入院や特養にかかる費用は? 介護で知らないとソンする「お金」の話

高齢化社会にあって、親の介護は誰もが向き合うべき問題である。そしていざ介護というときにぶち当たるのが「お金」の問題。なかなか一般化することが難しいが、ここでは競馬ライター田端到さんのケースを紹介する。「月またぎ入院」や「特養〔特別養護老人ホーム〕」にかかる費用の相場など、自分事にならないと知らないことが多い。

■入院が1日ズレるだけでかかるお金が倍に?

始まりは、母からの1本の電話。
父親が認知症、母親が重い病気になった。父は一人で外出して迷子になり、警察のご厄介になったという。母は、そんな父の面倒を見てきたが、今すぐ入院しなければいけない病状だという。田舎で二人暮らしだった父と母。
実家へ帰ってみて、事態の深刻さをあらためて知ることになる…。

父の在宅介護にひと区切りがつき、当面の心配は母の病状だ。

肺炎の完治からしばらく静養した後、母は肺がんの切除手術を受けた。病気に対して素人ができることは何もない。手術室へ送り出すとき、ベッドに乗せられた母が、やけにがっしりとぼくの手を握りしめ、緊張した表情をこちらへ向けた。

▲母は肺がんの切除手術を受けた イラスト:トキワセイイチ

ちょっと待ってよ、まるで今生の別れみたいな握手をされたら、まともにあなたの目を直視できないじゃないですか、とドキっとしたが手術は無事に成功。1週間もすれば、退院できるという。

ただし、この時にぼくはひとつ、お金の面で失敗をした。損になると知らず、わざわざ「月またぎの入院」の日程を選んでしまったのである。

月またぎの入院がなぜ損なのか。知っている人には初歩レベルの常識らしいが、病院と縁のない生活を送ってきた同類の人たちのために説明しておこう。

医療費は、高額療養費制度によって負担が軽減される。

高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、その超えた分のお金を払い戻してくれるという、ありがたい仕組みだ。自己負担の限度額は、年齢や所得に応じて決められている。

うちの母の場合、自己負担の金額は月に4万4400円だった。つまり、医療費がいくらかさんでも1ヶ月の支払いはこの金額におさまる。がんの手術+入院ともなれば費用は高額になり、本来なら80万円以上の医療費がかかるところも、とりあえずの支払いは健康保険の1割負担(当時)で8万円少々。後日、限度額を超えた分が戻ってきて、4万4400円で済む。

ただし、この制度は月単位で計算される。

入院が月をまたぐと、もともとの医療費80万円が、2月分の70万円+3月分の10万円というふうに分かれてしまうため、高額療養費制度が適用されても、2月の支払いは4万4400円、3月の支払いも4万4400円。結果的に倍の費用がかかってしまう。たった1日でも月をまたぐと、その分が負担になる。

ぼくはこの仕組みを知らず、母の手術の際に「いつ入院しますか。急ぐ手術ではないです」と医者に言われたのに、少しでも早いほうがいいだろうと焦り、すぐに入院の手続きをとった。そしたら、それがたまたま月末で、月またぎの入院になった。

■気になる「特養」にかかる費用の相場

お金の損得を計算したうえで、親の入院のタイミングをはかるものではないだろうけど、あとになって、おのれの無知を知った次第だ。ネットで調べてみたら、この「月またぎの入院は損」という医療知識は、出産の時に知る人が多いみたいである。

ああ、こんなところにも、妻や子供を持ったことがないロンリー独身男のハンデがあったとは!

それにしても、どれだけ医療費がかかっても月4万円台で済むのは、驚きでしかなかった。おまけに、うちの両親は教職員の共済組合に加入していて、ここからも後日、お金が支給された。

至れり尽くせりの保険制度、医療制度のありがたみを知ると同時に、いくらなんでも手厚すぎるんじゃないか、国に負担させすぎじゃないかと思わなくもなかった。が、そこはぼく個人が、今まで支払ってきたバカ高い健康保険の納付金が使われているのだろうと、納得することにした。

自由業者の健康保険料は高い。医者にかかったこともないのに、何十年も納めてきた健康保険や介護保険のお金は、自分の親が病気になったときのために積み立てられていたのだ。そう考えれば割り切れる。

お金の話ついでに、よく質問される特養の費用についても記しておこう。「特養に入るにはどのくらいのお金がかかるんですか」という質問は本当に多い。

▲介護にかかるお金の実際は? イラスト:トキワセイイチ

特別養護老人ホームの料金は、平成27年8月に大きな改定がされて、所得や資産に応じた負担軽減制の基準が変わった。

ざっくり言うと、それ以前は「そこそこ所得のある世帯以外は負担軽減されて安かった」のが、改定後は「少しでも所得のある世帯は負担軽減してもらえなくなったため、以前ほど安くない」に変わった。

具体的な金額は、専門のサイトを調べるか、ご自身の市町村やお近くの特養にお尋ねください、という役に立たない話しか書けない。

しかし、こんな答えをすると「いや、正確な金額や仕組みを聞きたいわけじゃなくて、いつかの将来のために、おおまかな目安を知りたいだけです」と食い下がられる。

父が入所した特養を例に、だいたいの金額を記しておこう。

居住費+食費+介護サービス利用料。これが特養の費用の基本的な内訳だ。民間の有料老人ホームと違って、入所費や保証金は必要ない。

所得の少ない人は、月額合計が6万円から9万円くらい。 それ以外の人は、月額合計が15万円から18万円くらい。

現時点では、ざっとこのくらいの相場だろうか。要介護度が変われば、料金も数千円の範囲で変わる。部屋が立派な個室なのか、相部屋なのかという違いによっても、料金は変わる。

うむ。こんなガイドブックみたいな話は、退屈で面白くないですかね。

※本記事は、note連載「介護幸福論」『「月またぎ入院」はダメ!知らないと損する医療費のお話』回より一部を抜粋編集したものです。

【ワニブックス】介護幸福論|ワニブックス|note( https://note.com/digi_wani/m/m9dbc2f5c019e )

独身中年息子による介護奮闘記。BEST T!MESでも好評を博した「母への詫び状」が、ペンネームだった著者が実名を明らかにし、「介護幸福論」として再スタート。著者は“王様”として業界に名を轟かす競馬ライターの田端到さん。記憶の糸をたどりながら6年間の日々、そこで見つけた“小さな幸せ”を綴っていきます。

〈田端 到〉

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