自動車のコックピット問題。どこまでエレクトロニクス化をするべきか?

2020年にテスラは悲願の50万台の販売(年間)を達成。“一部の人が趣味で買うクルマ”ではなくなってくる段階になってきているが、大規模なリコール報道もあったテスラの安全性はどうなのだろうか?

テスラバブルに踊らされずに、真のEV産業の現実を見極めるにはどうしたらよいのか? 今、注目される新産業「EV」(電気自動車 / Electric Vehicle)をテーマに、加藤康子氏(元内閣官房参与)、池田直渡氏(自動車経済評論家)、岡崎五朗氏(モータージャーナリスト)の3名が、脱炭素(カーボンニュートラル)やEV、エネルギーと日本のものづくりの大問題を徹底討論!

▲電気自動車を通して見えてくる日本の産業や政治の問題点を徹底討論

※本記事は、加藤康子×池田直渡×岡崎五朗:著『EV推進の罠 「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

■テスラの自動運転はどのレベルなのか?

岡崎 テスラは本国アメリカで、一部の人に向けて最新のバージョンにソフトをアップデートすると、街中でもハンドル、アクセル、ブレーキを自分で操作しなくても、ナビをセットしておけば自動で運転してくれる……というサービスを提供し始めています。

ただ、これがテスラの言う「完全自動運転」かというと、決してそうではなくて、あくまでも「運転支援」なんですよ。なぜかと言うと、ドライバーは常に周囲の状況に目を配らないといけなくて、危ないと思ったら自分でハンドルを切らなきゃいけないし、ブレーキも踏まなきゃいけないと定義されているから。

本当の自動運転、いわゆる「レベル4」以上の自動運転というのは、ドライバーは何もしなくてもいいんですよね。

▲自動運転のレベル分け

池田 なんなら、酒飲んで寝ちゃっていてもいい……ということになってこそ、完全自動運転なわけですよ。

加藤 アメリカのロサンゼルスで、テスラの自動運転で140km/h出しながら昼寝をしていた人が、事故を起こしてクルマを大破させたという事件がニュースになっていましたよね。

岡崎 「昼寝をしたらいけないのに昼寝をしたから、事故の責任はドライバー」というやつですね。普通、運転中に昼寝をするかって話ですけど。

加藤 さすがにアメリカ人はやることがダイナミックというか大胆というか(笑)。

池田 テスラ側はあくまで「自動運転」と言うんですよ。英語では「オートパイロット」と言うんですけど。でも、それはただの登録商標で、現実には我々が思っているような自動運転じゃなくて……つまり法的な定義の自動運転じゃないんですよね。

■スバルの「アイサイトX」と「テスラ」を比較する

加藤 例えば、スバルの運転支援システム「アイサイトX(エックス)」は、高速道路でもハンドルに軽く手を添えているだけ。50km/h以下の渋滞時には手放しもできる。それを「ハンズオフアシスト」と言っているんですけど「自動運転」という言い方はしない。あくまでも「ドライバーズアシスト」ですよ。

岡崎 そうです。僕が「テスラの好きな部分もあるけど、嫌いな部分もある」というのは、まさにそういう部分でして。本当は自動運転ではないのに、自動運転と言って誤解を呼ぶ、誤解されても上等だ、という売り方をするじゃないですか。

池田 大風呂敷を広げてね。

岡崎 テスラは強気で言うんですね。ちゃんとモニタリングして、危ないと思ったら人間がカバーしなきゃいけないのに「それをあなたがやらなかったのだから、あなたが悪い」と。それでも「オートパイロット」だの「完全自動運転」だのと恥ずかしげもなく言う。そのあたりがユーザーを騙して売っている感があるんですよね。

池田 そういった行き違いが何度も起きて、何度も裁判になっているのに、まだホームページには「オートパイロット」と書かれているわけです。

岡崎 自動運転というと、テスラが圧倒的にリードしていると思っている人が多いですが、それは“テスラの嘘”に騙された人たちです。人が関与しない自動運転は、まだテスラでも実現できていない。

