マスコミも大注目だった“美人で優秀な”防大女子一期生

■マスコミから大注目された「防大女子一期生」

1992年、女子の一期生39名が入校した(通算では四十期)。

入校に当たっては、女子学生の入校者数を無制限にするか、ある程度の枠を設けるかという議論もされたようだ。

「女子学生受け入れは男女差別の撤廃を前提にしており、受け入れを認めながら採用の枠を設けることは、新たに差別を生むという非難を受けるおそれがある」という考えかたから、採用枠を定めることは適当ではないという意見もあったという。

防大に女子が入校するということで、入校式にはマスコミも多く集まり、彼女たちの門出を報じた。なかには、通っていた大学をやめてまで入校した者もいた。

「新入生にとって、とくに本年度初めて入校する女子学生諸君にとって精神的、肉体的な負担も大きいと思う。しかし、こうした体験は、将来、多くの部下を指揮統率する幹部自衛官として不可欠の資質を養成するうえで極めて大切。みずからの実践を通じて士官候補生にふさわしい容儀・態度の持ち主になってほしい」

当時の夏目晴雄学校長は、このように式典でエールを送った。

さて、女子一期生は「とても美人か、そうでなければ、とても優秀かのどちらか」と評されることが多かったという。真偽のほどは定かではないが、学生のあいだでは「マスコミから注目されることがわかっていたので、あえてそういう人間を集めた」と囁かれていたそうだ。

たしかに、女性初のイージス艦艦長となった海上自衛官は防大女子一期生であり、艦長就任時に「美しい」と評判になっている。?

▲イージス艦みょうこう 出典:PIXTA

当初、女子の制服は「男子学生に埋没させることのないよう、男子学生と異なるものとする」という方針により、女子学生独自の制服を新たに制定。

2004年の改正で、2006年からはスカートとズボンといった違いはある(男子はズボン二着が貸与されるのに対し、女子にはズボンとスカートが一着ずつ貸与される)ものの、男子学生の制服と同じものとなった。

ちなみに、2007年に入校した私の期までは昔の制服が貸与されており、男子の冬服よりやや明るい紺色の制服は「女性警察官」、茶灰色の夏服は「サファリパーク」と陰で呼ばれていた。

また“女子ならでは”の生活指導基準として、化粧は華美にならない程度、香水は周囲に不快感を与えない程度、マニュキュアをする場合には無色透明等、清楚な感じを与えるもの、ストッキングは官給品またはそれに類似したもの(肌色無色)とし、伝線には特に注意を要する、女子トイレのない場所では男子トイレを使用してもよい、などといった点が定められた。

■深い人間関係の構築が「防大」の大きな魅力

教育・訓練については、体育実技の授業は男女別にする一方、訓練の目標は男子学生と同様に「第一線部隊指揮官を養成し、幹部としての資質能力を付与すること」とされ、原則として男子学生と同一の訓練を実施するとされた。

さて、女子一期生は、やはり学内でも注目の的だったという。ある一期生は「女性が制服を着て歩いているだけで針の筵(むしろ)だった。学生舎(学生が住む寮)の外を歩いていると、学生舎の中から『ちんたら歩いてんじゃねぇ!』と怒鳴られたこともあった。ずっと珍しいものを見る目で見られていた」と振り返る。

こうした注目のされかたは、防大卒業後も続いていて「そんなに注目される人材でもないのに、ずっと『女子一期生』という肩書がつきまとう」と話す。

防大では入校後しばらく、消灯後に一学年が上級生の部屋に行き、日中わからなかったことや、防大生活のあれこれを教えてもらう時間があるが、さすがに消灯後に階が違う男子部屋に行くことはできなかったようで「日中にすべてを終わらせ、疑問点も解消しなくちゃいけなかったので大変だった」と振り返る。

また「男子学生も私たちを受け入れることにすごく悩んだんだな、ということはとても感じた。最初、女子は全員2大隊に入って、他の大隊の上級生は『女が防大でやっていけるのか』って否定的なところもあったけど、2大隊の上級生は受け入れてくれた」と言う。

