意外に多い!? 少年院にいるスパルタ教育家庭で育った子どもたち

■社会には「夜の街」にいたる道筋がある

少年院の法務教官の話によれば、子どもは劣悪な家庭環境で生まれ育つと、成長してから問題行動を起こすリスクが高まるという。

親から暴力を受けていれば、精神が不安定になってストレスを他人にぶつける。家で食事を出してもらえなければ、万引きで空腹をしのぐ。そんなことをくり返しているうちに、まわりから遠ざけられ、孤立するようになっていく。

小学生のうちは「困った子ども」「問題児」と見なされる程度だが、中学生になると素行が悪化して「不良」となっていく。相手が重症を負うまで暴行する、恐喝やドラッグをくり返す、盗んだバイクを乗り回すといった行為に及ぶ者も少なくない。

彼らは親への憎しみを膨らませ、何度もぶつかっているうちに、家が嫌になって出ていく。

だが、10代半ばの若者たちが、いい仕事を見つけて自立できるほど社会は甘くない。住所不定でアルバイトさえできないこともあるだろう。

そんな若者たちにとって、例外なのが夜の街なのだ。

キャバクラにせよ、風俗店にせよ、どんな経歴の人でも受け入れてくれるし、即日入居できる寮も用意されている。給与も日払いだ。

そして、仕事のうえで重要視されるのは学歴や経験でなく、若々しい容貌や体だ。競争は激しいが、成功すれば一流企業の正社員と同じくらいの収入を得ることができる夢のある仕事といえる。

▲夜の街に至るプロセスの図 出典:『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』

ここで「劣悪な家庭環境」の意味についても考えておきたい。

私たちがイメージするのは、虐待やDVといったものだろう。これらは法律的に禁じられている、わかりやすい例だが、なかには社会的にはそこまで悪とされないことが、子どもの心をずたずたに切り裂くこともある。その1つとして挙げたいのが、厳しい教育、つまりスパルタ教育だ。

かつて夜の街から這い上がり、有名タレントとなった人に、飯島愛さんという女性がいた。彼女の例を紹介しよう。

■『がんばったね』と言ってもらいたかった

都内で生まれた飯島愛さんは、5人家族だった。両親はしつけに厳しく、教育熱心だった。塾・公文・ピアノ・そろばん・習字などたくさんの習い事をさせられ、難しい文学書を読まされるだけでなく、1冊まるごと清書させられた。その間、父親がモノサシを持って立っていて、少しでもサボるようなことがあれば叩いた。

▲たくさんの習い事をさせられていた イメージ:PIXTA

愛さんは命じられるままに懸命に勉強したけど、怒られることはあっても、ほめてもらえなかった。親にしてみれば、お利口であり、成績優秀なのが当たり前だった。愛さんは、そんな両親に対してだんだんと反感を覚えるようになる。

道を踏みはずしたきっかけは、私立中学への受験に失敗したことだった。

公立中学に入学したものの、それまでがんばってきた気持ちが折れてしまい、さらに唯一心の拠り所にしていた祖父が死去した。それによって彼女は不良とつきあい、夜遊びをするようになる。

一度転がり落ちると、非行はエスカレートする一方だった。

夜遊び・万引き・家出・ドラッグ・売春……。実家とは完全に連絡を絶ち、夜の街で大金を稼いでは、あっという間に使い果たしてしまう。そんなくり返しのなかで、気がつけば彼女はお金ほしさに、AV女優になっていった。

愛さんの場合は、AV女優として人気を博し、テレビタレントになることができた。だが、実際にタレントとして成功した人は数えるほどだろう。

こうした女性の大半は、成功をつかめないまま骨の髄までしゃぶりつくされて捨てられているのだ。

彼女は自分の本でこう書いている。

父に、母に、一言『がんばったね』といってもらいたかった

少年院の子どもたちにインタビューをすると、スパルタ教育の家庭の出身の子が意外なほど多いことがわかる。これも僕の経験則になるけど、5〜6割が虐待家庭であり、2割くらいがスパルタ教育家庭だ。

飯島愛さんの例からもわかる通り、親は子どものためを思って厳しく教育をしているし、まわりからも「教育熱心な親」として受け止められる。

でも、当の子どもにしてみれば、親はひたすら命令口調で勉強を押しつけてくるだけで、自分のことをまったく認めてくれない。

熱心な教育によって学力が上がり、一流校へ合格できれば、本人も少しは報われた気持ちになるかもしれない。でも、すべての人が望み通りの結果を出せるわけじゃない。飯島愛さんのように受験に失敗すれば、真逆のことが起こる。

親は自分の気持ちを理解してくれない、自分の人生をメチャクチャにされた、もうこんな家は嫌だ。そう考えて家を飛び出す。その先に待っているのは、夜の街だ。

こうしたことから、近年、いきすぎた教育は「教育虐待」と呼ばれている。

▲問題児の受け皿となる「夜の街」 イメージ:PIXTA

■夜の街へのハードルを低くする要因

飯島愛さんの親は真面目な会社員と主婦であり、夜の街とは縁が薄かった。じゃあ、なぜ彼女はその道に進んだのだろう。

理由を一言で表せば、自暴自棄になったことで「危機管理力」を失ったことだ。

夜の街に足を踏み入れれば、犯罪や健康被害のリスクが高まり、白い目で見られることもある。このリスクと引き替えに、高い収入を得られる可能性をつかんでいるともいえる。多くの人がそこで働きたがらない理由は、リスクを恐れるからだ。

自分が傷つきたくないので、なるべく危険な状況に身を置くのは回避しようと思う。家族や友人が大事なので、彼らを悲しませるようなことはやめようと思う。

つまり、自分自身を守りたい、まわりの人を裏切りたくないといった気持ちが、その人の危機管理能力となって、リスクの高い世界から距離をつくるのだ。

一方、飯島愛さんは違った。

子ども時代から親にわかってもらえなかった、という思いから自暴自棄になっていた。自分の人生なんてどうでもいいし、家族の思いなんて知ったことじゃない。そんな気持ちが危機管理能力を失わせ、夜の街へと走らせた。

これまでのことをまとめれば、夜の街へのレールは次のような方程式にあるといえるだろう。

劣悪な家庭環境⇒ハードルが下がる体験、危機管理能力の欠如⇒夜の街

こうして見てみると、社会には夜の街にいたる道筋があることがわかるんじゃないだろうか。

▲社会には「夜の街」にいたる道筋がある イメージ:PIXTA

※本記事は、石井光太:著『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』(日本実業出版社:刊)より一部を抜粋編集したものです。

関連記事(外部サイト)