曖昧な溝が分断として現れたコロナ禍で起こった「夜の街」バッシング

■ホストクラブはなぜ集中砲火をうけたのか?

2020年の春から夏にかけて、日本ではホストクラブを筆頭とした「夜の街」に対する空前のバッシングが起きていた。

発端は、新型コロナウイルスの感染拡大だった。国は感染を抑えるべく4月から5月にかけて第1回目の緊急事態宣言を発令し、ホストクラブ・キャバクラ・ソープランドといった店に対し、名指しして休業を要請した。

ところが、緊急事態宣言の最中も、相当の数の店が政府の声を無視して営業を続けた。そのために5月から7月にかけて、歌舞伎町を中心に歓楽街でクラスターが次々と起こった。

▲歌舞伎町一番街 出典:PIXTA

ホストクラブでのクラスターは顕著で、都内の感染者が200人前後のときに、1店舗だけで30人、40人の感染者が見つかる日もあった。

世間の人々は、夜の街の住人たちが要請を無視して営業をしたことが、感染の第二波を生み出していると考え、憤りを爆発させた。インターネットには、次のような非難の書き込みが急増した。

ホストは若いからコロナになっても死なないつって平気で店をやってコロナをバラまいている。政府はさっさと歌舞伎町のホストクラブを全部ぶっ潰して追い出せ! どうせ税金も払ってねえようなヤツらに好き勝手やらせる必要なんてないし、あいつらに医療費をかけるだけムダ

歌舞伎町のホストたちが、東京じゃ儲からないからって地方に押しかけてくるみたい。大阪とか、名古屋とか、福岡のホストクラブは東京のクソホストたちで一杯になってるらしい。あいつらが東京からコロナを運んでいるから地方でもどんどんクラスターが起きてる

この頃、統計を見れば歌舞伎町が、新型コロナ感染拡大の震源地になっていることは明らかだった。そのため人々は、ホストたちの身勝手な行動ゆえに日本全体が危機に瀕していると考え、非難の声を上げた。一方、夜の街の住人たちは何を思っていたのだろう。

■ホストの収入は月給ではなく「歩合制」

この騒動の最中、僕は歌舞伎町を中心に夜の街の取材を行なった。その経験から言わせてもらえば、彼らが営業を強行した背景には、彼らなりの事情があった。ホストクラブは、ホストを月給で雇っているわけではない。

ホストは、店から1日数千円の手当をもらってはいるものの、収入の柱は売上に応じた歩合制だ。指名客が支払った小計の約半分が、その日の収入になる。たとえば、1日の手当が4000円しかなくても、指名客が5万円分の小計を払えば、そのうち2万5000円をもらえる。それなら日当は、合計2万9000円だ。

ホストは、各々自分の指名客を持っていて、店に呼んで飲み食いしてもらうことで収入を得ている。指名客が1人もいなければ極貧生活を余儀なくされるが、大勢の指名客を集めれば月収100万円だって夢じゃない。

▲ホストクラブにおけるお金の流れ 出典:『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』

ホストたちは正規雇用じゃないので収入がゼロになり、貯金がない人だと家賃を払うこともできなくなる。そうなれば、彼らは生活を維持するために、店の外で指名客と個人的に会ってお金をもらうか、営業している別の店に移籍するかするだろう。

店にしてみれば、これをされたら緊急事態宣言が明けても営業再開が難しくなるので絶対に避けようとする。だから、店側はホストを留めるために、要請を無視して営業を強行したわけだ。

僕が話を聞いたホストクラブのオーナーは、宣言中も営業を続けたことについて、こう語っていた。

「ホストクラブなんて、もともと日蔭の商売だろ。今までずっと世間からは腫れもの扱いされてきたし、国からもキャッチ(街頭での声かけ)なんかを嫌がらせのように禁じられてきた。昔からホストクラブと国は対立関係にあった。ホストだって同じだよ。ほとんどが10代で社会からドロップアウトした人間ばかり。そんな人間にまともな仕事なんて用意されていない。だから、歌舞伎町に来てなんとか金を手に入れて、まともな暮らしをしようとしている。ホストには賞味期限があるのをわかっているから、みんな若いうちに1日でも長く働いて稼ぐことに必死だ」

▲ホストクラブ イメージ:PIXTA

「そんな連中に対して、国がコロナが流行っているから店を閉めましょう、と言ったところで『はい』ってなるわけがないよね。じゃあ、その間の生活はどうするんですか、宣言が明けたあとは面倒みてくれるんですかってことだよ。これまでホストは国を頼りにしてこなかったし、国だって見捨ててきた。だから、コロナに関係なく、自分たちは生きていく道を自分たちで決めていくってことだ」

夜の街の人たちは、水商売や風俗以外の職業を「昼職(昼間やる職業の意味)」と呼んで区別している。そこからもわかるように、新型コロナ拡大以前から、ホストクラブと昼職の間には大きな分断があった。少なくとも店側も、ホストの側も、昼職の社会からは切り離されていると受け止めてきた。ゆえに、国が「緊急事態宣言なので自粛しよう」と呼びかけても、彼らはそれに参加する意味を見出せなかった。

■風俗業界でもホストと同じような現象が・・・

女性が働く風俗店においても、同じようなことが起きていた。

▲風俗街 イメージ:PIXTA

デリバリーヘルスという無店舗型の店がある。店舗を持たず、ホテルや自宅などへ女性を派遣し、性的なサービスをする風俗店のことだ。緊急事態宣言の最中も、こうした店のほとんどが営業を継続していた。

個室で1対1で会う形態とはいえ、見知らぬ者同士が濃厚接触をするので、少なからず感染が起きていたと推測される。なぜこうした風俗店は休業要請に従わなかったのか。オーナーの意見が次だ。

「風俗店で働く子は、社会的に孤立している子が多いよね。実家と縁が切れているとか、シングルマザーだとか。家がなくて、店の寮で寝泊まりしながら全国を転々としている出稼ぎの子もいるよ。彼女たちはお金がないから風俗に来ているうえに、お給料は出来高制だろ。だからコロナだろうとなんだろうと、働かなければならないんだよ。コロナで休業要請が出たときも、女の子のほうから『休業しないで営業を続けてください』って言われた。

あとは、コロナで失業した子が働かせてくれってやって来たこともあった。国の要請に従うのは簡単だけど、もし店を閉じたら、どうなるかわかるか? 彼女たちはお金を稼がなければならないから、個人売春をはじめることになる。客とトラブルになったり、半グレにカモにされたりする危険な仕事だ。そんなことをさせるなら、店の営業を続けて安全に働かせてあげたほうがマシだろ」

風俗の市場規模は5兆円ともいわれている。出版業界の市場が1.5兆円くらいなので、その3倍以上だ。そんな巨大市場であっても、風俗業界は社会の片隅に追いやられており、自らの職業を公にすることさえできない。だからこそ、彼らは社会に助けを求めず、自力で生き抜いていこうとする。

こうしてみると、夜の街と昼職との間には、大きな溝があることがわかる。普段は曖昧になっているけど、コロナ禍のようなことが起きたときに、一気に分断となって現れる。それがバッシングへとつながるのだ。

※本記事は、石井光太:著『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

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