金儲けの話なら断ろうと思っていた…日本一イノベーティブなサウナ「サウナラボ 」がついに東京進出する理由

金儲けの話なら断ろうと思っていた…日本一イノベーティブなサウナ「サウナラボ 」がついに東京進出する理由

何かが始まりそうな気がする看板

 サウナラボ。名古屋と福岡に店舗を構える世界屈指のフィンランド型サウナ施設。そのサウナラボがいよいよ東京に上陸。これは全サウナーの間で今年最大のニュースといっても過言ではない。

 小学館や集英社が立ち並び新旧のカルチャーが交錯する街、東京・神田錦町。駅に降り立ち、名店が並んだすずらん通りを尻目に学士会館を目指す。路地を一歩入ると、クラシックながらもどこか真新しくモダンな看板が目に入る“神田ポートビル”。そう、「サウナラボ神田」が入居するビルである。

 古いビルをリノベした外観には、アーティストの作によるおしゃれな看板が掲げられ、開かれたガラス張りの入口には写真スタジオ、中に入れば色とりどりのサウナグッズや書籍が楽しそうにディスプレイされている。カフェも併設されており、軽食や“サウナブレンド”の珈琲を楽しみながら一息つけるスペースになっている。地下に降りれば、日本随一の品ぞろえを誇る世界のサウナグッズ売り場“サウナマーケット”が。いやがおうにも興奮が高まる中、いよいよ念願のサウナラボ神田が全貌をを現す……。

 今回はサウナーなら知らぬ者はいない“サウナ界のゴッドファーザー”、ついに東京進出を果たした ウェルビーの米田行孝社長 が再登場。

 果たして、サウナラボ神田オープンまでの道のりも、波乱万蒸だった……。

◆ ◆ ◆

■金儲けの話なら断ろうと思っていた

「最初のきっかけは、友人で写真家の池田晶紀さんに2年ぐらい前に呼ばれたことです。『神田にサウナを作りたい』と。これがもし、いわゆる不動産開発的な、金儲けにかかわる話だったら最初から断っていました。名古屋のサウナラボをやった時に、色んな大手デベロッパーから『サウナ今流行ってますよね。サウナ作ったら面白いと思うので、ご出店いただけませんか?』みたいな話がイヤというほどあって。そんなの全部放っておけ、全然やる気ないからって言っていた。中にはまじめなお話もあったんですが、そもそも拡大志向もありませんので、ご迷惑かけちゃうからと全部断っていたんです。

 だけど池田さんや建築家の藤本さんや安田不動産さんのお話を聞いてると、ここをリノベーションして街全体を変えていきたいという話だった。サウナで街が変わっていくということは一貫してやりたかったことなので、これはちょっと違うなと思ったんです。この街が変わって、東京の人が変わって、そして日本が変わっていった結果、世界が変わっていくみたいなことが、サウナでできる可能性がある。うちのサウナに来てもらってととのった人が、それぞれの場に帰っていって、そこをまた変えていく。そういうことをしたいと常々思っていたので。

 建設費用についてはある程度、負担していただけるという話もあったので、それも大きかったですね。ただ、安田不動産さんのバックアップがあるとはいえ、運営は我々がやりますから、当然リスクもあるわけで。その中で、『よしやってみよう』って最後に思えたのは、街でのストレスを解放する自然のサウナを一番必要としているのは、東京の人達だと思ったからなんです」

■東京の人にこそサウナが一番必要

「サウナラボのコンセプトは、街にサウナという木を植えて、森を育てて、みんな元気になってもらう。地方みたいに自然が近場にあって、ある程度ととのえられる環境にいる人たちはそこまでではないけど、東京の環境はストレスがすごく大きい。我々が常々“サウナが果たす役割”ということを語っている以上、東京の方々に少しでも“サウナという木”を植えてあげたいという思いが一番強かったんですよね。

 また神田錦町という土地もすごく意味がある場所でした。“街にサウナという木を植える”という意味では皇居にほど近く、北の丸公園など都心部にしては珍しく自然が多いこの場所。最初は神田の事を全然知らなくて“皇居の近く”くらいの感覚だったんですよ。工事が始まってここに通うために神田明神から坂を下っている時に、なんか(フィンランドの首都)ヘルシンキみたいな心地よさを感じて。この街に来るだけでも十分近場に自然があって、ととのう場所が沢山ある。駅前の喫茶店に入ると、学校の先生をリタイアしたみたいな人たちが雑談しているんですけど、人も言葉も面白いんです。本質的な東京らしい東京がここにはあって。

 だから、この街に僕らみたいな新しい種が入ることがきっかけで化学反応が起きて、世界が広がっていくといいなと。東京のイメージって高層ビルとクールジャパンみたいなのが先行していますけど、ここには“人”という本当の付加価値があるということに気づいて。もっとみんながそういうことを考え、感じるためにもサウナがこの街には必要なんだなと確信しました」

■サウナラボ神田で未来の日本のドアを開く

 高度経済成長を経て資本主義が行き詰まりを見せる中で、おりしもコロナ禍に見舞われ、我々は生活習慣の変更を余儀なくされた。そんな中、新たな価値観を生み出していこうという層も増えている。ライフスタイルの大きな転換点においてサウナの果たす役割、そしてサウナラボ神田に米田が込めた想い、それは……。

