「#MeToo」「#KuToo」黙殺されてきた声が社会に届き始めた

■SNSで声を上げ始めた女性たち

社会のなかで、職業や職務によって男女の性差ができてしまっていること。それを男女の職業分離、あるいは職務分離と呼ぶ。これは日本のすべての階層で起きていることだ。

身近な例でいえば、2018年に発覚した東京医科大学の医学部不正入試問がある。同大学の医学部入試において、女性の受験生の合格点が、男性のそれより高く設定されていたのだ。大学の教員たちに「男性のほうが医者として長く働くだろう」とか「男性のほうが適正が高い」といった固定観念があり、それがこうした愚かな不正を生むことになった。

驚くのは、東京医科大の問題が発覚したあと、別の複数の大学でも同様のことが行なわれていたのが判明したことだ。日本には約33万人の医者がおり、男性が8割に対して、女性は2割に留まっている。それを踏まえれば、大学だけでなく、医療界全体の問題といえるんじゃないだろうか。

近年、メディアではこうしたジェンダーの問題が頻繁に報じられているが、社会全体にとっては望ましいことだ。これまで沈黙を余儀なくされてきた女性たちの声が、社会に届き始めていると捉えるべきだろう。

未来にとって明るいのは、一般の人たちの声が社会を変えるきっかけになっている点だ。世界的に広がったところで言えば、女性へのセクハラや性暴力に反対の意を唱える#MeToo運動がそれだ。

この運動が始まったのは、2006年のことだった。アメリカに黒人女性を支援する非営利団体があり、そこが性暴力に対する反対運動のスローガンとして「Me Too」を提唱した。

▲2006年から始まった「Me Too」運動 イメージ:PIXTA

当時はそこまで社会に普及しなかったが、 11年後の2017年、アメリカの記者によって、ハリウッドの有名なプロデューサーが30年にわたって職権を悪用し、セクハラを行なってきた事実が暴露された。これが契機となって、ハリウッド女優をはじめとした有名人が次々と反対の声を上げだした。

そんな有名人の1人に、女優や歌手活動を行なうアリッサ・ミラノがいた。彼女は自らのSNSにこんな投稿をした。

もしセクハラや性被害にあったことがあれば、#Me?tooと書いてこのツイートにリプライして

これを見た大勢の人たちが、自分たちのSNSに#MeTooと書き込むようになり、それがセクハラに対する反対の声となって広がっていった。この運動はアメリカを超えて、世界中に普及していった。日本においても同じだった。

■#MeToo運動に続いて起こった#KuToo運動

2017年の日本では、フリージャーナリストの伊藤詩織さんが2年前に受けた性的暴行が話題になっていた。

▲stop harassment イメージ:PIXTA

2015年に、当時TBSテレビのワシントン支局長だった山口敬之氏から就職先を紹介してもらうため、都内で会食したところ、彼女は意識を失った。山口氏はそんな伊藤さんをホテルへ連れていき、意識がない伊藤さんに対して、同意を取ることなく一方的に性行為に及んだ。

後日、伊藤さんは警察署へ訴え出たものの、嫌疑不十分で不起訴。伊藤さんは2017年に民事訴訟の訴状を提出し、同年の秋には事件の詳細を記した手記を出版した。

ちょうどアメリカで#MeToo運動が広まっていたことから、日本のメディアは伊藤さんの事件を大々的に報じた。伊藤さんもまた自身の事件を世界で起きている一連の動きと重ねて、ジェンダーの問題に対する発言を行なったため、日本でも#MeToo運動が沸き起こるきっかけの1つとなった。

さらに、この運動は一過性のもので終わったわけでなく、別のジェンダーに関する運動も巻き起こした。それが#KuToo運動だ。発端は、#MeTooから2年後の2019年、俳優の石川優実さんが次のようなツイートをしたことだった。

私はいつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたいと思ってるの。専門のときホテルに泊まり込みで一ヶ月バイトしたのだけどパンプスで足がもうダメで、専門もやめた。なんで足怪我しながら仕事しなきゃいけないんだろう、男の人はぺたんこぐつなのに

これまで企業は、当たり前のように営業や接客の正装として、女性にハイヒールやパンプスの着用を求めていた。女性によってはそれが体に合わずに、耐えられない苦痛を味わったばかりか、体を壊した人もいたが、それらの声は長らく黙殺されていた。

だが、このツイートが流れたことで、同様の思いを抱いていた女性たちが、SNSを中心にして次々と声を上げだした。やがてそれは#KuToo運動となって署名活動が行なわれ、企業に対する圧力となっていく。そして少なくない企業がヒールやパンプスの着用義務を廃止したのだ。

▲女性にハイヒールやパンプスの着用を求めていた? イメージ:PIXTA

■一人ひとりの声が世の中を変えていく力になる

#MeToo運動や#KuTooが示しているのは何か。世の中には、目に見えない女性に対する圧力がまだまだたくさんあるということだ。これまで男女の雇用の機会を平等にしたり、昇進や給与体系を同一にしたりしてきたが、それらは制度を是正したにすぎない。

社会にはそれらとは別に、目に見えない性差が存在する。性暴力の問題、衣服の問題などがそれだ。これらは可視化されにくいことなので、なかなか男性のほうも問題に気づきにくく、ともすれば「昔からの習慣」「礼儀」という言葉で流されてしまいがちだ。だからこそ、それに抗う声を上げていく必要がある。

これから、若い人たちが取り組まなければならないのは、まさにこの部分。つまり、目に見えない問題を言葉にすることで表に出し、改善していくことだ。

#MeToo運動や#KuToo運動がそうだったように、一時代前に比べれば、今はSNSという武器があり、自らの声を発しやすくなっている。一人ひとりの声は小さいかもしれないが、その1つが大きな共鳴を生んで広がり、世の中を変えていく力となる。

2014年、最年少の17歳でノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんという女性を知っているだろうか。パキスタンで生まれ育ち、武装組織に「女性は学校へ行くな」と言われたことに抵抗し、頭を銃で撃たれながらも、女性の権利を命がけで訴えつづけた人だ。彼女はスピーチでこんな言葉を残している。

世界中が沈黙しているなら、1つの声でも力強いものになるのです

▲ホワイトハウスでオバマ大統領一家と会談するマララ・ユスフザイさん 出典:ウィキメディア・コモンズ

大人たちは、性差があるなかで生きてきたので、そこに対して疑問を抱いていなかったり、目の前の生活に精一杯だったりして、積極的に変化を起こそうとしない。今のままのほうが楽だと考え、沈黙する。

でも、それじゃ、社会が変わることはない。社会の理屈に縛られない、若い世代が世の中の矛盾を感じ取り、NOを突きつけ、変化を求めていくことが重要だ。

若者たちには、それを成し遂げるための言葉を持っている。言葉は社会を変えるための大きな武器だ。その武器を活かして、いつ、何を変えるのか。それは一人ひとりの思い1つにかかっているのだ。

※本記事は、石井光太:著『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

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