「絶対に言えない企業秘密です」…女性3人で立ち上げた「バナナジュース店」は、なぜ“行列のできる店”になったのか

「絶対に言えない企業秘密です」…女性3人で立ち上げた「バナナジュース店」は、なぜ“行列のできる店”になったのか

磯石さん

 コロナ禍で苦しんだ2020年度。窮地から駆け上がった女性たちがいる。神戸夙川大出身の3人組、磯石裕子さん(31)、清水依子さん(32)、阪本日向(ひなた)さん(30)だ。きっかけは、1杯の「バナナジュース」。彼女たちには、発想を行動に移すスピード感、地域住民との触れ合い、SNSでの拡散力があった。

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 今年3月16日、磯石さんと清水さんは静岡市にいた。同月1日、プレオープンした「サンキューバナナ」の日本平店を視察するためだ。1年前、ゼロから始まった「バナナジュース事業」。本人たちも想定外の展開でここまでになったことを再確認し、磯石さんが声を弾ませた。

「おしゃれな感じになっていてうれしいです。ここで計5店舗目になります。他の店は冬場に営業せず、その前に終えた期間限定店もあったので、日本平が初めての常設店になります。まだ、ほとんど告知をしていないのに、1日50杯以上を売り上げたりしていますし、ここからが楽しみです」

■コロナ禍でやることもなく自宅にいる日々…

 19年12月24日。磯石さんは、株式会社Gingerを京都市に設立した。ウエディングのプロデュースを目的に、貯金400万円をつぎ込んだ。磯石さんのウエディング業5年、リゾート観光業3年のキャリアを生かした企画が受け、滑り出しから予約が多数入った。文字通り、夢が広がる日々。目途が立った段階で経理、営業経験もあるデザイナーの清水さんが合流した。

「後々、社員たちが自慢できるように『令和元年』にこだわり、2019年内の設立にしました。実際に動き始めたのは、20年1月からですが、3月になって延期、キャンセルの連絡が相次ぎました。新型コロナウイルスの感染拡大が原因でした。当時は『一時的なもの』と思っていましたが、収入の当てがなくなり、不安で不安で、心細くなっていきました」(磯石さん)

 瞬く間に「ステイホーム」が叫ばれ、拠点にしていたシェアオフィスも使えなくなった。仕方なく、叔母が所有していた京都市内の民家を借りて、オフィスにした。だが、やることもなく自宅にいる日々。無意識に磯石さんは、祖母(大橋法子さん=82)、母(磯石万里さん=55)から受け継いだ、バナナとミルクだけで砂糖を使わないジュースを作るようになっていた。

■「これで、いつオープンするの?」「いける感じする」

「おいしくさせるちょっとしたコツがあって、マイブームのような感じで作っては、自宅に来る人にふるまっていました。依子、日向と鍋パーティーをした3月19日もそうでした。すると、依子が『いつ飲んでもおいしい。これで、いつオープンするの』って言うんです。『えっ、(ステイホームで)人のいない状況でやれると思うの? (近くの)同志社の学生もいないし』と返したのですけど…」(磯石さん)

 それでも、清水さんは「いや、いける感じする」と背中を押し続けた。

「それだけ味が良かったんです。砂糖を使っていないのに、甘味があって、クリーミーで、濃厚で…。なので、『不安ばかりの日々だけど、私たちらしくハッピーなことをしようよ』と勧めたんです」

 2人の1学年後輩で、7年間、アパレル小売業の会社に勤務してきた阪本さんも「できるんじゃないですか。そんなに手間がかかることではなさそうやし」と追随した。

■390円だから、お店の名前は「サンキューバナナ」

 3人は、すぐにパソコンを開いてエクセルで収支を計算。状況を考えると、民家を借りたオフィスは道路に面していて、そこのカウンターを売り場にすればいい。バナナ、ミルクの原材料を仕入れ、あとは手元にある家庭用のミキサー、冷蔵庫でやっていけば、「1日、10杯〜20杯ぐらいの売り上げでやっていけるのかも」で合意した。磯石さんは、他店の設定価格を参考に「1杯500円」と思ったが、清水さんが「毎日飲んでもらえるジュースにしたいから390円でどう? 390円だから、名前はサンキューバナナで」と提案。その場で価格、商品名が決まった。

