日本の自動車は「ガラパゴスでEV開発に出遅れている」は本当なのか?

地球温暖化を防ぐため、脱炭素(カーボンニュートラル)でCO2を削減することは当然。だから「EV」(電気自動車 / Electric Vehicle)化を推し進めて、温暖化を防ごう。一見すると良いことに聞こえる言葉の裏には、見過ごせない問題が山積みになっています。電気自動車を通して見えてくる、日本の産業や政治の問題点を、加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が語ります。

※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』 (ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

▲電気自動車を通して見えてくる日本の産業や政治の問題点を徹底討論

■国際社会は本当にEV化しているのか?

加藤 実際、国際社会はEV化しているのでしょうか?

池田 それについては捉え方が2通りあります。1つはやっぱり政治の世界。

EUの各国政府は、たしかに「2030〜2040年ぐらいのあいだにガソリン車を徐々に廃止していくよ」ということは言っています。

ガソリン車だけなのか、ハイブリッド車も含むのかは皆さん、いずれも玉虫色で、はっきりしたことは言わないんですね。

ただそのなかで、ガソリン車を廃止していくということは、たしかに政治家たちは言っているんですけどね。じゃあそれを実現していく各国の自動車メーカーはどうなんだと。政府と同じ方針でやりましょうって、みんなが言っているのかというと、全然そうではない。

加藤 なるほど。一部の政治家が言っているだけだ、と。

池田 例えば、ヨーロッパでナンバーワン自動車メーカーはフォルクスワーゲングループ(ドイツ)なんですけど、ここは年間1,000万台のクルマを毎年売っているわけです。

彼らはEVもやっています。でも、同時にマイルドハイブリッドの新型車もデビューさせているし、合成燃料の研究も進めています。世界中のメーカーがEVもやろうとしているし、やっていないメーカーはほぼないでしょう。

けれども、これまでにEV専業メーカーなんて米国の「テスラ」ぐらいしかなかった。中国にはEV専業メーカーもありますが、中国は経済体制が違うのでそこは別とさせていただきたいのです。

それ以外の国の自動車メーカーのなかで、ガソリン車もハイブリッド車もやめて、EVだけにするなんて公言するところはなかったんですよ。〔注:EV専業の問題については状況が刻一刻と変わっています〕

加藤 そうすると「国際社会はガソリン車からEVへ」っていう話は……?

池田 つまり、各国政府がふわふわと言っていることを、メディアが真に受けて報道しているだけ、という話です。

例えば、フォルクスワーゲン(以下、VW)は、今まではディーゼルエンジンを主力にしていました。

ディーゼルエンジンというのはトラックなんかに積んでいるもので、皆さんよくご存知だと思うんですけども、あれ、実はCO2の排出量が少ないんですよね。

普通のガソリン車の4分の3程度です。それにディーゼルの開発はまだ続けています。

岡崎 メディアは本当に罪深いと思う。各国政府の言ってることだけじゃなく、メーカーが目標として発表したことまで、得意の「切り取り」で報道しますからね。

▲国際社会は本当にEV化しているのか? イメージ:PIXTA

■EV信奉者が認めない合成燃料の道

池田 それからもう1つ、次世代に向けて、e-fuel(イーフュエル / Electrofuels)というものもあります。

これは水素を中心にして二酸化炭素と化合させるなど、さまざまな技術で作られる化学的で脱炭素な「新世代の合成燃料の一種」なんですけど、今までのガソリンの代わりとしてエンジンの中で燃やせるんですね。

しかもこれは、e-fuelを100%にしなくても、いろんな燃料と混ぜて使える。

だから、技術の進展と新しい燃料のコストダウンに応じて、例えば最初は10%、コストが下がっていったら20%みたいな形で、既存の産業と折り合いをつけながら、なおかつCO2の削減に向かってステップバイステップで進んでいける優れものなんです。

本当はこういうことを進めなきゃいけないわけですよ。

岡崎 そうなんですよね。小泉進次郎さんの「脱炭素をするにはEVにするしかない」って発言は、おそらく誰かに吹き込まれてますね。

それは、EVメーカーの人かもしれないし、EV好きな人かもしれない。それで「そうなんだ!」となっているとしか思えない。

池田 EVファンの一部には、極端に排他的な人がいるんです。

なぜか「EVだけが世界を救える」と主張するんですね。そういう人は「EV真理教」と揶揄される場合もあります。

岡崎 でも、世の中には技術ってたくさんあるんです。人間の知恵は無限ですからね。

加藤 そうです! 知恵も技術もフルに使いましょうよ。

岡崎 EVはやります。でも他のものもやる。ハイブリッドで燃費を下げていくこともやる。水素もやる。そうやって我々が持っているあらゆる技術を総動員して、CO2を減らしていくことをみんなで考えていけばいいんです。