また、当初は居心地の悪さを感じていたことは事実だが「男子と全く一緒の訓練をして、信頼し合える仲間になった」。なかでも「防大では、カッター(小型の手漕ぎボート)訓練が一番印象に残っている。男女混合のクルーで、自分をさらけだしていった。自分も限界だが周りも限界。限界を感じたときの人間模様は興味深かった。極限の状況に自分も周りも追い込まれたという経験は、それからの人生に生きている」と話してくれた。

防大の大きな魅力は、深い人間関係の構築にある。男女を問わない信頼関係の醸成は今も連綿と続いているが、それが一期生から達成されていたことは素晴らしい。

▲陸上要員の行軍訓練。訓練の中で信頼し合える仲間になる [松田氏所有写真]

女子一期生が卒業した1996年の10月には、防大内にF・C委員会(Female Cadet施策検討委員会)が編成され、女子学生をめぐる現状の評価を行っている。

そのなかで実施された教職員及び学生へのアンケート調査によると、女子一期生を「女性らしい」と評価したのは女子一期生自身で50%、その他の学生で30%前後に過ぎなかった。

同委員会は「こうした意見は、女子学生が“男社会の慣習”を取り込んでいることを示すもの」と指摘。男性しかいない組織の中で適応しようとする、アンビバレントな防大女子のありようを窺い知ることができる。

前述の一期生も「女性らしくありたいと思ったことはなかったけど、男子学生に指導されたからといって、自分は男っぽくもなってないし、男っぽくもできなかった。中途半端な存在だった」と話す。

「女子の指導を受けたことのない防大女子」というのは、少し異質な存在であったようだ。女子一期生に指導された四十期代前半の者からは「四十期は女子から指導されていなかった点が一番のウイークポイント」などと指摘する声もあった。

「言葉遣いが男口調で、でも怒りかたは女にありがちなネチネチと怒るところがあって、違和感があった。四十期は女子から怒られてないから、自分がそういう風になっているということにも気づけなかった。あと“男に負けるな”という思いが強くて、男の人が描くリーダー像に沿おうとしてると感じていた。四十一期以降は『とはいえ、男と女は違うでしょ。自分の考えでいこう』といった感じだったので、組織は四十期を評価し、四十一期以降は頼りないと思われていると感じていた。四十期は背負っているものが大きかった」

■まだまだ世間的には認知度の低い防大女子

そんな女子一期生39名のうち、何人かは卒業前に防大を去り、27名が任官した。

先のアンケートによると、女子学生制度の導入については「よい」と答えた者が約60%、否定的に捉えた者が約30%。よい影響が出ているところは一に勉学、二に校友会活動(部活動に当たる)であり、悪い影響は一に生活面、二に訓練面に出たという。

加えて示された「現状」では、

「女子の入校時の学力は平均的に男子より上位にあり、入校後の成績も男子よりやや高い。体力は同年代の全国標準より高く、体力の伸びは男子に比べて顕著だが、約10%は到達基準に届いていない。訓練は一応の成果を収めている。訓練班の編成は男女混合だが、女子に配慮して訓練レベルを下げざるを得ないので、男子の訓練意欲が低下するとの批判が一部にあった」

ということも明らかにされた。このアンケートの結果は、今も大差ないのではないだろうかと感じられる。

『防大五十年史』では、このアンケートの結果について「女子学生制度の導入がよい刺激となって、本校教育の向上と活性化をもたらすものであったと同時に、いまだ向上の余地が多いものでもあることを示していた」と評価している。

1992年の防衛大学校への女子入校開始から、2022年でちょうど30年となる。当初、決してその能力が期待されていたわけではなかった女子学生だが、2020年には河野太郎防衛相(当時)をして、次のように言わしめている。

「自衛隊の職務のなかで女性にできないものはない、と言ってよろしいかと思っておりますし、昨日行きました防衛大学、学生隊長は女性学生でございましたので、女性がしっかりと自衛隊の一員として活躍してくれるというところが人的基盤を厚くする、そういうことにつながっていくと思っております」

だが、防大女子はまだまだ世間的には知られざる存在だ。圧倒的に男性的な組織の中で、奮闘する防大女子たちの姿を見続けていきたい。

※本記事は、松田小牧:著『防大女子 -究極の男性組織に飛び込んだ女性たち-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

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