 清水さんは、翌日から開店に向けて精力的に動いた。「保健所に届けを出したり、いろんな手続きをしました。私は前職からデザインの仕事をやってきたので、バナナの形を100本以上描いて、そのうちの1本をロゴに決めました。あとは、入手したバナナを家の中でどの位置に置いておけば、熟成度が高くなるかも研究しました。裕子が留守の間にカーテンレールの上、床、窓際などで試したのですが、カーテンレールの上が最も傷まずに熟成すると分かりました(笑)」

■オープン当日の売り上げは、8時間で1杯だけ

 そして、店は4月21日にオープン。初日の客は1人で、売り上げは1杯の390円だった。その日の店番は清水さんで、「犬の散歩をしていた40代ぐらいの男性でした。『何してんの?』と言われ、『今日、オープンしました』『えっ、今日かいな。じゃあ1つ』って感じで。結局、営業8時間で1杯だけでしたが、最初に買っていただいた時の喜びは一生忘れられません」と振り返る。

 人通りが少ない日々は続いたが、次第に近隣の住民らが来店するようになった。店前を犬の散歩コースにする人たちは、京都御苑の苑内で休憩するのが定番。誰かが「サンキューバナナ」を手にしていると、「それは?」と聞かれ、「最近、近くでできた店で売っている」「ちょっと、クセになる味」などの会話がされるようになった。状況を察した清水さんは、犬を連れた来客者の特徴と犬の名前をメモ。リピート客に気づくと犬に向かって「〇〇ちゃ〜ん」と声を掛けた。そうした触れ合いもあり、「サンキューバナナ」のファンは増。「クセになる味やな」と言って、毎日来店する生花店勤務の男性、「お客さんが来たから、このお盆に4つ置いて」と注文する高齢女性、ステイホームに飽きた小学生…と客層も幅広くなっていった。

■SNSで話題となり“行列ができる店”に変貌

 その流れの中、磯石さんは、プレスリリースを作成し、SNS戦略を展開。すると、しゃれた商品ロゴのデザイン、パッケージが瞬く間に話題になり、ゴールデンウィーク(GW)に入った同月末には、行列ができる店に変貌した。ステイホームのはずが、大阪、神戸などからも客が訪れるようになった。結果、2人だけでは対応できず、阪本さんも合流。しかし、あるのは家庭用のミキサーと冷蔵庫、バナナも「1日 40杯程度」の分量しかなかった。磯石さんは「すぐに売り切れになって、追加で材料を買いに行く感じで、申し訳ない思いでした。GW期間中にミキサーが5台つぶれたので、1台14万円の業務用に買い替えました」と明かす。

 GW後も客足は増え続けた。週末には、開店の午前10時から閉店の午後5時までミキサーを回し続け、約500杯を販売。そんな「行列ができる京都のバナナジュース店」は、関西のテレビ、新聞でも取り上げられ、「フランチャイズで店を」のオファーが届くようになった。そして、滋賀・安曇川、神戸・元町、京都伊勢丹、青森・十和田と立て続けにオープン。本店も含め、「冬場は消費が落ちる」の判断で、11月末で全店の営業を停止していたが、今年4月からは本店、安曇川店、十和田店での営業を再開することになった。

■静岡・日本平に初めての常設店

 日本平店については、日本平ロープウェイ日本平駅をリニューアルするにあたり、3月1日にプレオープン。敷地内のショップを運営する株式会社静鉄リテイリングからのオファーを受けての展開で、同月28日に正式オープンとなった。

「本当にありがたいです。初めての常設店なので、静岡の方、観光客の方に長く愛していただきたいです。そして、いつ来ても楽しんでいただけるように、ホットドリンク、チョコバナナサンドも用意しました。今後は、イチゴ、みかんなど、静岡のフルーツを生かして、商品開発を進めていきます」(磯石さん)

 とはいえ、主力商品は「サンキューバナナ」で、根強いファンからは「静岡の店にも行きたい」との声が多く届いているという。コロナ禍は続くが、その流れが現実になれば、静岡市の地域振興につながるため、地元財界関係者も期待感を高めている。

 ちなみに、バナナとミルクだけで甘味があり、クリーミーで、濃厚なジュースを作るコツについて、磯石さんは「これは、絶対に言えない企業秘密になってしまいました(笑)」。文字通り、「秘伝のジュース」で築いた売り上げ合計額は約2300万円。本店の常連客30代男性は、磯石さんたちの人柄にも触れたことで、ウエディングプランのオファーもしたという。本業にも効果をもたらしてきたバナナジュース物語は、4月から第2章を迎える。

(「文春オンライン」編集部)

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