都内で、温泉地で…「いつか行きたい」ワーケーションにおすすめの宿、全国7選

都内で、温泉地で…「いつか行きたい」ワーケーションにおすすめの宿、全国7選

※この写真はイメージです ©iStock.com

 一年以上つづくコロナ禍の中で、各地の名宿が廃業寸前に追い込まれています。そこで温泉ジャーナリストの山崎まゆみさんがいま提案するのは、近場の宿でのワーケーション。「いつか再び、誰もが訪れられるように、近くの宿を助けていただけたら」(山崎さん)。全国の温泉宿、温泉地のきわだったコロナ対策とともに、ワーケーションにおすすめの宿をご紹介します。

※記事内の情報は2020年12月時点のものです。

■コロナ対策で温泉地や旅館を選ぶなら

 温泉旅行を計画する際、いま最も気になるのはコロナ感染防止対策だろう。

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会等の業界団体は「コロナ感染防止対策のガイドライン」を示しているが、これに準じつつ、各宿は独自の個性を発揮しはじめている。

 私自身がコロナ禍に訪れた中で印象に残っているのは、神奈川県箱根に9つの温泉旅館を持つ一の湯グループ。徹底したコロナ対策をまとめた「一の湯クリンリネスポリシー」という1分間の動画を見て安心感を抱き、6月末にススキの原一の湯を訪ねた。

 ナイロンカーテンが設置されたチェックインカウンター越しに、フェイスガードとマスクをしたスタッフが出迎えてくれ、滞在中の注意事項が書かれた紙を渡される。夕食時の席の配置も、スタッフの対応も十分な配慮がなされていた。

 業界大手の星野リゾートがコロナ対策を打ち出したのは、宿泊業の中ではおそらく最も早い3月半ば。その後も矢継ぎ早に対策を追加し、5月半ばには「最高水準のコロナ対策宣言」を発表した。最大の注目点は「大浴場の混雑状況がわかるアプリ」を独自に開発したことだろう。

■自分たちで学びながらガイドラインを作成

 温泉地全体でコロナ対策に取り組んでいるのは、兵庫県城崎温泉。4月の緊急事態宣言で日本の旅館の約9割が休館している最中から検討を重ねたのだという。

「旅館や飲食、物販の組合長が集まり、感染症専門医を囲んで話し合いを重ねました。自分たちで学びながら作ったガイドラインですので、完成した時点でその意味を深く理解していました。他人が作ったガイドラインを守るのとは違います」

 こう胸を張るのは、城崎温泉観光協会会長・高宮浩之さん。温泉街を歩くと、緑で縁取りされた「城崎温泉の新型コロナ対策」というポスターが目に付くが、その内容には細かな気遣いがきいている。

 たとえば、温泉は気持ちがほどける場である。温泉に浸かり、寛ぎ、食事をしてアルコールも入る。最もリラックスするからこそ、温泉旅館は本来、最もマスクをしたくない空間だ。特に湯上りのマスク着用は息苦しい。そこで城崎温泉では浴衣に似合う和風柄のマスクを制作。浴衣で温泉街をそぞろ歩きするのが名物の、城崎温泉らしい工夫だ。私も朱色の地に黄色や緑色の細かい幾何学模様が入ったお洒落なマスクを着用してみたら、自撮りがしたくなった。冷感仕様だから湯上りもさほど苦しくない。

 コロナ前は「お客を至れり尽くせりでもてなしたい」という女将やスタッフの心配りこそが、温泉旅館の魅力だった。しかしコロナ禍では、スタッフとお客の距離の取り方が難しい。ましてコロナ感染拡大中の時には『三歩離れて 一歩前へ』という新潟県の旅館やホテルのおもてなしは行き届いている。

「コロナ禍でお客様をもてなす距離感を言葉で示しました。また新潟県で制作したピクトグラム(アイコン)を一覧表にして、お客様に一目でコロナ対策を理解して頂けるように『対策の見える化』に力を入れています」(新潟県旅館ホテル組合専務理事・金子春子さん)

■武漢からの帰国者を受け入れたホテル三日月の対策

 最後に忘れてはならないのが、千葉県勝浦温泉ホテル三日月。覚えているだろうか。1月末、191人もの武漢からの日本人帰国者を経過観察のために受け入れたのが、ホテル三日月だったことを。

 当時、コロナウイルスはまったくの未知のものだったが、近隣の亀田総合病院感染症科の監修のもと入念な対策を行い、帰国者からもスタッフからも感染者を出さなかった。現在はさらにブラッシュアップした「新型コロナ疫病対策7ポイント」を実施しているので紹介しよう。

●全スタッフ亀田総合病院コロナ対策講習受講済
●全店玄関AIサーモグラフィーで体温確認
●全客室にスプレー式アルコール消毒液完備
●全フロントにアクリルボード等の感染防止体制
●フェイスシールドから笑顔
●全スタッフスプレー式アルコール消毒液必携
●食事会場の全テーブルにスプレー式アルコール消毒液完備

■都内・旅館澤の屋で「ワーケーション」

 リモートワークの普及を逆手にとって、新たな旅館の利用法として注目が集まっているのが「ワーケーション=観光地でテレワークを活用し、働きながら休暇をとる」という考え方だ。

 実は、本原稿は、東京都台東区谷中にある旅館澤の屋で書いている。

 澤の屋は外国人観光客を受け入れて40年。コロナ蔓延により、ぱたりと外国人観光客が来なくなり、現状は前年度比7割減。海外の顧客からは「いまは澤の屋に行けないけれど、頑張って」と励ましの手紙が届くという。

「またお客さんが戻ってきてくれる時までふんばらないと」と、日本のインバウンド受け入れの先駆者である当主の澤功さん(83歳)が導入したのは、日帰り入浴(貸切風呂1組45分500円)とリモートワーク用の日中の部屋貸しだ。

