マッチングアプリで誘われ、わずか1カ月で798万円を失った話

「人生を狂わされた人がたくさんいると思います」そう言って、Y美さん(40代)は大きなため息をついた。2020年9月に、Y美さんが798万円という大金を投じたのは、ジェンコとグローバリティクス・テック・リサーチ(以下GTR)という商品で、それらを運営していた玉井暁容疑者を含む男女7名が2021年11月10日に逮捕された。

「今思えば、宗教活動みたいでしたね。お話し上手な人がセミナーをして、それを聞いて信じ込まされていく。『いいことを紹介しているんだから、胸を張ってお友達に紹介してね』と教えられ、友達にも声をかけるようになって…。でも、私の話が下手だったのが幸いでした。紹介者を出さずにすんだのですから」

マッチングアプリで出会った男性から勧められ、約800万円という大金を投じた詐欺的な投資商品は、一体どのようなものなのだろうか。そして、どのように誘われ、どうして財布の紐を緩めてしまったのだろうか。

▲まさに今回のケースは、逮捕されたばかりのジェンコの玉井容疑者が関わっているものだった

■出会い系サイトに横行している詐欺師たち

先日、某SNSで筆者である私に友達申請をしてきた人がいた。大吾直樹と名乗る日系人である。もちろん見知らぬ人である。白衣を着ており、世界保健機構で働く医師だという。おそらく詐欺だろうと思い、後学のためにもと思い、やり取りをしてみた。

最初の頃にきたのは「貧しい国の人々のために献身している医師です」「幼い頃に両親を亡くし、養母に育てられ、奨学金を受けて医大に入りました」など興味を引くような身の上のメッセージ。そして「独身ですか?」「恋人はいますか?」「結婚したいですか?」などの質問。これらが何度か繰り返されたあと、LINE交換に誘ってきた。

▲苗字が無く、怪しいメールだとわかりやすい

▲質問をしていないのに、いきなり身の上話をたくさんしてきた

LINEでやり取りをするようになってからは、毎日のように「おはよう」「おやすみ」の挨拶から始まるメッセージが、多い日で10通以上も送られてきた。

「私の趣味は旅行とギターです。でも最も大切にしているのは仕事です」「人々の健康のために最善を尽くしています」と自分のことを話す。それと同時に「私はあなたをこれまでにないほど愛します」「私は、あなたのような素晴らしい女性と恋に落ちたことを嬉しく思います」などの甘い言葉を囁いてくる。

そして、こちらが信用したと見計らった頃に「現金を送りたいから個人情報を教えて欲しい」というメッセージが大金の写真とともに送られてきた。

▲文章の内容から、日本人ではないのかな? と推測した

▲話が大きくなり過ぎて困惑…

最初のメールから、個人情報を引き出すまでの期間は1ヶ月と1週間。なかなか詐欺側も手間暇をかけているのだ。

SNSや出会い系サイトでは、国際ロマンス詐欺をはじめとした詐欺が横行していると言われており、実際、毎日のようにアヤシイ外国人からメッセージが送られてくる。このような明らかにアヤシイ人物からの連絡には警戒をするが、そうではなく「友達以上恋人未満」の関係性の相手だったらどうだろうか?

■ATMで100万円を引き出し「週で稼いでいる」と言う男

Y美さんがマッチングアプリに登録したのは約3年前。5年間の単身赴任をしていた夫が愛人を作り、離婚した直後のことだった。すでに夫婦仲が壊れて久しかったが、それでも既婚者という立場から、新しい相手を作ることはしなかった。

だから、離婚が決まったあとは「堂々と新しい人と交際できるんだ。第二の人生を新しいパートナーと歩もう!」と、婚活系のマッチングアプリにすぐ登録したという。

いくつかの出会いがあり、そのなかの1人がジェンコとGTRを誘ってきたIさんだった。「Iさんとはお付き合いには至らなかったのですが、お互いの恋愛をLINEや電話で報告し合うような友達になりました」

▲Y美さんとIさんのやり取り

▲お互いの恋愛の話をするなど、信頼し合っているように見える

「出会いから1年ほど経った頃でしょうか。お互いの近況をやりとりしていたときに、Iさんが『彼女との将来を考えて新しい仕事を始めたんだ。投資の仕事なんだけど、もし良かったら話を聞いてみない?』と誘われたんです」

Iさん自身も、出会い系アプリで知り合った女性(当時付き合っていた彼女の前に出会った女性)から、その投資を教えられたという。Iさんは投資を初めて2ヶ月でどっぷりとはまり、付き合い始めた自分の彼女にも、この投資をさせているとのことだった。

