日本はガソリン車廃止でGDP世界3位を維持できるのか?
2021年10月12日 07時00分WANI BOOKS NewsCrunch
地球温暖化を防ぐため、脱炭素(カーボンニュートラル)でCO2を削減することが世界の常識のように語られていますが、果たしてそれは人類にとって、また、日本にとって正しいことなのでしょうか? このままCO2削減政策を政府の言うがままに進めてくと「日本のものづくり産業」が壊滅状態になることも危惧されています。それはつまり、私たちの仕事が無くなって、給与も下がって、国民全体が貧しくなる……ということを意味します。「日本が先進国ではなくなってもいいんですか?」ということです。

▲脱炭素と日本のものづくり産業の大問題を徹底討論!
今、注目される新産業「EV」(電気自動車 / Electric Vehicle)をテーマに、加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が、脱炭素と日本のものづくり産業の大問題を徹底討論!
※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』 (ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
■税収全体の15%を占める自動車関連産業
加藤康子(元内閣官房参与) 菅義偉総理(当時)が2020年10月の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラルの実現」を国家目標に掲げて以来、新聞紙面では毎日のように脱炭素が話題となっています。
日本政府は脱炭素実現の目玉として、自動車産業においては電動化を推進し、2030年代半ばにガソリン車の新車販売を廃止するという方針を打ち出しています。なかでも小泉進次郎環境大臣(当時)が「EV化の推進」について、何度も記者会見で触れていることを、皆さんはご存知でしょうか?
私はその発言について「生産現場やマーケットの実態も把握せず、雇用への甚大な影響も顧みず、ガソリン車廃止とか、EV化とか大丈夫ですか?」と違和感を覚えました。
ネットでのコメントを見る限り、私と同様の見解をお持ちの方が多数いらっしゃるようですが「世界の市場は全部EVになるのに、日本も全部電気自動車にして何がいけないの?」という意見もありましたので、ここで皆さんと一緒に世界の現状を的確に分析し、政治と産業との関係や、雇用の問題、クルマの未来と新しい時代のモビリティ社会について、考えていきたいと思います。

▲『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』より抜粋
今の日本は、世界経済の一翼を担っています。米国や中国には大きく水を開けられていますが、1億2,600万人の国民が、今、世界第3位のGDPを維持しています(図1)。しかし、経済の先行きには大変厳しいものがあります。
2020年の国内総生産でみると新型コロナで大きな影響を受けましたが、全体で537兆円となり、その20%以上を占めるのが製造業です(図2:2019年のデータ)。
製造業は国力そのものであり、国家安全保障の源です。屋台骨を支える製造業が弱くなれば国力は弱くなり、骨太になれば国は豊かになります。
未来の日本を考えたとき、新しい産業を生み出す力も大切ですが、次世代の日本人が豊かな暮らしを続けるためには、今ある力、これまで築いた工業力をいかに高めていけるかが、日本経済にとってまずは重要ではないでしょうか。
なかでも自動車産業は、部品・素材・販売・整備・物流・交通・金融とさまざまな面で、まさに日本経済を支えています。
自動車並びに輸送機器の出荷額は70兆円を超えています。自動車関連からの税収は約15兆円で、税収全体の15%を占めています。事実上、自動車経済が日本を支えていると言っても過言ではありません。
昨今メディアを通して「ガソリン車をなくすことこそ、脱炭素=カーボンニュートラル、CO2削減のために必要である」という論調がさかんに聞こえてきますが、これについて今のうちに徹底的に議論をしておかないと取り返しのつかないことになるのではないかと心配しています。
自動車は国民の足であり、生活の一部であり、暮らしに直結しておりますので、この問題については国民的議論を展開したいですね。
自動車産業がなくなったら、日本経済は弱体化し、日本人は豊かな暮らしを送ることができないことを理解したうえで、EV化のような議論は積み上げていかなければなりません。
おふたりはどのように思われますか?
■クルマを見ると世相が見える
池田直渡(自動車経済評論家) 私は自動車でもいわゆる古いクルマ、クラシックカーみたいなところの業界にいたんですが、同時に産業としての自動車についてもすごく興味がありました。
クルマっていうのは出てくるたびに新しい技術が入っていたりするんですが、それはやっぱり世界の規制であるとか、技術のトレンドであるとか、経済情勢であるとか、いろんなことに起源を持って開発されているものなんですね。
ですから自動車を見ることは、イコールその背景にある社会の動きを見ること、とも言えるんです。
例えば、すごく新しい技術が入ったクルマでも、結果的に出来上がりの質が良くないケースも大いにあるんですよね。
そこはやはり〈乗って・走って・確かめる〉というように、考えられている計画から現物までを全て確認することを視野に収めて活動している……というのが一応、私の仕事の範疇でございます。
岡崎五朗(モータージャーナリスト) 私は雑誌やウェブで自動車にまつわる物書きをする傍ら、テレビ神奈川の『クルマでいこう!』という自動車の番組をやって14年目になります。あと、YouTubeでは池田さんと『全部クルマのハナシ』というチャンネルをやっています。ちなみに、これまで試乗したクルマはざっと4,000台です。
加藤 そんなに! 池田さんも?
池田 僕は“乗る仕事”もしますが、法規制や企業戦略が主で、それらにちゃんと対応したクルマか否かを乗って確認するという感じですね。
岡崎 池田さんはニュータイプなんですよ(笑)。従来のモータージャーナリスト、あるいは自動車評論家の仕事って、乗ってみて「良かった、悪かった」という性能評価がメインだったんです。
まぁ、バイヤーズガイドとしてはそこも大切なんですが、それだけじゃつまらないなと。クルマは数ある工業製品のなかで、最も社会や人々の生活に密着したものなので「クルマを見ると世相が見える」わけです。
アメリカを代表する高級車に「キャデラック」というブランドがあります。1960年代のキャデラックは、それはそれは豪華絢爛なクルマだったんですが、70年代に入ると徐々にその輝きを失っていった。
それが僕には、ベトナム戦争の泥沼化によって自信を失っていったアメリカの姿を映し出す鏡に見えたんです。
僕はクルマの専門家ですが、日本が元気にならなければ日本車も元気にならないわけで、日本の自動車産業と、日本全体が元気になるにはどうすればいいのかという、そこを軸にまずは話していきたいと思います。
■小泉進次郎氏のEV推進発言を振り返ってみる