「糸井重里さんの『ほぼ日』もここから数分のところに、事務所を青山から移転しました。街が面白いからといってクリエイティブな人たちが集まってくると、また街が変わっていく。それって非常に都会的だなあって。東京が変わると日本が変わる。行き詰まりを迎えつつある日本社会が次に踏み出すための新たなドアを開くという意味でも、東京から変わっていくということが非常に重要なのかなと。自分ができることはサウナなので、体験しに来てくれた人たちが、それぞれの場所に帰っていって閉塞感のドアを開けてくれるんじゃないかってね。その力はサウナにはあるよね。

 それから特に女性に来てもらいたいと思っています。今の社会の閉塞感を変える原動力は女性なんですね。社会システムが変わるのはまだまだ時間がかかる、極端なことを言うともっとひどい目に遭わないと変えられない。本当はそんなんじゃダメなんですけど。女性は常に戦っているじゃないですか、現実と。だからサウナに入れば戦って負った傷もすこし癒えるんじゃないかなって。それでまた元気になって戦いに行ける。そういう安らぎの場所になればいいなと思うので。

もうひとつは過去からの延長じゃなくて、新たになんか生み出そうとしてもがき苦しんでいる人たちの安らぎの場になればいいなと。サウナに行けば良いアイデアが出るというわけではないけど、もがき苦しんでるからこそ、ガチガチに固まった精神がサウナでパッと解放されてアイデアが出てくる。老若男女関係なくそういう人たちにも来てもらって、結果的にサウナで日本経済を救うぐらいに思っていますからね。それはうちだけじゃなくて全サウナに言えることだと思いますけど」

 米田の話を聞いていると、いち経営者というよりは思想家、宗教家のような思慮深さと、慈愛に満ちた、世の中、そして人への眼差しを感じる。

■サウナはビジネスではなく“布教活動”

「フィンランドに行って、僕が実際に体験した“サウナの本質は自然と繋がる”ということを一番伝えたくて。僕がやっているのはサウナという宗教なので(笑)。経済活動じゃないんですよ。よく『ビジネスとしてどうですか』と聞かれるんですけど、『ビジネスじゃない、俺がやってることは』って答えてるんですよ。社会活動というか。『世の中をもっと心地いいものに変えたい、もっと人生心地よく過ごせるんじゃないか』ということなんですよ。力を抜きましょうという話。でも、そうすると逆にもっと力が出ますよね」

 サウナラボ神田には“自然とつながる”という米田の思想を体現した他に類を見ないサウナが存在する。日本で唯一の水の流れるサウナ室、「IKE SAUNA」もそのひとつ。暗く、ロウリュ音のみが響きわたるこの部屋は、なんと防水畳仕様になっており、まるで座禅の如く壁に向かい、自分と向き合いながらじっくり蒸される。このミニマル極まりない着想はどこからきているのだろうか。

「ここは昨年9月にオープンの予定だったんです。その時はIKE SAUNAは計画になかったんですが、コロナになり色々延期になった時に、家族で金沢にある日本の禅を世界に広めた鈴木大拙の記念館に行ったんです。谷口吉生の素晴らしい設計で、その鈴木大拙館に水鏡の庭というのがあるんです。一面の水の庭に定期的に波紋が発生するんですけど、そうすると水面はいったん乱れ、また元の静寂へと戻っていく。けれど水は、一箇所にはとどまらず絶えず変化しているから、先ほどまでの景色とは違うんです。それを座禅堂みたいなところから眺めたときに、『あっ、これ自分が思ってた絵だ』と。『ここには唯一サウナだけが足りない』って感じて。それで作ったのが、あのIKE SAUNAなんです」

「薄暗いサウナ室の中で、水のきらめきや、流れを感じる。水面には丸と四角の照明が映り込んでいる。それをボーっと見ながら蒸される。思う存分自分の世界に浸ってもらえるようになっているんです。というのも僕自身がサウナに入ることを、常に自分との対話であり、座禅と似たような感じでとらえているんですよ。禅は宇宙と、サウナは自然とつながるという。熱いところに繰り返し入って、座禅の様に座ることによって、背筋も通り呼吸もととのっていく。さらに壁向きに座ることで、より自分の世界に没頭し、五感が研ぎ澄まされ、自分を違うところから見つめることが出来るようになっていくという」

 自然とつながる。「街に木を植えるようにサウナを作る」と言っていた米田は、ついにサウナの中に生きた植物を植え始める……。

( 後編へ続く )

INFORMATION

SaunaLab Kanda
サウナラボ神田

住所 東京都千代田区神田錦町3-9
営業時間 11:00-21:00
料金 ¥2,700 
※90分完全予約制(事前決済)
※最新情報は公式HPをご確認ください。
http://saunalab.jp/kanda/

「最終目標はサウナのない世界」都会の真ん中で自然に包まれる「サウナラボ神田」の思想 へ続く

(五箇 公貴)

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