「お互いに恋愛や仕事を応援しあっている仲だったので『一緒に始めよう。一緒に幸せになろう』と誘われ、良いものだから紹介してくれているんだなと思いました。まさか騙されているなど考えもしませんでした。とはいえ、最初は投資するつもりはなく、断ったんですよ」

Y美さんは金融機関に勤めていることもあり、投資に関しては知識があるので、慎重だった。

▲出会いから一年後に投資の話が出てきた

「仮想通貨の投資と聞き、怪しいのではないかと思ってました。でも、Iさんは『フォーブスにも掲載されているし、渋谷の有名ビルに大きな広告が出ている信用のある企業だよ。ISOも取得している。創業者のボビーはシンガポール大学を卒業していて、経営陣はMBAを取得している人もいる』と説明されていました。

友達に相談したら『雑誌にはお金を払えば掲載できるし、それで信用できる企業とは言えない』と止められ、それもそうだよなとも思っていたんです」だがその反面、一度は恋人候補にもなったIさんからの誘いであり「自分のことを信頼してくれているから、お金のことを話してくれるんだ」という信じたい思いもあった。

「でも、セミナーに行くまではすごく不安でしたよ。すごく不安だったのに、目の前で大金を下ろしているのを見ると信じてしまったんです」

▲ジェンコの説明

「セミナーに誘われた日、会場に向かう途中で、彼が銀行で100万円近いお金を下ろして見せたんです。『こうやって日本円で下ろせるんだよ。(仮想通貨で持っておくと)心配だから、時々、日本円にして別の口座に分散してるんだ』とのことでした」

実際に大金を引き出しているところを見て「すごいな。こんな投資が本当にあるんだ」と、これは信じられそうだという気持ちになっていった。

セミナー会場につくと、そこは非常に大きく、また公的な施設だった。会場はほぼ満席で、100人くらいの参加者が集っていた。そこでは「有名なトップリーダーがセミナーをする際には、1時間前に来て整理券をもらわないと入れないんだよ」「会場前にはずらっと人が並ぶんだよ」などとIさんから説明され、非常に人気のある投資セミナーであるなのだとY美さんは思った。

「こんなにたくさんの人が投資しているんだ。怪しいものではないのかもしれない」。Iさんは、さらに信用を深めていった。

セミナーが始まると「今やらないのがおかしい」「幸せのおすそ分けをしたい。みんなで幸せになりましょう」とトップリーダーは熱弁した。その後、実際に投資をスタートしたばかりだという人たちが前に出て、こんなスピーチを行った。

「〇〇大学を卒業したあと、I商事に勤めているKです。リーダーの人間性を信じて始めました」

「これまで〇〇病院で検査技師をしていますが、この投資に将来性を感じ、勤め先を辞めました。妻も応援してくれています。子どものためにも頑張りたいです」などなど。

「セミナー会場にはたくさんの人がいて、なかには有名大学を出て立派なお仕事があるような方が、本気でこのビジネスに未来を委ねていたんです。それで安心したところがあります」。また、Iさんからは「最初の3ヶ月間は3000ドルでお試しでもできる。やってみて信用できなかったらやめてもいい」と聞いていた。

「でも、このお試し期間中にみんな信用して本入会し、1万ドルを入金するということでした。それに実際、画面上では投資した金額に対し、運用益が入ってくるのが見られたんです」

▲目の前で運用益が入り、どんどん投資金が増えていくのが見られた

そして、さらにこんなキャンペーンが行われていることを教えられた。

「250万円入れると、50万円のジェンコローンが組めると言われたんです。ローンを組むと、実際の入金額が少なくても、大きな金額で契約できるため、利率が上がるということでした。ローンは、どこか外部の信販会社と契約するようなものではなく、ジェンコ内で行われているものです。このローンを1週間だけ低い利率で組めるというキャンペーンをやっているとのことで、これを薦められました」

計算してみると、1〜2ヶ月もあればローンはジェンコの運用益で返せてしまうことがわかった。「『ローン組んででも金額大きくした方が得だよ』と言われ、確かにそうだなと思ってしまったんですよね」

だが、このローンも詐欺的商品のトリックの1つだったのかもしれない。

「ローンが残っている間は、お金を下ろそうとしないじゃないですか。大金を入れておいたほうが、大きな利益が出て、早くローンを返せますから。というのも、1ヶ月経ち『ローンを返し終わったぞ! さあ、出金しよう』と思ったところで出金停止になっているんです。今思えば、計算されていたんでしょうね」