▲小泉進次郎氏 出典:ウィキペディア
加藤 ところで、2020年12月30日の日本経済新聞の一面に、小泉環境大臣(当時)のインタビュー記事がドーンと載りました。これは私にとって衝撃でした。
特に「国際社会はガソリン車からEVへ」と小泉氏は明言されていらっしゃるところです。
それから、EVの補助金をこれまでの倍の80万円にしますとか、EVは動く蓄電池として位置づけ、最初はおそらく地域を限定するようですが、“脱炭素のドミノ”を日本中に起こすというようなことも仰っています
さらには、日米同盟のなかで脱炭素を広げたいがために、日米交渉のなかでも日本のガソリン車廃止、特に2035年には廃止していくということを協議するとお話しされています。
このへんについて、どう思われますか?
岡崎 でも、小泉氏はあれからずいぶん勉強されたんでしょうね。国連気候変動サミット(2019年9月22日)のときに「石炭発電をどうするんだ」って質問に対し、しばし黙ったあと「リデュース」(Reduce:減らす)と言いましてね。ポエマーにしてはずいぶん簡潔な答えだなぁと(笑)。
池田 “セクシー発言”があったときですね。
岡崎 そうです(笑)。僕としては、日本には世界最先端のクリーンな石炭発電技術があって、これをしばらくは石炭火力発電に頼らざるを得ない途上国に広めていくのが、現実的にはCO2を減らすことにつながるんだと、だから日本は化石賞(気候変動対策で後ろ向きな行動や、発言をした国に贈られる不名誉な賞)をもらうような国ではないんだって、日本代表の政治家として堂々と言ってほしかったんです。
まぁ、あのときは環境大臣就任直後だったので仕方ない、としましょう。
それで、あれからずいぶんエネルギーのこと、EVのことなどを勉強されたんだろうなと思います。ただ、残念ながらヒアリングする人を間違えたなと。
加藤 それはどういう意味ですか?
岡崎 2050年に向けて脱炭素を計画していくっていうのは、議論の余地はあるにせよ、まず是とします。ですが、そのためにどうするのかというところで、いきなり「全車EV化だ!」といっていることが、かなり突拍子もない話なんですね。
これも小泉進次郎さんの発言ですけども「2050年までに技術革新を生めばいいと勘違いしている人は間違いだ。いつ花開くかわからないイノベーションだけに頼るのではなく、今の技術と政策の強化で、できる限り取り組みを徹底していく」と。
つまり「いま持っている技術、あらゆる技術を総動員して、脱炭素に向けてみんなで頑張りましょう」っていうことを仰っていると思うので、まぁ納得するところです。
でも、クルマの話になると急に「EV!、EV!」になっちゃうんですよ(笑)。ここがかなり矛盾しています。
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