自動車専用道路での渋滞時のみ、テレビを見たりスマホを操作したりしてもいいという「自動運転レベル3」を実現したホンダ「レジェンド」が、現在のところ唯一の自動運転車です。

池田 完全自動運転は相当にハードルが高いと思っていますが、例えば、高速道路を使って300kmとか400kmの距離をシステムのアシストを受けながら、今までより遙かに、楽に走破するというところまでは、もうかなり近づいています。

あとは、ユーザーがそれで満足できるのか、完全に運転から開放されたいと思うかどうかです。個人的には、最新世代の高度運転支援は十分に大きな進歩を遂げているので、当面はそれで移動がずっと楽になるんじゃないかと思っています。

■EVを絶賛する人たちは何を絶賛しているのか?

加藤 ところで、国会議員の先生方にも、テスラを絶賛する方が結構いますが、彼らが絶賛しているのは、電気自動車ではなくて、自動運転の部分ではないかなと思います。

車内のユーザー・インターフェースがタッチスクリーンであるとか、クルマというより、まるでゲームマシンに乗っているような感覚の新しさ、日本のメーカーにはないような斬新なデザインがテスラにはありますからね。そういった部分が、新しい物好きの人たちには未来志向に見えるんじゃないでしょうか。

岡崎 まぁ確かに、見えますよね。

加藤 それはEV化の話ではなくて、むしろエレクトロニクス化、自動運転のことをいっている気がします。

池田 例えば、スマホを持ってそばに近づくとドアロックがポンと開くとか、乗ったら自動でシステムが起動して、アクセルを踏むと勝手にサイドブレーキが降りて……みたいなことですね。とにかく全部が自動で動いていく、電子仕掛けみたいな装置に興味がある人は多いでしょう。

でもね、それってガソリン車でもやろうと思えば簡単にできる話なんですよ。やらないのはリスクが高いからです。

加藤 まさにデジタルコックピットというやつですね。スバルの「レヴォーグ」だって負けていないと思いますよ。

岡崎 ただ、いろんなボタンはまだ付いていますよね?

加藤 そう、付いてます。

岡崎 テスラの特徴の一つに、操作ボタンを極端に減らしているというのがあります。ハザードランプスイッチ、グローブボックスを開けるスイッチ、その2つしかボタンはないんですね。あとは全部タッチスクリーンの画面の中にある。例えば、サンルーフのシェードの開け閉め、エアコンとかデフロスターとか、それらも全てタッチスクリーンに入っています。

加藤 それはすごいですね。

岡崎 これがテスラの“未来的に見えるインテリア”の秘密なんです。ただ、そのタッチスクリーンが壊れたら厄介です。「室内が曇り始めて前が見えないけど、全然デフロスターがつかない!」とか、事故に直結するような危険を誘発しかねません。

だけど、そんな状態になることを彼らは想定していない。ナビゲーションが故障しても走るのに支障はないけど、デフロスターだとそうはいきません。2月の大量リコール※注1の問題はまさにそれで、過度にタッチスクリーンに頼った設計が原因です。

▲EVを絶賛する人たちは何を絶賛しているのか? 出典: metamorworks / PIXTA

■3年以内に260万円のテスラ車が登場する!?