■勉強会に高級時計や海外旅行のプレゼント

Y美さんが投資を始め、投資家たちのLINEのグループに入ると、毎日のようにメッセージが送られてきた。

「仮想通貨の勉強会だけでなく、人を勧誘するために心構えの勉強会や、サポートをする側の勉強会などがありました。ほかにも、夢のリストを作って、夢に向かってどうやって進めばいいのかを教えてくれるセミナーなどもありましたね」。リーダーと言われる人たちは「しっかり勉強して、紹介できる人間になりましょう!」とY美さんを導いた。

「頻繁に勉強会やセミナーがあり、リーダーも熱意がありました。だから、真面目で前向きな良い会社なんだなと、だんだん思うようになっていったんです」

また、一生懸命勧誘をしたり、投資金額を増やすと“ご褒美”もあった。

「1週間おきにイベントがあるんです。例えば『今、お金を入れたら20%に利息UP』とか『今、何人紹介したらトップ◯名に3000万円の高級時計をプレゼント』とか。実際に、高級焼肉屋で表彰されている写真や、ドバイや沖縄に招待旅行へ行った方の写真をセミナーで見せられたりしました」

▲この時はやればやるほどご褒美がもらえるのだと信じていた

同時に、ネット上のマイページにログインすると、毎日のようにお金が入ってくるのが見られた。「入金している金額によって利率が変わります。大金を入れれば入れるほど、6%、8%、10%というように利率が上がっていく仕組みになっているんです。LINEのグループでは『やばいよ、収入が月収1000万超えたよ』というチャットが飛び交っていました。どんどんお金を入れなきゃという気持ちになっていきました」

気づけば、追加で100万円、そして100万円と入金を重ねていき、わずか1ヶ月の間にジェンコに632万円、GTRという別の投資商品に166万円を出していた。

「金額を上げていくと利率も増えていくので、最後のほうは、1日の利益が1〜2万になっていました。何もしないで、この金額が得られるなんてありえないですよね。パソコンの画面上だけの話なのに、なんであんなに信じていたんだろう? 最初でやめておけばよかった……。自分が情けないし、恥ずかしい……」

▲月収1000万円を超えたという仲間の話に刺激された

■徐々に目が覚め「大変なことになってしまった!」

Iさんから誘われた投資を始めて1ヶ月後、貯まったはずのお金を引き出そうとしたところ、システム障害で出金できないとエラーが出た。

リーダーに問い合わせると「システム障害が起きているけれど、すぐに解消するから大丈夫」とのことだった。Iさんがお金を下ろしているところを見ていたこともあり「いつか出金できるはず」とY美さんは、疑いを持つことはなかった。

実際、エラーが出たあとに行われた忘年会にも出席している。「偉い人にいっぱい会えるよと言われて参加したのですが、とても派手なパーティでした。いろんなブランドのバッグが当たるような抽選会があったり、参加者全員に1万円が渡されたり。そのときはまだ信じていたんですよね」

だが、新年を迎えてもシステム障害は解消せず出金はできなった。

そのうち、会社がなくなるかもしれないという噂も立ち上り、ジェンコに関する情報を集めているうちに「もしかしたら、詐欺に遭ったのかもしれない」と思うようになっていった。

「離婚時に受け取った慰謝料だけでなく、子どもの養育費も大半を使ってしまいました。今後のことが本当に心配です。騙されたと気づいたあとも、Iさんからは新しいビジネスの紹介がありました。彼がやっているかどうかはわかりませんが、私はもう関わりたくないと伝えました」

Iさんに対して、どう思っているかを聞いてみた。「彼には目を覚ましてほしいですね。そして、もし返せるお金が少しでもあるなら返して欲しいです。せめて私の紹介料だけでも……」

Y美さんが入金した金額のうち少なくとも6%、つまり50万円弱がIさんの手元に入っているそうだ。

ちなみに、紹介すればするほど紹介料は上がっていく。Iさんは、歴代の彼女や出会い系アプリで知り合った女性には全て声をかけていたため、もしかしたら1割以上もの紹介料を受け取っているかもしれないという。

「私も大変だけど、立派なお仕事やめてしまって、奥さんや子どももいる人たちは、一体どうしているんだろうと心配になります。あの人たちも上の人から騙されていたのかな? そうではなく、騙しているという自覚があってセミナーで話していたのかな? ……もしかしたら、立派な経歴や家族のことも嘘なのかな? 今となっては、わからないことだらけです」

Y美さんが投資したジェンコとGTRは、警視庁がすでに本格捜査に乗り出している。主な運営者は逮捕され、金融商品取引法違反(無登録営業)などの罪名がつくのだろう。だが、こういった詐欺的スキームを持つマルチ型の投資商品では、紹介者たちは「自分も多くを投資しており、被害者である」といい、外国にある“本社”が悪いと言い逃れようとするのも常套句である。これらを司法はどう判断するのだろうか。

関連記事(外部サイト)