テレワーク時代の“新しい”面談に必要なスキルとは?

自分自身に思いやりを向ける「セルフ・コンパッション」が新しいメンタルアプローチとして注目を浴びている。集団認知行動療法の講師であり『思いやりは武器になる』(小社刊)を上梓した石上友梨さんに、セルフ・コンパッションの日常での取り入れ方、ビジネスとの関係について話を聞いた。

「思いやり」は武器になる/石上友梨

■“思いやりのあるキャラクター”を作り出せ

ーー石上先生は「思いやり」を認知行動療法に取り入れているとのことですが、具体的にはどのようなやり方をしているのでしょうか?

よくやるのは、“思いやりのあるキャラクター”を作り出してもらうことです。ムーミンが好きな人であれば「このつらい場面で、ムーミンが思いやりのある言葉をかけてくれるとしたらどう?」といった投げかけをします。

オリジナルで作ることも多いですが、既存のキャラクターのいいところは、グッズなどがあるので持ち歩ける。これが“思いやりのあるアイテム”になるんです。

ーーなるほど、たとえばプーさんが好きな方であればプーさんのアイテムでもいいと。

はい。アイテムは、患者さんが自然と揃えるようになる感じがします。カウンセリングで、プーさんからの思いやりの言葉を考えているワークをやっていると、自然と患者さんがプーさんのぬいぐるみを持ち歩き始めたり、いつの間にか携帯の待ち受けにしたりしているんです。これは非常に皆さんすんなりと取り入れてくれます。

カウンセリングで、紙に自分の思考を書き出してもらうということもやりますが、家に帰ると続かないことも多いんです。でもキャラクターからのセリフを思い出すだけであれば、場所も選ばず手軽にできる。好きなものだからイメージしやすいし、続きやすいのかなと。

ーーお話を聞いてセルフ・コンパッションのハードルがすごく下がりました。これは誰でもできそうですね。

私はセルフ・コンパッションのエッセンスを取り出して、使いやすいようにアレンジしています。

■他人との小さな共通点を探す

ーー最近だとコロナ禍で、自分に自信が持てなくなったという人も多いように思います。たとえばリモートワークで、自分の実力が可視化されることで「俺なんて大したことないな」と思ってしまうような。

リモートワークでは顔が見えない分、他人の気持ちをネガティブに想像してしまいがちです。また何気ないメールや電話の一言に、過剰に傷ついてしまうこともあるかもしれません。

私がカウンセリングでよくやっているのが、言葉を外在化することです。これはセルフ・コンパッションというより、認知行動療法のやり方ですが。誰かの言葉に傷ついたとして、その言葉の主を実際の人物から架空のキャラクターに変える。

たとえば上司のあの言葉は、実はディズニーの悪役が言っていたんだと。そうするとちょっと笑えてきたり「所詮は他人の言った言葉なんて」と気にせず生きられるようになります。

ーーなるほど。あとは他人に対して、なかなか余裕が持てなくなっている人も増えているように思います。

それに対しては、セルフ・コンパッションの基本概念である“人類の共通性”を意識してもらえるとよいと思います。

他人との違いを意識してしまうと、自分はだめだと思ったり。逆に、自分はすごいと見下す態度をとってしまったり。違いというものは探せばいくらでも見つかるもの。そうではなく共通点を探っていくのです。

▲他人との小さな共通点を探す イメージ:PIXTA

すごく身近な例で言うと、難しいテストを受けた後に、みんなの「今回のテスト、分からなかったね」という声を聞くとすごく安心しますよね。そういう小さな共通性を探していくことです。

■自分にも相手にも「思いやり」をもつ

ーーそれは自分も学生時代に経験があるので、よくわかります(笑)。最後にセルフ・コンパッションはビジネスシーンでも有効なのでしょうか? アメリカの企業で、この概念が取り入れられていると聞きました。

はい、LinkedInはがっつり企業理念にしていますし、Googleは研修プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ」の考案者が、チームビルディングの必須要素として取り入れています。残念ながら日本企業では、まだそれほど浸透はしていません。

ーー日本の企業には思いやりが足りない。

今の日本企業を見ていると、効率化を求めるあまりに、本来の思いやりの部分がシステム化されてしまったように思います。例を上げるならば、1on1ミーティングなどもそうです。部下のことを見ていて心配だから声をかけて面談するのではなく、半年に1回やれと会社から言われているからやる、といったマインドが多いように見受けられます。

ーー形ばかりの思いやりですね。では本当の思いやりとは。

まず、自分の気持ちや部下の気持ちに気づいて、それを受け止めること。そこが意識できたら次のステップで、相手にとって必要かつ思いやりのある言葉をかけるなど行動を起こすことです。行動する前に、まず自他の気持ちを意識するだけでもだいぶ違います。

▲自分にも部下にも「思いやり」をもつ イメージ:PIXTA

例えば苦手な部下がいたとします。でも「この部下を嫌ってはいけない」と気持ちを抑えてしまうと、かえって態度に出てしまったりする。なぜこういう気持ちを持ってしまうのか? ということに客観的に注意を向け、自分の感情を受け止めたうえで、今の自分や部下にとって必要な行動はなんだろうと考えれば、部下に対する接し方も変わってくる。

自分の接し方が変われば、部下の態度も変わってくる。それを見て、思いやりのある言葉をかけてみようという気持ちになる。そんな循環でしょうか?

ーーまず、ネガティブな感情を持っていることを認めた方がいいのですね。

はい、全部認めることが大事です。そして、そう思ってしまうのはなぜだろう? と考えてみるといいです。その部下や上司が苦手なのは、自分があまり見たくないものを持っているから、という理由もあったりするんです。自分と似た弱点であったりとか。

そして自分のいい面と悪い面も全て認める。そしてまず自分に思いやりを持ってみる。そこから自然に他人への思いやりにつながっていくということもあります。もちろん、どうしても自分に思いやりを持ちづらい方もいるので、その場合はまず他人に思いやりを向けるところからやってもいいと思います。自分への思いやりと他人への思いやりはつながっているので。

ーー小さなマインドチェンジを繰り返すことが重要なのですね。

マインドフルネスの研究ですが、脳の構造が変わるためには8週間ぐらいはかかるという研究結果も出ています。マインドフルネスをすでに取り入れている方であれば、セルフ・コンパッションも取り入れやすいかなと思います。

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