 リモートワークは午前9時〜夜7時まで1部屋3300円。館内はWi-Fi完備で、コーヒーとお茶のサービス付きのロビーも使用可。追加料金なしで貸切風呂にも入れる。

 旅館澤の屋がある東京下町の谷中は、美味しいご飯処にも恵まれ、街歩きも楽しい。仕事の集中力が途切れた時には、30分程谷中を散策した。また、ここの風呂は温泉ではないが、広い日本庭園が見えるのでほっこりする。

 私は普段、日本中の温泉地を巡って取材しているのだが、都内にいながらにしてまるで旅に出たような気分となった。家族がいて泊りがけは難しいけれど、日中だけ気分を変えたいという人にもおすすめだ。

■川端康成も温泉旅館で原稿を書いていた

 そもそも旅館は、集中して仕事をする場としてアリである。

 新潟県越後湯沢温泉・雪国の宿高半は、川端康成が『雪国』を執筆した宿として有名だ。川端が滞在した「かすみの間」も保存されている。「川端康成も原稿を書く合間に、近くを散策していました。まさにワーケーションですよね」とは高半54代目の高橋五輪夫さん。高半のかけ流しの温泉「卵の湯」は川端がたいそう気に入り、妻に充てた書簡にそのユニークな描写がある。

 では、現代的な「ワーケーション」に向いているのはどんな宿だろうか。私の経験をもとに、おすすめの宿を挙げてみたい。

■温泉旅館で仕事をする最大のメリット

 私は長年、「ひとり温泉」を提唱してきた。温泉宿は複数人で泊まることが前提になっている宿も多いが、ひとりでも気兼ねなく寛げてワーケーションにもいいとなれば秋田県新玉川温泉。2018年のリニューアルでシングル50部屋を新設。白木を基調としたロビーは洒落ていて、まるで山岳リゾ―トホテルのよう。ただもともと湯治向けの温泉地ゆえ、《仕事重視》というより、《体調管理を目的としながらワーケーションもしたい》という人に適している。

 温泉旅館で仕事をする最大のメリットは籠れることである。外からの誘惑や刺激がない分、集中できる。それは内観する時間となるから、考えを掘り下げるにはいい。宮城県蔵王の中腹に佇む一軒宿の秘湯・峩々温泉では、暖炉があるこぢんまりとしたロビーに陣取れば、仕事がはかどる。目の前に広がる切り立つ岩肌を眺めるとストイックな気分にもなり、2〜3日籠ったら、様々な案件が片付く。オーナー夫婦の適度な距離感も嬉しい。基本は放っておいてくれるが、人恋しい時にはコーヒーを淹れながら話し相手になってくれる。

 大分県湯布院温泉由布院玉の湯にあるライブラリーが好きだ。古い雑誌が並べられた重みのある空間は実に落ち着く。降り注ぐ光が、庭の緑を輝かせる。仕事に飽きて古い雑誌を広げたら、ふっとアイディアが浮かんでくる。コーヒーやクッキーのサービスが置かれてあるのも好ましい。

 さらに「寛ぐ空間と仕事する空間をくっきり分けられたら、気持ちの切り替えができてベストだな」と思っていたら、そんな所があった。兵庫県城崎温泉西村屋本館の横に、2019年に誕生したさんぽう西村屋本店だ。食事処とお土産屋の上の2階に、「さんぽうサロン」というテーブルと椅子が並んだフロアがある。1回1000円、1日2000円で利用でき、Wi-Fiと電源が完備され、スナックブッフェ(有料)もある。宿泊する西村屋本館が「寛ぎ棟」、こちらが「仕事棟」という、まさに理想形なのだ。

■温泉地の新しい活用法「ワーケーション」は定着するだろうか

 2020年、環境省の「国立・国定公園・温泉でのワーケーションの推進補助事業」として、全国からの応募数3倍の倍率を競って、現在30カ所強の温泉地が採択された。その中のひとつが福島駅から車で40分程の所にある土湯温泉だ。

 10月27日〜30日に開催された「福島県土湯温泉でワーケーションモニターツアー」の初日に私は基調講演を行い、「ワーケーションしたい場所・環境」の条件を左のように提案した。先述した過去の体験をもとにまとめたものだ。

●解放的な気持ちになれる眺めがいい場所 
●リラックスできるいい香りがする
●健康的な気分になれる自然光が射す 
●疲れすぎない温泉入浴ができる
●毎晩よく眠れる環境
●電源とWi-Fi完備
●コピー機等事務機器があるとベスト
●「仕事棟」と「寛ぎ棟」がある(オンとオフが分けられること)

 参加者の9割が、東京都在住の出版社勤務、学生、福島市在住の公務員、占い師など女性だった。

 国立公園の女沼でサップやカヤックを体験したりしながら、各自仕事をするという旅程。「電源とWi-Fiがあれば、温泉地でも仕事できるね。そこに美味しいスイーツがあれば最高」などと言い合う女性参加者の表情を見ていると、ワーケーションが定着するには、そもそも旅好きが多い女性たちに、居心地のいい空間を用意できるかどうかがポイントだと感じた。

 脳科学者の茂木健一郎さんが以前、こう話していた。

「お風呂に入ると感覚遮断の状態になる。要するに、外からの刺激に注意を向けなくてもいい状態になると、脳のデフォルト・モード・ネットワークが活動し始めてメンテナンスをするんです。この時に、気になっていたものの処理できなかったことを整理できます」

 リラックスできるから、仕事がはかどる。すなわち温泉とワーケーションは最良の組み合わせと言える。

(山崎 まゆみ/週刊文春WOMAN 2021 創刊2周年記念号)

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