レポート『コロナと性風俗』第4回「東京・鶯谷」〜ノンフィクション作家・八木澤高明

レポート『コロナと性風俗』第4回「東京・鶯谷」〜ノンフィクション作家・八木澤高明

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Oleg Elkov / Shutterstock

「この通りには、吉原へ行くお客さんを乗せる車がずらっと並んで、たくさん人が歩いていたけどね。今は全然だよ。コロナの影響で、どん底だよな」



30年前から鶯谷でデリヘルを経営する優子(68歳)は、そう言った。


彼女は韓国の出身で、22歳の時に来日し、水商売や風俗に身を置いてきた。鶯谷駅前で待ち合わせをしたのだが、彼女の行きつけだという喫茶店へと向かう道すがら、鶯谷駅前の様子を話してくれたのだった。


店に入ってインタビューをはじめたが、ひっきりなしに彼女の電話が鳴り続けた。雇っている女性や、客からの問い合わせの電話だった。その様子からは、コロナの影響はまったく感じられなかった。


「なに言ってんのよ。私は弱音を吐かない人間だけど、ここまで苦しいことは今までなかったよ。売り上げは、だいたい以前の半分だよ」


具体的には、いくらになったのか。


「まぁ、50万円ぐらいだよ。それでもさ、今は借金もないし、子どもも独り立ちして残すことを考えなくてもいい。自分の生活費だけを考えればいいから、気楽なもんだけどな」


気丈に振る舞う優子。彼女がこれまでどんな人生を歩んできたのか気になった。


「20代で日本に来てね。本当は留学で来たんだけど、韓国人クラブのオーナーから1日2万円で働いてくれと言われてさ。金に目がくらんで働きだしたのよ。だって、その頃の2万円っていうのは、韓国では一流企業のサラリーマンの月収だよ。それで1年働いて、韓国に家を建てたからもう帰ろうかという時に、日本人の男に一目惚れされて結婚したんだよ。その男とは別れたけど、それでも、ずるずると今も日本にいるの」


儲かっているところは儲かっている

30代でクラブの経営をはじめたが失敗し、一時は5000万円の借金を背負った優子。そこからSMクラブで働き、1年で独立。鶯谷でデリヘルをはじめた。


「最初は従業員もいなくて、私ひとりで電話を取って、お客さんとプレイして、365日、ほとんど寝ないで働いたよ。それで借金は全部返した。お金を稼ぐには、人が休む時に仕事をしないといけない。それが私のポリシーだよ」


体一つで風俗業界を生き抜いてきた優子は、鶯谷の生き字引ともいうべき存在なのだ。そんな彼女によれば、コロナが流行する以前から鶯谷の状況には変化があったという。


「無店舗型のデリヘルなら、今は簡単に許可が降りるだろ。誰でもできるようになってどんどん店が増えているから、女もすぐに店を移るし、店を通さないで客を直引きしたりする。義理も人情もあったもんじゃないよ。安い店が増えて、コロナでも気にしない客はそういう店に流れているから、こんな状況でも儲かっているところは儲かっているんじゃないか」


店が乱立していることもあり、多くの店が生まれては消えていく。そうした流れの中で、優子が経営している店にも元々経営者だった女性が4人ほど在籍している。過当競争とコロナ禍により、店を畳んだ女たちだという。コロナ禍によって仕事を失い、風俗業界に多くの女性が流れ込んでいるばかりでなく、風俗業界の中でも店が立ち行かなくなって、自ら体を売りはじめる女性も少なくないのだ。


ところで、鶯谷といえば、日本人のデリヘルばかりでなく、中国人や韓国人女性が所属するデリヘルが多くあることでも知られている。私の知り合いに、月に最低2回は鶯谷のデリヘル嬢を呼んでいる男性がいるが、彼によると、働いている外国人女性の国籍にも変化が見られるという。


この業界は何とか生きていけるんだよ…

「中国人が経営している店で、中国の女性とよく遊んでいたんだけど、女の子はほとんど故郷に帰ってしまった。それでもお店はまだやっていて、代わりに働いているのは日本人とタイ人の女性になっていた。タイ人の女性は可愛らしいので、楽しい時間をすごせてはいるけど、それでも早く中国人たちに帰ってきてもらいたいね」


このコロナ禍にあって、在籍女性が入れ替わっても店自体を潰さない中国人の商魂たくましさに感嘆を覚えたのだった。


一方、風俗店ではないが、鶯谷界隈で営業する飲食店の中には、緊急事態宣言の時短要請に応じず、営業を続けている店もある。中国人が経営するその店は、多くの店が午後8時以降の営業を止めたことにより、コロナ前より客でにぎわっているという。しかも、開店して以来の営業利益を記録し、現在は支店を出すことまで考えているそうだ。


一部の声を拾っただけだが、色街・鶯谷は、このコロナ禍であっても、しぶとく生き抜いているのだった。


「コロナで大変だって言ってもね、この業界は何とか生きていけるんだよ。広告代や経費を削ればいいだけだからね。コロナが落ち着いたら、また客が戻って来るよ。男はやりたくなるんだからね。私はさ、確かに苦しいけど、周りが騒いでいるほど何とも思ってはいないよ。風俗で働いている女だって歯を食いしばって頑張れば、もっといっぱい稼げるんだから、ハングリーにやればいいんだよ」


数々の修羅場を経験してきた韓国人ママの優子。彼女はどこか他人事のように、コロナに憂いている世の中を眺めているのだった。


八木澤高明(やぎさわ・たかあき)

神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。


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