でもなぜか、クルマのことになると「EVだけ」の話になってしまうのが不思議でなりませんね。

■多様な挑戦をしている日本のメーカー

加藤 例えば、ヨーロッパでも「EV化だ!」と言われていますけど、EVじゃなくてe-fuelをどうやって開発しようか、というところに目が向いているメーカーもいるわけですね。

池田 要するに、いま考えなきゃいけないのは「1つのことをやっておけばダイジョブだ!!」という“短絡思考”ではありません。

例えば、ダイエットするのに「あなた、リンゴだけ食べていれば痩せますよ」みたいなのって、だいたい嘘じゃないですか。そうじゃなくてバランスよく全てのことをやらないと成功しないんですよね、何事も。

岡崎 さすが、ダイエットの話なら池田さん(笑)。

池田 お任せください(笑)。「日本のメーカーはEV開発に出遅れた」とか「ハイブリッドにいつまでも固執しているからガラパゴス化するんだ」とかメディアは言っていますが、日本のメーカーは世界で一番多様なトライアルをしています。それは決してガラパゴスでもなんでもないんです。

例えば、プジョー(フランス)はステランティスっていうグループの傘下にいますが、VWに次いでヨーロッパで2番目の大きな自動車メーカーです。

そのプジョーのジャン・フィリップ・アンパラトさん(当時CEO)が2019年に来日したとき、僕はインタビューしたんですけど、この方が仰っていたのも「EV一本化なんてしないよ、それより何を選んで買うかは、この自由経済のなかではお客さまだ。お客さまがキングなんだ」と。

「だから、お客さまが今のその地域の規制であるとか、コストであるとか、社会的な要請であるとか、いろんなものに合わせて自由に選べるようにさまざまなシステムを作るのが、メーカーのあるべき姿勢なんだ」とハッキリ仰っていました。

加藤 いいこと言いますね。

池田 日本のメーカーがやっていることと、VWのやっていること、それからステランティスがやっていること、それらは基本的に同じなんです。

「日本はガラパゴス」だなんて、本当に「誰がどこで言い出しているデマなんですか?」って言いたいですね。

岡崎 むしろ2035年以降、エンジン車はおろかハイブリッド車の販売すら禁止にしているイギリスこそ、世界的に見たら最たるガラパゴス思考だと思いますね。米カリフォルニア州でもそういう話が出てますけど、あれは一部の政治家などがちょろっと口を滑らせてメディアにそう言っただけのことで、実際は何も決まってないっていうのが真相です。

最後に「じゃあ本当にEVだけにするの?」って記者から質問が出ると「そこは情勢を見て」みたいな、割とグレーな物言いなんですよ。

小池百合子都知事 出典:ウィキメディア・コモンズ

■小池都知事「2030年までにガソリン車廃止」

加藤 なるほど。小池都知事も何か似たような発言をされていますね(笑)。

岡崎 ええ、これはもう本当にひどいです。

「2030年までにガソリン車廃止」と発言していらっしゃいますが(2020年12月8日、都議会での発言)、国が2030年半ばに廃止するんだったら東京は2030年にしようって……。「うちの方が早くてエライぞ!」っていう意図としか考えられない。だから話の中身としては、まったくもって井戸端会議レベルなんですよね。

池田 まったくお粗末な話です。だって言っていることが小学生レベルでしょ? 「俺の方が早いぞ!」っていうやつですよ。

岡崎 うん、まったくそれだね。

加藤 メーカーはたまったもんじゃないですよね。10年、20年かけて、素晴らしいエンジンを作るために、技術者たちはまさに全身全霊、人生をかけて取り組んでいるわけですよ。

一台のクルマを作るのに、本当に多くの人が関わっているわけじゃないですか。それがこういう発言で壊されてしまうことに私は本当に憤っているんです。

岡崎 その通りですね。もちろん環境問題は人類にとってとても大事なことですが、それがどうも政治家の人気取りに使われてることには虫唾が走ります。

加藤 小泉氏も小池都知事も発言が軽すぎます。働く人の顔が見えていない。

池田 人気取りということでは小池さんの方がより濃厚ですよね。それまでそういうことを考えていた節がないんですから。

岡崎 環境問題って「錦の御旗」というか、誰も反対しにくいことじゃないですか。それを人気取りに使う政治家は、これからもどんどん出てくると思いますよ。

でも、そういう動きが行きすぎたり、誤った方向に向かったりすると、国はどんどん貧しくなります。我々はそこをしっかりとチェックしていかなくてはいけません。

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