自傷行為・学力低下…夫婦喧嘩が与える子どもへの悪影響

長引く新型コロナウイルスによって、精神的に疲れることも多く、家庭内での不和に悩む夫婦も多いのではないだろうか。しかし、両親の葛藤や喧嘩を目撃することによる子どもへの悪影響は大きい。子どもに与える身体的・精神的影響を臨床心理士の石垣秀之氏に解説してもらった。

※本記事は、はすみとしこ:編著『実子誘拐 -「子供の連れ去り問題」日本は世界から拉致大国と呼ばれている-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

■子どもに過剰な気遣いと諦めを与える「夫婦喧嘩」

親の怒り感情が強く表現されている場合には、子どもは恐怖を感じて何も言えずにいることもありますが、それでも悲しみや不安から多くの子どもが見えないところで泣いています。それほど喧嘩の程度が激しくなければ、子どもは仲を取り持とうとすることもあります。

幼児であれば「喧嘩はダメだよ」と双方を諭したり、大きな声で泣いて親の注意を逸らし、喧嘩がエスカレートすることを防ごうとすることもあります。小学生くらいになると、口喧嘩の内容に対して意見を述べることもありますが、自分の味方をしていないと感じた親から感情的に否定されたり、他方の親と同様であるといって攻撃されることもあり、このような経験をした子どもは、余計なことを言わずに嵐が過ぎるのを待つようになっていきます。?

どのような子どもであっても、親が争わず仲良くしてほしいと願い、そのことを切に訴えたいと思っていますが、何か口に出すことで、かえって仲が悪くなったらどうしようという不安や、どう言ったらいいのだろうという迷いのため、心が圧倒され、混乱し、何も言えなくなっていきます。

▲夫婦喧嘩が続くと両親との生活から解放されたいと思うことも… イメージ:PIXTA

子どもが何も言わないとしても、それは親に余裕がないことや子どもの気遣いの反映であり、子どもたちはみんな例外なく、両親の和解と安定して安心できる家庭環境を求めています。

しかしながら、両親の葛藤が長年継続すると、子どもは両親の和解をあきらめ、安定して安心できる家庭環境のみを求め、 両親双方と一緒に暮らす生活から解放されたいと思うことも生じえます。

■3つのメカニズムから生じる子どもへの悪影響

子どもにとって両親の葛藤や、喧嘩を目撃することによる影響は、大きく3つのメカニズムから生じます。

1つめは、親の攻撃性や不安定な感情に触れることです。大人が、大声を出している場面や誰かを威嚇したり身体的に攻撃している様子を見ると、子どもは本能的に恐怖を感じます。その親が主たる愛着対象であった場合には、依存せざるを得ませんから「しがみつき」というような愛着行動の異常が生じることになります。これは、子どもへの直接的な虐待においても同様に観察される影響です。

2つめは、心理的に自立していない子どもにとって、親が傷つくことは自分が傷つくことのように感じるという現象です。親の痛みや苦しみを知ることは、子どもにとって耐えがたい苦痛なのです。

3つめは、小さな子どもが持つ自己中心性です。自分の行動や考えが世界に影響を及ぼしているという感覚を持っているため、両親の葛藤の原因は自分にあるのではないかと意識的(言語的)、あるいは無意識的(非言語的)に自責感を募らせることになります。

目の前の現実と、これらの心理的なメカニズムが、それぞれの子どもの気質に応じて、さまざまな症状や問題行動を生じさせることになりますが、これまでの多くの調査研究は、継続的に両親の葛藤にさらされ続ける生活環境よりも、別居や離婚によって一方の親と暮らすことのほうが、子どもの健全な成長にとって好ましいと指摘しています。

両親の葛藤場面の目撃は、一方が他方を支配するような真のDVがある場合ではなくとも、子どもの心を傷付け、子どもに対する心理的虐待というべき状態を形成しうることを理解しなければなりません。この間接的な虐待は、子どもに対する直接的な虐待に勝るとも劣らず、子どもの心に影響を及ぼすことになります。

ただし、両親の意見が異なる場合でも、双方が他方への人格否定や極端に攻撃的な言動を慎むのであれば、そのあとで和解や合意に至る場合、そのエピソードは子どもにとって自己主張と問題解決のためのモデルとなることもあり、不適切な怒り感情とは認識されにくくなります。

▲夫婦喧嘩が子どもに与える心理的影響は大きい イメージ:PIXTA

■子どもにもたらす具体的な問題は男女で違う

両親の葛藤が子どもに及ぼす具体的な影響として、身体的緊張、恐怖や不安や悲しみや怒りといった一次的な感情があります。これらから、闘うか逃げるか固まるか、という反応に続き、頭痛や腹痛などの身体症状を呈したり、慢性的な過覚醒状態、食欲・睡眠の異常、自律神経系・免疫系の不調といった医学的な問題をも生じさせます。両親の葛藤にさらされる子どものうち、小中学生のほとんどは学校生活で何らかの問題を呈します。?

最も多いのは集中困難による学力低下です。身体的な不調を訴えて頻回に保健室を利用したり、不登校になる子どももいます。気分や認知の否定的な変化と慢性的なストレスによる欲求不満耐性の低下から、他の児童生徒とのトラブルも増加します。

他者に対する攻撃性は、両親の葛藤のモデル学習・?ポストトラウマティックプレイ〔トラウマ場面を再現する遊びを通してトラウマ記憶を処理しようとする無意識的な試み〕・気分変調・自暴自棄的な衝動性・他罰傾向・承認欲求・同様の境遇にある友人からの同調圧力や解離、といったさまざまな要因の組み合わせによって生じます。

学校外でも、万引きやその他の反社会的行動が見られることもあります。これらは、ADHDの不注意・多動・衝動性や、自閉スペクトラム症におけるこだわり・感覚過敏・他者の内面の不理解といった症状と誤解されやすく、愛着形成不全と合わせて、発達障害との誤診を招くことにつながります。?

男子が一般的に外向きの問題行動を示すのに対して、女子は表には現れにくい行動を示しやすく、 その最たるものは過剰適応で、一般的には「問題」行動とは考えにくく、教師や調査官によっては「概ね適応しており、何ら問題はない」と評価することになります。

しかしながら、過剰適応は子どもがその環境での生存確率を上げるための無意識的な戦略であり、親の期待に応えることで親の注目と承認を得ようという表面的な目的のほか、親の関心を他方の親への攻撃から自身に向けさせることで、家庭内に和を保とうとする試みであることがあります。

知的な能力や運動・芸術の能力が高ければ、しばらくの間は過剰適応の努力こそ優先されますが、 多くはやがて限界に近づきます。それに伴い小学校高学年から高校生までの女子では自傷行為が見られやすくなります。

直接的な体験としては、不安の一時的な解消や不安からの逃避なのですが、賞賛に値しない自分への罰としての意味や、親に認められず希薄になった自己存在感の確認としての意味があると解されることもあります。

同居親(この場合、多くは女子に対する母親)が精神的な問題を抱えている場合に特に多く見られ、リストカット・万引き・摂食障害、そしてときに性非行がセットになることもあり、いずれも依存の問題に絡みます。?

▲表向きには問題行動がないように思えても限界に達すると… イメージ:PIXTA

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