平時が「平和」の時代は終わった。日本が仕掛けられている戦争とは?

今年の終戦記念日はロシアによるウクライナ侵攻もあり、戦争と平和について考える人も多かったことでしょう。日本国憲法第9条によって、日本は戦争の権利を放棄しており、70年以上平和な日々が保たれている。しかし、もはや武器を持って戦うことだけが戦争ではないと、元陸上幕僚副長・陸上自衛隊東部方面総監で作家の渡部悦和氏は語ります。日本が仕掛けられている「戦争以外の戦争」とは?

※本記事は、渡部悦和 :?著『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

■「平時」の概念がグレーゾーンになっている

▲バイデン米大統領 出典:The White House(ウィキメディア・コモンズ)

米国のジョー・バイデン大統領は2021年3月の記者会見で、米中のせめぎ合いは「21世紀における民主主義と専制主義との戦いだ」と表現した。「民主主義」対「専制主義」という構図は、2021年3月18日にアラスカでおこなわれた、米中の外交トップ会談でも明確であった。

この会談で中国側の外交トップの楊潔?(ようけつち)は、世界的な支配者としての米国の役割に公然と異議を唱え「米国には上から目線で偉そうに中国にものを言う資格はない。中国と交渉をしたければ、相互尊重の基礎を守れ」「中国の首を絞めようとすれば、結局は自分の首を絞めることになる」などと米国を厳しく批判した。

中国があらゆる手段で、米国を中心とする民主主義陣営に対抗しようとする際に、米国の同盟国である日本も攻撃の主たるターゲットになっている。だからこそ、「日本は戦時中である」という認識になるのだ。

昔は、平時と戦時を明確に分けるという非常に単純な考え方であった。

自衛隊は、平時からグレーゾーンのときを経て有事になる、という考え方をするようになった。このなかでグレーゾーンとは、平時でも有事でもないその中間の期間や事態のことだ。例えば、尖閣諸島に中国の武装漁民が大量に押し寄せてくる事態などで、この事態では自衛隊を防衛出動させることはできず、自衛隊抜きで対処しなければいけない、非常に難しい事態となる。

強調したいことは、昔「平時」と思っていた期間は、決して平和なときではなく、情報戦・宇宙戦・サイバー戦などが普通におこなわれる競争の期間だということだ。

■「戦わずして勝つ」を仕掛けられている日本

この考え方は、中国の孫氏の兵法以来の伝統的な考え方である「戦わずして勝つ(不?而?)」という原則に通じるものがある。

中国の現代戦を理解するためには、『超限戦』にふれざるを得ない。『超限戦』は、解放軍の公式文書ではないが、解放軍の公式な戦略や作戦を深く理解するためには不可欠な文書である。以下の文章は、『超限戦』の本質を見事に表現している。

・目的達成のためなら手段を選ばない……制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成することは、戦争にも該当する。

・戦争以外の戦争で戦争に勝ち、戦場以外の戦場で勝利を奪い取る。

<戦争以外の戦争で戦争に勝ち、戦場以外の戦場で勝利を奪い取る。>という記述は、「戦わずして勝つ」につながる。

▲中国の習近平国家主席 出典:Pal?cio do Planalto(ウィキメディア・コモンズ)

習近平主席は、2017年の第19回党大会において、「軍隊とは戦いに備えるためのものであるから、そのすべての活動は『戦闘ができ、戦闘に勝利できる』ようにすることに焦点を絞らなければならない」としつつも、「態勢をつくり、危機をコントロールし、戦争を抑止し、戦争に勝つことができるようにする」と述べている。

習近平のスローガンは「中華民族の偉大な復興」であり、「中華民族の偉大な復興」が中国の夢だと主張している。これは、中華民族が1840年代のアヘン戦争以前(つまり列強の植民地になる以前)にそうであった、世界一の大国の地位に復帰することだ。

つまり、彼の夢は、まず米国と肩を並べる大国になること、そして最終的には米国を追い抜き、世界一の大国として世界の覇権を握ることだ。そのためには手段を選ばないのが、中国の超限戦思想だ。

習近平は、中国の夢を実現するために、海洋強国の夢、航空強国の夢、宇宙強国の夢、技術大国の夢、サイバー強国の夢、AI強国の夢など、多くの夢を実現すると主張している。つまり、列挙したそれぞれの分野で世界一になるということだ。これらすべての領域で世界一になるという夢は、全領域戦に勝利する決意の表れである。

領域は、「自然に存在する領域(絶対領域)」と「人工的な領域」に区分することができる。例えば、陸・海・空・宇宙領域は「自然に存在する目にみえる領域」であり、電磁波領域は「自然にも存在するが人工的で目にはみえない領域」である。

そして、「人工的な領域」として、サイバー・情報・認知(cognition)・技術・政治・外交・経済・文化・宗教・メディア・歴史などがある。

とくに認知領域はヒューマン領域とも呼ばれ、最近非常に注目されているが、認知領域における戦い(認知戦)は中国の数千年の戦争史を通じて一貫して存在しており、古代の中国では「攻心術」や「心戦」と称されていた。

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