加藤 でも、今まで750万円していたテスラが、今後260万円で買えるとしたら、かなりインパクトありますよね※注2。

岡崎 2020年に、テスラは悲願の50万台の販売(年間)を達成しました。これでおそらく“一部の人が趣味で買うクルマ”という段階は卒業して、もう“成人式”を迎えたとみるべきですね。

加藤 企業も成長するわけですね。

岡崎 成人になったら、それなりに責任を持たないといけないわけじゃないですか。それでも、まだ彼らは同じスタンスを取り続けている。いい加減「若気の至り」が許される状況じゃないことを理解するべきでしょうね。

池田 例えば、テスラ株の利益でテスラ車を購入した人気YouTuberおのださんは、トラブルも込みでテスラを楽しんでいました。こういう人たちが、今のEVを楽しむ人なんだと思います。でも、これからはそうじゃない一般の人たちにEVが渡り始めるんですよ。トラブルが出たら烈火のごとく怒って電話をかけてくる人たちが、これからのEVユーザーになるわけです。

岡崎 僕らはね、いわゆるクルマ好きじゃないですか? 80年代のイタリア車とかフランス車とかに乗ってね、これがよく壊れたりしてさぁ……。

池田 故障自慢(笑)。

岡崎 そう。でもそれがまた楽しいんだよね、という感じで……まぁオタクっていうか変態なんですけど(笑)。でも、そういう人はごく一部ですよね。「壊れたらすぐディーラーに電話して文句を言う」のが普通のお客さんです。しかし、テスラはそのディーラーすらない。重整備ができる修理工場だって、国内に数カ所しかありません。

加藤 なるほど。EVはマニアのクルマから一般ユーザーのクルマに進化する段階ですね。

岡崎 そうです。260万円になったら普通のお客さんが買い始めるので、今までの商売のやり方では成り立たない、と見るのが普通の考えですね。

池田 だから「修理にお金がかかる」といったときにも烈火のように怒るわけですよね。今までのお客さんたちは、お金持ちだから「修理代30万円です」と言われても「そう、しょうがないね」とすんなり払っていたけど、これからのお客さんは「お前のところのミスじゃないか、責任をとれ!」と始まるわけですよ。

加藤 テスラのワイパーや曇り止めが効かなくなったとかいう話を、ニュースで読みました。

池田 まさに、タッチスクリーンの液晶が死んじゃうと、ワイパーも曇り止めも全部操作ができなくなるということですね。この液晶画面に全てのスイッチが入っているわけですから。

加藤 でも、それって不便じゃないですか? ワイパーまでタッチパネルの中にあったら逆に操作が増えるように思います。

池田 雨滴を自動検知して動くのですが、作動速度の調整はタッチパネルでしかできません。だから、日本のメーカーは一生懸命に「物理スイッチ」を残しているわけです。あれって、すごくお金がかかるんですよ。スイッチを付けたら、そこに配線を引っ張ってきてつなげなきゃならないので。部品が必要なだけじゃなくて、組み立ても大変なんですよね。

加藤 つまり、テスラは大きなコンピューターマシンに乗っているようなものですね。「テスラができるんだったらアップルも」と考えるわけだ。

岡崎 世の中は、こういう新しいことをやっているテスラの方が先進的で、日本のメーカーがやっていることは古いという風潮になっているわけです。でも、古いと言われる物理スイッチを残しているのには、ちゃんとした理由がある。何があっても安全のためには、ここは絶対作動を続けなきゃいけないんだ、と考えているわけですよね。

池田 高い理念があってやっていることなんだけど、それを一部のEV好きからは古臭いと言われてしまうわけです。

加藤 “安全・安心”をとるか、“新しさ”をとるか……といったところでしょうか。しかし安全でないクルマに、一般ユーザーは命を預けるのでしょうか?

※注1 【テスラの大規模リコール】
2021年2月2日、『モデルS』と『モデルX』13万5000台がリコールを届け出。ファームウェアのバージョンアップに使う、メモリカードの容量不足が原因。

※注2 2020年9月24日、マスク氏は 3年以内に2万5000ドル(約260万円)のEVを発売すると発表。テスラ中国で開発中とのことだが、2021年10月の時点では詳細は不明。

『EV推進の嘘 #03』EV推進は株価のため?テスラ&イーロンマスクの功罪!脱ガソリンの嘘!(加藤康子・池田直渡・岡崎五朗)( https://www.youtube.com/watch?v=jt4FVQN0LsI&t=946s )

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