばさなくなるだろうと読んでいる。

「利益追求を第一にすることのしわ寄せが、いま、地球環境に響いているわけです。大量生産・大量消費という、地球のことを考えてこなかったツケが、気候変動につながってしまった。だから僕たちは『あの会社に売れば、地球にちょっといいことができる』という仕組みを作っていかなければならない。単純にモノとお金を交換する機能だけを持っている会社は、腐るほどありますからね」

リユース業でそうしたブランドを作りあげることは簡単ではないとしつつも「消費者ひとりひとりの価値観が変わってきている」という嵜本さんは、バリュエンスをスターバックスのように愛される企業にしたいという。

■アスリートたちが露頭に迷ってしまうかもという不安

コロナ禍という「土壇場」のなかでは、多くの業界と同様、バリュエンスにもさまざまな影響があった。

「僕たちの収益のメインであるオークション事業は、これまでオフィス内に併設されたオークションルームに数百人の業者を集めてやっていたんです。しかし新型コロナの影響で、2020年4月からはすべてオンラインでのオークションに切り替えました。これが当初想定していたよりもずっと早く実現できたので、ピンチはチャンスではないですけれども、ピンチをピンチのまま終えなかった結果、3年後、5年後の成長が確実になってきたと思います」

新型コロナがきっかけという点では、嵜本さんは「Hattrick(ハットトリック)」というサービスを始めた。これは、アスリートが実際に使用した道具やユニフォームを、ファンにオークション形式で販売するサイトだ。

「新型コロナの影響で、アスリートが路頭に迷うんじゃないかと思ったんです。クラブにとって人件費は大きなコストのひとつでもあるので。だからクラブにいくらかでも収益として提供できる仕組みがあれば、ひとりでもふたりでも救えるのではということで動き始めました。

最初はつながりがあるガンバ大阪の商品だけだったんですけど、人づてに紹介してもらって、オンラインで『初めまして』というところからビジネスモデルの説明をして。陸上連盟とか柔道連盟、K-1の商品なんかも扱えるようになり、この1年で1億円ほど皆さんに還元させていただくことができました」

ただ、こちらはサービスとしてはまだ収益が確保できているわけではない。「それでも正しいことをやっていれば、いつか返ってくると信じて」続けるつもりだと嵜本さんはいう。

■これからもポジティブシンキング野郎として突き進む

著名人が愛用した物品のオークションサイトは、アスリートだけでなく、エンターテインメント業界にも拡大できる余地があるとみている。

「ミュージシャンがライブで着用した服とかギターのピックとか、そういったモノにも思いがあるわけで、ファンにとってはとてつもない宝物でしょう。また、僕たちはもともと捨てる予定だった物を商品化しているんですよね。例えば1シーズンだけしか使わないタペストリーだったり、選手の等身大パネルだったり。お金かけて作って、1年だけ使って、しかも処分するときにもお金がかかる。

そこへ僕たちが『こうしたら、お金に変わります』というのを企画提案しているわけです。これは地球環境にも、すごく良い取り組みでもあると思っています。サステナブル(持続可能)な観点からも、まだまだ成長の余地があるんじゃないかと思ってますね」

▲「自分はたまたま恵まれていただけ」と語る嵜本さん

「自分はたまたま恵まれていただけ」という嵜本さんは、現役アスリートが置かれた環境と、セカンドキャリアを憂慮している。

「選手とクラブがフェアなかたち、相思相愛のような状況を作ることができたらいいなと思います。僕は元アスリートでありながら、今は事業家・起業家です。だからアスリート目線と経営者目線の両方を兼ね備えている。アスリートの思いもわかるし、クラブの立場もわかる。ここをフェアにしていくというのが僕のテーマなんです」

まさにこれが次の「土壇場」となりそうだが、嵜本さんはきっとポジティブシンキング野郎として立ち向かっていくのだろう。

「戦力外選手」から会社経営者へ。嵜本晋輔のサッカーに恩返しをしたいという思い | 俺のクランチ | WANI BOOKS NewsCrunch(ニュースクランチ)( https://wanibooks-newscrunch.com/articles/-/2008 )

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