石井光太が語る「貧困ジャーナリズム」の葛藤と可能性

ニュースクランチで連載していたノンフィクション作家・石井光太氏の「格差と分断の社会地図」。その元になっている『格差と分断の社会地図?16歳からの〈日本のリアル〉』が、昨年の11月に優れた貧困問題報道などに贈る「貧困ジャーナリズム賞」にノミネートされました。日本実業出版社の担当編集者である山田氏に、授賞式の様子をリポートしてもらいました。

■普通の人に格差や貧困の実態を知って欲しかった

私、人生で初めて授賞式に行きました。「貧困ジャーナリズム大賞2021」の授賞式です。

なぜかというと、私の担当作の『格差と分断の社会地図 16歳からの〈日本のリアル〉』がノミネートされたと連絡があったからです。

本書は、ノンフィクション作家の石井光太さんが、日本の格差・貧困・分断の実相を書いたルポルタージュ兼データブック。石井さんが取材したエピソードと、それらのエピソードを裏づけるデータで構成されています。

なぜそういう構成にしたかというと「普通の人に格差、貧困の実態を知って欲しかった」から。

たとえば、家にはDVをする父親と、うつ病の母親がいて、その日の食べ物や着る服にも困っている。母親が外国人で父親は出稼ぎ労働者、コミュニティから家庭ごと孤立してしまっていて、日本語も母の母語もおぼつかない。

日本にはそんな子どもがたくさんいて、親の貧困が子に連鎖したり、一家でコミュニティから孤立して公的な福祉につながれない場合が多くあります。また、一度貧困に陥ったら這い上がりにくいのが、日本という国の特徴でもあります。

一言で「貧困」といっても、さまざまな背景がある。そのことを視覚的にぱっと見て理解してほしかったのです。

■大賞はNHK「生理の貧困に関する一連の報道」

迎えた当日。授賞式だけど、貧困ジャーナリズムだからあんまり華美じゃないほうがいいのかな、とほぼ普段着で行くと、意外とスーツ姿の男女が多数。うろたえているうちに授賞式が始まりました。

『格差と分断の社会地図』は貧困ジャーナリズム賞を受賞しました。格差や貧困、分断の実態が視覚的に可視化され、わかりやすく伝えられているというのが受賞理由でした。資料を探して法務省の図書館まで行った甲斐があったというものです。

しかし、石井さんからは「わかりやすいのが良いのかというとどうでしょうね」という反省(?)の言葉も。確かに。でも、受賞したので素直に喜びます。うれしい。

他の受賞作は、ジャーナリズム大賞がNHK『生理の貧困に関する一連の報道』。あ、これ見た。知ってる知ってる。すごかったですよね。この報道以降、一気に生理用品を無償提供するなどの運動が始まって、ジャーナリズムの力を感じました。

特別賞の書籍は『やさしい猫』(中央公論新社)。入管に翻弄される外国人と日本人のカップルとその娘たちを描いた、中島京子さんの小説です。おもしろかった。

この賞の会場で知ったものだと、読売新聞大阪本社の記者、上村真也さん著『愛をばらまけ』(筑摩書房)。あいりん地区で教会を営み、人助けに奔走する牧師のノンフィクション。漫画みたいに熱いおばあちゃんの牧師さんが、悩みながらも人助けに奔走する様子が圧巻でした。なぜかゴスペルを聞いたような読後感。

ほかにもルポルタージュ、映画など15作品が受賞しました。ノミネート数も過去最高なら、受賞作数も過去最高とのこと。ここにもコロナの影響があるのでしょうか……。

▲表彰される石井光太さん。左は宇都宮健児弁護士(「反貧困ネットワーク」代表世話人)

■こぼれ落ちるエピソードを拾いあげたい

受賞者が全員登壇し、そのままシンポジウムが始まります。

印象的だったのは、何人かの方が繰り返し言及された「貧困ジャーナリズム」というものについての葛藤です。

「貧困報道はジャーナリズムにおいて花形ではない」「儲からない」という現実、だけど貧困は静かに拡大していくので、社会と共有していく、声を上げることが大切だという信念。そして「裕福な立場から貧困を語ること」の矛盾についてなど、まさにその現場でどっぷり取り組んでいるからこその迷いと、それを乗り越えたいという強い意思を感じました。

その流れで、石井光太さんからは「人間が書きたい」という提起がなされました。

たとえば「コロナ禍で職を失い歌舞伎町で街娼をしている女性が、街娼で得たお金で野良猫の餌を買い、猫を可愛がることが生きる希望になっていて、街娼の仕事もたくましくこなしている」という事実を伝えたいとき、新聞やテレビなどの大きなジャーナリズムでは「コロナ禍で職を追われた女性が街娼になった」ということを報道する。それ以外は報道しない。

けれど、石井さんはジャーナリズムが報道しない背景、こぼれ落ちるエピソードを拾いあげたいということでした。

私事ですが、思えば10代の夢は新聞記者でした。願い叶わず編集者になり、進む道に迷っていたとき、石井さんの『物乞う仏陀』(文藝春秋)を読んで連絡を取ったのが出会いでした。そこから10年近く石井さんのまわりをうろちょろし、ようやく4年前に石井さんの本を自分でも世に送り出すことができ、今回で2冊目。

私は、石井さんの「人間を書きたい」という欲求、そして「こぼれ落ちるエピソードを拾いあげたい」という眼差しをずっと尊敬して、石井さんが見ているものを私も見たいと思い続けていたんだと改めて思いました。

■貧困ジャーナリズム大賞は熱かった!

その後、テーマは「フィクションとノンフィクション」について。

特別賞受賞作の『やさしい猫』で、入管の問題を取り上げた作家・中島京子さんは「小説は間口が広く、たとえば、宇宙人とか地球の反対側の人のような自分とは全然違う存在の話が、知っている人の話のようになる」「まだ知られていない声があるならば小説にする意味がある」という、小説ならではの役割が語られました。

同じく特別賞を受賞した映画『海辺の彼女たち』のプロデューサー・渡邉一孝さんは「報道やテレビのカメラが入れない領域でも、映画であれば描くことができることもある」という指摘がありました。

石井さんは「ジャーナリズムが1つの“テーマ”で切り取ると見えなくなるものが、映画・小説・ルポルタージュなどで、別の切り取り方をすることで見えることもあるのではないか。ジェンダーで切り取るとジェンダーしか見えてこないけれど、たとえば上野という街で切り取れば、多様性も貧困も移民も、いろいろなテーマがあって、それらすべてに絡みつくジェンダーの問題、というようにダイナミックに見えてくることもあるのではないか」という、メディアごとの切り取り方・描き方がはらむ可能性についての示唆が述べられました。

そして「ノンフィクションはフィクションを喚起する」という表現の可能性が語られ、終会。

感想を申し上げますと、貧困ジャーナリズム大賞は、いろいろな葛藤を抱えながらジャーナリズムの可能性を信じる人たちが魂を燃やした作品が集う、大変熱い賞でした。

この賞にまたノミネートしていただけるような「社会問題と共鳴しあう1冊」をつくりたいと、思いを新たにした次第です。

格差と分断の社会地図 | WANI BOOKS NewsCrunch(ニュースクランチ)( https://wanibooks-newscrunch.com/category/series-037 )

〈山田 聖子〉

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